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PASS!  作者: 寛世
第3章
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未知の模擬戦④



 現在の時刻は21:00。食事を終えた松院寺松也を除くチーム一同は、俊輔と海野少年の部屋に集合していた。俊輔にとって初めてとなる団体戦模擬試合「リーンフォース」の作戦会議のために。

 海野少年によると今日は竹也少年が中等部なこともあり、早めに解散するとのことだ。それはさておき、俊輔は内心落ち着かなかった。第三の地球(ここ)にきて既に数ヶ月が経過しているが、ルームメイトである海野茂樹以外が部屋に入ったのは、これが初めてだった。嫌とかではなく、なんだか友人同士の団欒のようで、少し浮き足が立つ。…作戦会議なのに。


「──って茂樹っちは言うけどさ。ボクらもまだまだ成長期なんですけど、バリバリなんですけど。眠たーい。寝ちゃいたーい」

「もー、まぁた年下可愛いがっちゃってさァ。俺らも可愛がれよ、じゃないとモチベ上がらんし」

「ねー。ああ、竹也は悪くないからね、茂樹っちがちょっとアレなだけだから。ほらこっちおいでよ、お菓子あげる!ボクのオススメは弾力性抜群色最悪味そこそこなこの月グミ!」

「はあ…ありがとうございます。でも要らない、月のお菓子は苦手なので」

「じゃあシュンスケにあげる!美味しいよ!」

「え…あ、ありがとう…」

「さっきからうだうだうだと…湖礼スナック菓子こぼすな!秋山飲み物こぼすな!毎回子どもかよお前ら…くそ、頭痛くなってきた…」


 他人(ひと)の部屋だというのに、買い込んだお菓子と飲み物を容赦なく溢しながら貪り始めた二人。そんなことをしたら部屋主の一人、海野少年が怒らないはずもなく。彼の顔はよく見なくてもわかるほどに青筋が立っている。しかも毎回と来たもんだ。こいつぁやばいぜ!しかし正直その気持ちはわかる、この部屋掃除するの俺たちだもんね…ここ俺たちの部屋だからね。俊輔の口元も引き攣っていた。

 そんな俊輔の手元には湖礼少年から手渡された不思議な形状の月グミとやらがある。初めて見たそれは不気味なグラデーションがかかった、どす黒い赤色で…丸くて…ツヤツヤした光沢があって…中に何か…10センチくらいの……


(………何?)

「それよりいつもの早く〜〜!いつまでお菓子タイムするのさ、ボク待ちきれないよ」

「まあまあ薫っち。俺さ、今回こそ表だと思うワケ。ぜったい表、表表表!表しか勝たん!はよやって、一思いに!さあ!」

「じゃボクは裏★」

「お前ら話聞いてた?自由人か?覚えとけよマジで……はあ、仕方ねぇな。俺も表で。竹也は?」

「裏」

「ん。佐原井もとりあえず…直感で好きな方選んで。あと月グミは一旦置いておいて」

「え、じゃあ…うーん、裏かな…」


 なんのことだかさっぱりわからなかったが、隣でスナック菓子(と思われるもの)をぱりぱり食べながら湖礼少年が、「すぐわかるから」とウインクしながら言うのでとりあえず選ぶ。月グミはティッシュを下に敷いて丁重に湖礼少年の近くに戻した。


「こっちが表面で、こっちが裏な」


 全員の選択が終わった瞬間、海野少年が学ランのポケットから一枚の硬貨を取り出し、表裏を確認する。それを親指に乗せ、軽く弾き、空中へ放った。硬貨は幾つもの軌道を描きながら、やがてすぐに海野少年の手に甲の上に戻る。視線が一点に集中した。

 硬貨の向きは…


「……裏ぁ〜〜?!またかよ!このコイン裏しかでねぇんじゃねえの?!三連続よ!?ちょっと海野クンまさかインチキ?!」

「誰がするか、そんな生産性のないこと」

「イェーイ当たったあ!やったね竹也、シュンスケ!」

「はい」

「えっーと…それで、これは一体?」

「団体戦の作戦の方向性を決めるやつ」


 ………。

 俊輔は開いた口が塞がらなかった。聞き間違いかとさえ思った。が、一拍置いてなんとか正気を取り戻すことに成功した。


「いやいや!待って、それ大事なやつでしょ?!そんな大事なものをコイントスで決めてるんです??!何故!?」

「気持ちはわかるが、まあ理由は一応あるんだなこれが。運がいつもでも自分たちの味方をするとは限らないだろ?当然そんな保証もない。不利な状況、条件下での戦闘も当然想定すべきだとチーム内で協議を重ねた結果……」

「団体戦は基本的に運任せになったのでした★」

「三回連続で裏だけどね!!俺は納得してないから!なんせ裏の作戦方向は『攻勢作戦』だし!!」

「ちなみに表は『防衛戦』、専守防衛です」

「なるほど…」

 

 俊輔は頷く。確かに今後のことを考えると、色々なシチュエーションでの経験をしておく必要はあるのだろう。というか必ず必要になる、ような気がしている。


(ああ、だから秋山くんは頑なに表を……攻撃向けの能力(アビリティ)じゃないから…?)


 以前に彼が、月で零した言葉が脳裏を過る。


『せめてもう一つ、役に立てるような能力が使えれば、前線に行けたかもしれないのに』


(……そうか、本人的には防衛の方が能力を発揮しやすい、のかな?いや、うーん、運用方法を変えれば攻めることもできそうな…)

 

 思考が深みに沈みかけた時、決まって海野少年の凛とした声が響く。俊輔はハッと顔を上げて彼を見た。


「そんなわけで。今回は『攻勢作戦』、まずはざっくり全員の意見を聞いてから方針を決めるぞ。

 俺の意見から。今回は佐原井がいるし、大胆に行っていい。アタッカーは佐原井、サブアタッカーは湖礼、竹也。後衛に俺と秋山。流れとしては俺と湖礼が敵をサーチしつつ警戒、標的を見つけ次第佐原井は強襲を仕掛け、竹也は範囲攻撃でフォローを。秋山は前衛と挟撃出来るように湖礼の運搬と戦闘の補助。俺は全員のフォロー、以上だ」





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