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PASS!  作者: 寛世
第3章
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未知の模擬戦 17





 ──それは、轟轟と燃え盛る(ほむら)を纏った、鞭だったはずの禍々しい(つるぎ)。驚くことに、彼の掛け声と共にそれはひとりでにその手の中へと収まった。あらゆる物理法則を無視したような動きに、とてつもない悪い予感がする。あの剣には意思があるのか?それともそう在ることが自然体なのか?

 赤い焔を撒き散らす剣とそれを持つ少年の姿を見て、全身に嫌な汗が伝うのが自分でもわかった。とてもじゃないが勝てるビジョンが見えない…


(というか、なんで俺は質問に答えたんだ…!)

「フフ…応えてくれてありがとう。じゃ、行くよ?」


 …あの剣に少しでも触れたら、文字通り全てを燃やされるのではないか──?

 そう思った刹那、容赦なく彼が剣を振るった。



「──っ右に!!」

「っ!!」

「ひええ!うひゃっ…!しぬう!」


 海野少年の叫び声で、俊輔と秋山少年は反射的に瓦礫を押し除け廊下の右側へ飛び退く。三人はなんとか間一髪で()()避けることに成功した。秋山少年は半泣きになりつつも、次の攻撃に備えて足場を整えている。綺麗な金髪が少し焦げていた。掠っていたらしい。


「…マジかよ」


 海野少年が小声で呟く。高速で飛びかかってきた複数の炎の刃は、命中した箇所を爆音と共に吹き飛ばし瓦礫ごと灰燼に帰した。もし生身に当たっていたらどうなっていたことか、想像に難くなかった。


「おお、初見で躱すとは!長年の経験者なだけある…にしても、やっぱり強いんだねえ、この剣。というか、技?道理で使用に制約があるわけだ…こうして持ってる僕も焼かれそうだよ…というか、実際に焼けているからあまり時間をかけられないみたいだ」


 少年はよく喋りながらも笑っている。彼の剣を握る手をよく見たら、確かに煙のようなもの上がっていた。己の手さえ焼くのかあの剣は…!というか己を傷つけるなんて、そんな能力もあるのか…?!

 考える暇などなく、栗茶色の髪の少年が再び剣を斜めに構えた。第二波が来る!


「ちっ、衝撃波と炎だけであれとか…やべえな!」

「な、なんなな、もっかい来そうな」

「わかってる、とにかく絶対に前から視線を外すな」

「は、はい…!」

「ちょごめ、俺ダメかもコレは無理ゲーだわ!俺あの人とそんなにバトったことそんなにないけど、こんな裏技持ってたとか知らねーし!アレに触れたらオワリよガチで!!」

「わかってるし俺も知らねえよ!知ってたらもっと念入りに炎対策してたわクソが!」

「じゃあもう無理じゃんすか!!」

「るっせえ泣き言言うな!!最後まで諦めんなよ!!お前は戦場で命乞いすんのか?!」

「するかも!!!」

「おい!!!」

「噂に違わず熱いタイプなんだねぇ、海野くんって。まあ、金髪の君がそう言うのも無理はないよ。なんせこれは、今回の大会で初めて使ったから…ふんっ」


 彼は、右手に構えた剣を俊輔たちのすぐ左側に向けて力を込めて()()()()()()。先程と同じく、その場所を目掛けて空中に振り下ろしただけ。だというのに、廊下は恐ろしい早さで地割れを起こし、そこかしこから火柱が上がった。三人はそれを見て瞬時に顔が真っ青になり、唖然とした。シミュレーターで想定していなかったものがきてしまった…破壊力が桁違いすぎる…!


「うん、調子はいい感じ…早めに習得できて良かったな。実戦だとこんな感じなんだ…さて、次はこれはどうかな?」


 さらに少年が、横に薙ぐように剣を振るう。

 海野少年が再び叫んだ。


「伏せろ!!っうぐ!!」


 男は俊輔たちがいる場所の空中に、()()剣を振るった。海野少年が咄嗟に拳を握り対防焔結界を展開したおかけで、俊輔たちは無傷だった。しかし、すぐに結界にヒビが入る。頭上では解き放たれた焔が横一直線に爆発を伴って炎上し、衝撃波と合わさってさらに小さく爆発を起こしていた。結界がもし間に合わなかったらと思うと…三人とも顔色は青くなる一方だった。


「お、重てえ…!クソ、維持もきちぃわ…」

(海野くんでも防ぐのがギリギリ…!こんなのどうしたら…!俺の雷じゃ炎に対応できないような、なんか余計に燃えそうな……せめて本人に隙か、近寄ることができたら…まだ!)


 苦しそうに結界を解いた海野少年と顔色の悪い俊輔たちを見て、少年はにっこりと笑って再び構える。そろそろとどめを刺そうかと、幻聴が聞こえてきそうで俊輔は眩暈がした。


「なにあのなにあのなに?!振るだけで空間そのものに炎とか爆発とか地割れ起こしてるよね?俺の視力が急に下がった?それともチート??」

「はは、ありがとう」

「ハー?別に褒めてませんからぁ〜〜!!薫っちはあっちに付きっきりだし、自分リタイアいいすか?!」

「落ち着け秋山!向こう側は湖礼と神楽先輩がやりあってる…この人の能力相手に撤退は正直厳しい…が、リタイアは認めねえ…情報集めの時間だ!負けるとしても、経験を積む!…とりあえずあの剣だ、剣を壊「嘘でしょ?!」っせえ!!佐原井、竹也ぁ!行けるか?!」

「はい!こっちは行けます!!」

「は、はいい!やるだけやります!!」

「おっと、そういえばもう一人いたんだった…灯屋は…リタイアか。君は『引力』が使えるんだよね…厄介だなあ」


 海野少年に名前を呼ばれて俊輔の肩が跳ね上がった。同時に気合いも入り、竦む足をなんとか立たせる。

 手が震え、足元も頼りない。喉が異様に渇く。ああ、熱いからか。だって窓は溶けてるし、天井は抜け落ちてるし、廊下は瓦礫と炎に包まれてめちゃくちゃだ。さながら火焔地獄。せっかく、湖礼少年が炎を消してくれたのに。

 状況は間違いなく悪化している。


(…あの時、俺が、俺が質問に答えなきゃこうはならなかった…!なんで、なんで答えちゃったんだ、罠の可能性の方が高かったのに!)


