未知の模擬戦 15
【???視点】
「ねえ、ぼちぼち始めてもいいんじゃない?」
「おう…そろそろ引っ掛かり始める頃合いだし、始めるか」
「そんなわけで、事前に仕掛けたやつ、起動させてくれるかな」
「へーい…」
校舎に入ってすぐ俺は二階の指定場所に辿り着く前に可能な限り陣を敷き、時間が許す限り三階にも少しだけ陣を敷いた。そして放送が流れて数十分経った頃、ついに二人から作戦開始のお達しがきた。
この右手にあるマーカーは、モールの武器屋で売っているガラス混合性マジック。透明で目立たなくて、俺の能力と相性ぴったりなアイテムだ。なぜなら俺は俺が描いた円の範囲のものを好きなタイミングで爆発させることができる能力を使える。名無先生によると『炎』に分類されるらしい。ようはまあ、地雷的なものである。
大会前でもマーカーで描くだけなら能力と判断されないから、抜け穴というわけだ。奇襲にもってこい的な。
(セコイ気はしなくもない)
とにかく言われた通りにしなくては。集中して目を閉じて、仕掛けた罠を…能力を発動させた。静かだった校舎に、早速爆発音が轟く。
「…え」
お、俺の真上でかかりやがった!!よりにもよって!そういや丁度この上に時間ギリギリで敷いた陣あったっけなあ!!
───罠を作動させたタイミングで、たまたまその場にいた奴らがそれを踏んで、瓦礫を伴って、俺の真上に落ちてくるなんて…緊張のあまりそこまで思考が回らなかった。にしても運悪すぎでは?もう帰りたい。
(いや、このまま潰されればワンチャンリタイアになるかも)
落ちてくる瓦礫がスローモーションのようだ。ぼんやりとそれを見つめていると、風を切る音と衝撃が体を襲った。
「いっだい!ちょっと!加減!」
「るせえ。ボサっとしてんなよ、死にてぇなら別だが」
「ぐう…た、助かりました…ありがとうございます…」
「うんうん、良い仕事したね、灯屋。おかげで早速ひとチーム見つかったよ…さ、あとは裂記くんと僕に任せて」
間一髪、赤髪の怖い仲間がそのクソ長い御御足で見事に横に蹴っ飛ばしてくれやがったおかげで、俺は瓦礫の下敷きにはならず壁に顔面からめり込んだだけで済んだ。いやこれも普通に痛えんですけど。ニコニコ笑う仲間もなんか腹立つ。もうお役御免ってことですねわかります。いつも思うけど本当に仲間か、こいつ。
とりあえず痛みを堪えながら振り返る。さっきまで俺がいた場所には、三階の抜け落ちた床の瓦礫と、おそらく見えない何かがいた。
(瓦礫の上…かなり質量ありそうだし、海野の光学迷彩系の結界っぽい…?つーか裂記さん、助けるにしても加減してくれよマジで…あー帰りたい)
それにしても、まさかこんなに早く敵とカウントするとは。学校内でも最強と謳われているチーム『氷の国』が参戦すると知り、模擬戦が始まるまではどのチームも慎重そうな雰囲気を出していた。だからこそ俺の予定では、今のうちにできるだけもっと多くの陣を敷きたかった。敵の場所がわかれば対策もしやすいから。
今回はうちの方針も安全性に舵を取ったのだ。なんといっても裂記さんは過去に何回か、あのチームに痛い目に合わされているらしいから。
(…まあ、俺の能力的に今回は十中八九ここまでだな。よしお役御免。あとはあの二人がなんとかするでしょ…強いんだから)
───黒髪の男は密かに溜息を静かに吐いて、前を向いた。その瞳は少し哀愁を帯びており、その右手には弱々しくマジックペンが握られていた。
【チームPASS視点】
「…った、なにが…うわ…!?」
急に廊下が爆発して床が抜け、二階へ落ちたということは理解している。落下の際に変なところを捻ったのか、左腕に僅かなピリッとした痛みが走った。しかしそれ以外に痛みはない、海野少年の物理防御結界が間に合ったらしい。
