未知の模擬戦⑤
(なるほど…)
海野少年の作戦は実にシンプルで分かりやすく納得できる部分が多かった。愛用のB5のノートに手早く内容を簡潔に書き記す。当然のように俊輔はアタッカーだったが、それはもはや致し方ない、攻撃系の能力を持つ者の宿命なのだろう。今のままじゃ期待に応えられるような戦力にならないと思うけど…という言葉は飲み込んだ。
「意義あり」
間を空けずに湖礼少年が声と手を上げる。先程まで菓子に夢中になっていたとは思えないほど、いつになく真剣な眼差しだ。
「それじゃあセオリー通り過ぎるよ。チームの情報なんて簡単に調べられるし、能力だってもう大体は割れてる」
「まあな」
「真野くんなんかは直接仕掛けてきたしね。シュンスケの『雷』対策は絶対にされてるよ…というわけでここは一つ、それを逆手にとってもっと大胆に出るべき!」
「例えば?」
海野少年が眉を顰める。湖礼少年は待ってましたと言わんばかりに笑顔で続けた。
「まず前衛はボク一人!」
「ああ?!」
「海野クン一応聞いてあげて!一応!」
「そ、そうだな…どうにも頓珍漢な作戦を聞かされる気がして……悪い、続けてくれ湖礼」
(二人とも慣れてるなあ…)
「オッケー!サブアタッカーに茂樹っちとシュンスケと環っちで、後衛は竹也!まずボクが『音』でサーチして敵を見つけてすぐ撹乱&特攻するから、その隙にサブアタッカーが敵を撃破。竹也は攻撃を仕掛けてきた相手を、一瞬でいいからから『浮力』の能力で浮かせて!」
「ちょっとおおおお!!ハイ異議有り!なんで俺が前衛??!それは絶対おかしい!物と人をギリギリ浮かすことくらいしかできないんですけど?!」
「環っちの仕事はカンタンだよ?茂樹っちとシュンスケの移動サポートと、近くにあるものを相手に落として妨害攻撃するだけだから!」
「な、なるほど…!妨害と移動ならでき…なくもない…?うーん?」
「自分の浮力の能力は、半径20メートルほどです。後衛では頼りにならないかもしれません」
「それだけあればボクならすぐ追いつけるから大丈夫だよ〜!」
「はあ…」
(そういう問題でもないような)
秋山少年は悩み始めた。竹也少年は後衛というポジションに不安なのか、少し乗り気ではないように見える。海野少年は片腕で頭を抱えながら秋山少年を見た。
「案の定ヤバいのきたな。秋山的には?」
「そうだねえ〜…冷静に考えなくてもヤバい!俺の仕事はぜったい後衛向きなんだよねえ!却下!」
「ええ〜〜?環っちならノッてくれると思ったのになあー!」
「自分絡みのことは流石の俺も真面目に考えるよ!…あのさ、俺は何事もシンプルが一番だと思うワケ。プラベもミッションも模擬戦もね。だから薫っちの作戦は怖すぎるのよ、穴がボコボコな上ギャンブル要素が強いというか?つまり不確定要素がヤバヤバだし俺的にはナシです。───だからここはさ、アタッカーは薫っち、佐原井クン。後衛は竹也クンと海野クンと俺。これで良くね?前衛は攻撃に専念して、竹也クン海野クンはチームを守りながらサーチアンドデストロイ。できるよね?むしろ得意でしょ?ああ俺は状況確認、物と人の運搬担当で!」
「それじゃセオリー通りじゃーん!つまんなーい!うーん、でもまあシュンスケが初参戦だし、最初はオーソドックスな方がいいのかも…?」
「だいたい俺と同じ作戦だな。あ、一応確認しておくけど自分が楽したいだけ、とかじゃねえよな?」
「できればしたいけど!ただ、全体を俯瞰できる係も必要でしょー?前回の団体戦思い出してみ?」
「……そうだな。まさか全員別方向に走り出すとは…」
「あれはカオスだったねえ…瞬殺されたし…」
二人の顔がみるみるうちに悲壮感に包まれてゆく。一体、前回の団体戦で何があったのか。今度、聞いてみようかな…。それはそうと、秋山少年の案の、全体を俯瞰して情報を共有したり、状況に応じて指示を出す役は必要なのではないだろうか。
そしてその役は、『風』や『音』の能力を持つ湖礼少年が適役なのではないだろうか。
「この流れを見て聞いて、竹也はどう思った?遠慮なくどうぞ」
「はい。薫くんが言うように、佐原井先輩の『雷』対策はどのチームからもされているでしょう。その上で、経験を積む、と言う理由でアタッカーを推薦します。薫くんは『音』のサーチ範囲がとても広いですし、そして全体に『風』で情報共有できるのでメインではなくミドルアタッカー。海野先輩と、秋山先輩は能力的に後衛向きかと。僕はサブで、佐原井先輩のフォローが適役ですかね…」
「まあ、たしかにねー。ボクは基本的に中盤選手だし、竹也の案が一番妥当かも。うう、情報伝達より戦闘したい〜〜!」
「その気持ちはわかるが俺なんてどう足掻いても後衛なんだからな、口を慎めよ湖礼」
「あっごめーん!てへ!」
「よし殴る」
「どうどう!ほらまとめて海野クン、佐原井クンも竹也クンも眠そうじゃんか」
「僕はあと一時間は大丈夫です」
「俺もそんなこと…ちゃんとみんなの話、聞いてるよ…」
「ノートにミミズが這ってるけど。もう終わるからベッドまで頑張れ佐原井。
ゴホン、とにかくこれで方向性は決まった。明日から前日夜まで、毎日仮想戦闘をする!明日の午後はシュミレーションルームに集合!解散!」
「「「はーい」」」