 俊輔は、目の前の光景を見て、自責の念に駆られてた。それを察した海野少年の怒号が飛ぶ。


「佐原井、余計なこと考えんな!今は奴の剣を壊すことだけに集中しろ!武器がなければ使えないはずだ!俺がフォローするから、やれることをやれ!これ以上相手に時間を与えたら勝機はない!!」

「は、はい!!」

「秋山は?!」

「ハイハイやりますうううう!応援だけでもやりますうう、二人ともファイトーーー!!あ、ついでに()()もやっとくね効果あるかしらんけど!」

「そ、それは言わんくていい!」


 秋山少年の掛け声を合図に、俊輔と竹也少年は目線を合わせて同時に駆け出す。とにかく今、目の前の男を倒さなければ、この団体戦の先はない!たとえ倒せる可能性が低くても!今何もしなかったら、全員あの炎で消し炭にされることは間違いないのだから!

 …それも、俺のせいで!


「出し惜しみはなしです!『引力(グラビテーション)』全力解放!!炎ごと床に這い蹲れ!!」

「っわ…!?重力系は、これだから…!ぐう…お、重…!このまま、押し潰す気、だろうけど…でも、まだ、動ける!」


 竹谷少年の全力の『引力』で全身を床に張り付けられようとしていても、彼はもがきながら膝をつき耐え、右腕から左腕に剣を持ち替えた。そして引力により重く感じるようになったはずの剣を、なんとか振るおうとしている。その持ち替えた手も、音と煙を立てて焼けているというのに。


(……よし)


 ───俊輔は真っ直ぐに前から視線はずらさず、集中し、イメージをする。全身を光に変えるイメージを。光となって駈けるイメージを。シミュレーションで成功したことはないけれど。

 …大丈夫、一度できている。それなら、できる。


「そうはいくかあ!何回もやらせないってーの!くらいな!!」

「っうわ!痛、痛い!め、目障りな…というか、君たち、全員でかかってきたら、面倒だな!?

 それなら、一人ずつでも、確実に燃やす!!」

「ほわ?!こ、この、状態でも反撃できるとかありえな…!」

「大丈夫だ!任せろ!」

「サンキュー海野クン!」


 秋山少年がなりふり構わずその辺に落ちている瓦礫を次々と彼の頭上に落とした。重力が乗った瓦礫がガンガンあたり、少年は頭や腕から血を流している。その攻撃を受けてもなお、彼の瞳にはまだ熱が点っていた。剣の焔の出力を上げ、落ちてくる瓦礫を炎を纏わせ無数の火の玉にすると力づくで引力を振り切り、なんとか剣をぶつけ、秋山少年に向けて飛ばした。しかし、引力場で勢いが弱まっているせいかそこまでの威力ではないらしく、海野少年が簡単に結界で弾く。


「軽いな」

「くっ…やっぱ振らないとだめなのか…!ぐう…っ!」


 それを見て彼は苦々しい表情を浮かべた。まずは引力を使う竹也少年を燃やし尽くそうと、左腕と剣を無理やり持ち上げようとしている。


 ───つまり、()()()()で後ろに回り込んだ俊輔に気付いてる様子はない。視界から完全に外れた今がまさに好機だった。


「目の前の焔の剣を破壊しろ、俺の『雷』!ここに、墜ちろ!!」

「!?しまっ…レーヴ…あああああ!!」


 ───あちらが全てを燃やし尽くす焔なら、こちらは全てを打ち砕く雷。

 天井より特大の(いかづち)を、引力で床に這いつくばされ瓦礫でダメージを負っている彼…ではなく、焔の剣に向けて墜とした。ドォン…と激しい閃光と轟音を伴った迅雷が、焔の剣に命中した。そして焔の火力を上回る(いかづち)が剣を打ち砕いたその時、小さな爆発が起きた。それを持っていた春戸少年も、当然巻き込まれてダメージが入る。


「……こ、これは、やられちゃった、ね…気づかなかった…うーん、灯屋に謝らないと…ごめん、裂記くん先行っ」


 言い終わる前に、電子音と共に全身に火傷を負った春戸少年は消えた。焔の剣も粉々になって、空中に霧散した。元になっていた鞭も消えており、地獄のような焔も気がつけば消えていた。

 四人は、呆然と立ち尽くしたまま。大技を二連発した俊輔は足に限界が来て崩れ落ち、秋山少年はぺたりと瓦礫の海に座り込んだ。海野少年も廊下の比較的無事な柱に背中を預けた。


「…た、倒せた…?い、生き残れた…のか?」

「ああ、生き残れたよ…よくやった佐原井。秋山も竹也も。ガチでギリギリ、だけど、本当によく生き残った。あー…終わったら春戸先輩のデータ、探り直しだな…」

「はーい、そろそろリタイアいい?ほんと頑張ったじゃん俺!もう流石に良いでしょ?!」

「いや普通にダメだから。でも休憩はするか」



「…あの、先輩方。薫くんの決着がまだなんですけど」





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