落下時に反射的に閉じてしまった目を開くと、そこには、地獄と形容するのに相応しい光景が広がっていた。周囲一帯が瓦礫と火の海に包まれている。見覚えのある髪と顔と、炎を纏った鞭でこちらを攻撃してくる影。
すぐ近くで緊迫した声が響く。
「全員無事だな?!?!俺たちは今、チーム『炎衆』の罠を踏んだ!佐原井、灯屋という黒髪の男の能力だ!お粗末だがギリ光学迷彩、防火、防音、対物理結界が間に合った、が、相手のチームリーダーはあの神楽 裂記、高火力すぎて結界が4つともあと数十秒も持たねえ!俺も神経がはち切れそうだ…っ!なんだよ4つとか無理だから!!全員緊急態勢!結界が切れたらあとは頼むぞ湖礼!!」
「はーい!結界が消えたらボクが裂記くんの炎を音で消すよ!あとは作戦Sだよ、みんな!瓦礫は気合いと根性で乗り越える感じでヨロ!」
「頼んだ!それとよろしくない報告、無茶したからしばらく結界を張れそうにないわ、十分くらいで回復するから、それまで自己防衛も忘れないでくれ…!秋山はフォローを!」
「「「はい!」」」
切迫した空気の中、凛とした海野少年の声で冷静さを保つことができた。突然の爆発からの落下、その時に咄嗟に結界を張ることができた…それだけで十分彼は優秀だ。例え数十秒でも、呼吸を整えることはできるのだから。
そして何か考える素振りをしてから、徐に竹也少年が口を開いた。早口で彼は言う。
「佐原井先輩、神楽先輩の相手は間違いなく薫くんになります。ので、灯屋先輩は自分が抑えます。といってもあの人は陣を描く暇を与えなければ良いだけですので、『引力』で床に潰して秒殺かと。今攻撃してきているもう一人の男…春戸先輩は、少し厄介かもです。『炎』を鞭に纏わせて攻撃してきます…レンジが広くて、近距離から中距離くらいかな…いけますか?」
「めちゃくちゃビシビシ叩いてきてる人だよね、なんか強そうだしサドっぽい…じゃなくて、やる!やります!!」
「すぐにフォローしますし、あまり力まないで下さいね。チームですから」
「そうね、俺もできそーなことあったらやるから、三人ともふぁいおー!ほら、丁度、床の残骸もあるし…ね!」
そんな話をしているうちに、とうとう結界にヒビが入った───
「…ムリ、頼む!!」
「まっかせてー!ほいっと」
バリン、と結界が破られた刹那に、共鳴───湖礼少年が指をパチリと鳴らすと、辺りを焼き尽くさんと轟々と燃えていた焔は、幻のように一瞬で音もなく消えた。同時に飛び込んできた影がある。湖礼少年はそれを『風』で軌道をずらして避け、局所的な突風で吹き飛ばそうとして…
「うわっ?!ビックリしたあ!いっつも炎一辺倒の裂記くんが、まさか飛び出してくるとは、ねー」
「…ま、消されるのはわかってるからな。あとはフィジカルしかねぇ…だろ!」
「よっと…しかもなんか、風飛ばしても全然飛ばないなあ…あっなんか付けてる!?オモリとか!ずるーい!」
「テメェとやり合うのも想定済みだから、なァ!ったりめえだよオラァ!!日頃の鬱憤晴らしてやる、ちょこまか避けんじゃねえ!!」
「やーだ!当たったら痛そうだもん!えーい!…イヤホント飛ばないね?!良い対策だねえ、んじゃ今度は『音』で…」
「チッ、このチートが…!」
あっちはなんだか楽しそうな湖礼少年に任せるとして、問題はこちらだ。結界が割れた瞬間、鞭を構えつつ攻撃する手を止めた。絶好の攻撃チャンスのはずなのに。何故…?探るようにじっと見てくる男…春戸、といったか。いや、今は考えるより行動!と俊輔は先手必勝とばかりに真上から雷を堕とした。が。
「待って、ちょっと。気になることがあるんだけど」
「え、は、はい…?」
「何個か質問良い?」
炎を纏った鞭に弾かれた。いとも簡単に。しっしっと猫でも払うかのように。雷を。




