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PASS!  作者: 寛世
第2章
32/53

mission 1 : to the MOON④



 少年は端末を通して空中に浮かぶ地図を指差ししながら得意げに説明を続けた。俊輔は嫌な予感がして咄嗟に静止の声をかけたが、一歩遅かった。


「ちょっとま」

「今いるのがここ第一層の北区。北区は居住区が多いから人が多いんだよ。通行人とか見過ぎたら睨まれるから気をつけて!あくまで現地の学生を装ってね!それで地下には深層部っていう別の層があって、あ、月は深層部と第一層に分かれてるんだけど、深層部は月の偉い人が管理してるらしくて、立ち入り禁止だから近づいちゃダメだよ!

ボクらが調査するのはこの第一層の北区と、こっちの東区と西区!南区は調査範囲外!おっけーーーー?」

「すみませんもう一回いいですか!?」

「つまり上と下があって全部で五つに分かれてるのだー!」

「めちゃくちゃ端折った?!えっと、偉い人って?」

「月の総括管理者らしいよ!()()()調()()()()()()それっぽい人は居なかったし、一度も見たこともないけどね」

「一度も?」

「うん!一度も!」


 口元が引き攣った。湖礼少年は『風』と『音』の能力(アビリティ)を使える。その気になれば音速移動さえやってのける。要するにまぁ、入ったんだろう。立ち入り禁止区域とされている場所に。おそらく、何度も。

 彼の知的好奇心は尋常ではない。それは出会って数ヶ月しか経っていない俊輔でさえ嫌と言うほど知っていた。そんな彼が『月』の立ち入り禁止地区に入らないはずがなかった。


(いやいやセキュリティ大丈夫?というかバレたら普通にヤバいのでは?)


 聞きたい事が山ほどあったが、言葉が出てこなかった。どうやらそれが顔に出ていたらしく、少年が困ったように笑う。


「茂樹っちには多分バレてるねえ。でも、なにも言われてないし、大丈夫ってことにしてる」

「う、うーんそれは大丈夫…なのか?」

「ヤバかったらならすぐ教えてくれるって!()()()()()より、ボクとしてはチームのことを考えて欲しい」


 少年が地図を指差したまま、いっそう声を顰めて囁くように言う。


(チーム…そう言えば、そんなことを言っていたな)


 俊輔は出発前に宇宙船(シャトル)に乗り込む前の会話を思い出した。


『とうとう佐原井も任務デビューか。最初はみんな、簡単な定期的な月面調査から始まるんだよな』

『そうそう、懐かしい〜〜!人選が完全にランダムだから毎回新鮮なんだよねえ』

『携帯端末にいきなり日付と任務名と内容書かれたメールきてさあ、ビビるよな、まじで』

『ボクはワクワクしたよ、とうとう始まるんだ!みたいな!?』

『そんなんてめぇだけだ。普通は怖いから』

『ええーーそうなのお?!あ、そういえばシュンスケは所属するチームはもう決めた?』

『ご、ごめん、緊張してて聞き逃した…えっと、ミーム…ミーム?!』

『チームな』

『チームって?』

『任務や模擬戦は、個人戦よりも集団戦の方が多いんだ。暗黙の了解でどこかしらの集団に所属する必要がある。その集団をチームって俺らは呼んでる』

『そうそう、日頃の活動にわりと支障をきたすんだよねぇ。ソロプレーもありだけどほぼ百割勝てないよ』

『十割な』

『茂樹っち細かーい…とにかく人数多いと捌ききれないし、死角は生まれるし、限界があるんだぁ。まぁ使える能力(アビリティ)にもよると思うけど……で、ボクらのとこくる?!』

『こ、この流れは一体?!海野先生!』

『ただの勧誘な。ここ数日でかなりの数のスカウトがきてただろ?それと同じ。『雷』の能力は貴重(レア)だから、どこのチームも必死に人材集めしてんだよ』

『…………スカウト?』

『湖礼も言っ……きてない?』

『身に覚えが…ない…』

『いやバカなそんなはず…あいつらも超欲しがって』

『……あーーー!ボク閃いちゃった、シュンスケ、もしかして端末見てないんじゃ?!』

『端末…?あ、あー、あの携帯みたいなやつ?!そんなものもありましたね…任務の司令がきたショックでそれから開いてないし忘れてた!』

『お前マジ?!アレにはGPS機能と危険察知機能&自動で総括システムに知らせる機能もついてんだから絶対に持ち歩け!ってことは、今は寮に?』

『説明ありがとう!欲を言えばもっと早く教えて欲しかった!』

『それはすまんかった!つかお前も使い方くらい聞けよ!』

『いや本当に仰るとおり!と、とにかくとってくる』

『今からじゃ間に合わないよ、こういう時はボクの音速移動に任せて!鍵貸してくれる?音速いっきまーす………はい!』

『うわあああ早い!ごめん、ありがとう!助かった!いよっ、さすが音速の男』

『えへへへ、くるしゅうない!もっと褒めてー!』

『……さっきのチームの話に戻すけど、実は俺としてもぜひ入ってほしいと思ってる』

『え、な、なんで?』

『佐原井が入ってくれるとバランスが良くなる。ちょうど前衛(アタッカー)を探していたところ』

『うちはねー、攻守均一型で堅実に、チームワークを大切に安心安全が第一なチームなんだよ!』

『能力の訓練も別枠で作るし、今ならチームメイトからの的確なアドバイスやしっかりしたアフターフォローも付ける』

『『だから是非うちに!』』

『変な勧誘みたいになってて怖いよ!善処します』

『断り文句じゃねぇか。あ、スカウトはな、チームの方針を見て聞いてから決めた方がいいぞ』

『ボクはシュンスケにきて欲しいー!やだやだー、うちじゃなきゃやだー!!いーやーーー!!』

『湖礼うるせえ殴るぞ』

『めんご!』

『ったく、任務が始まる。そろそろ乗り込め』

『はあい!ちなみにボクはね、中盤選手!つまり、サブアタッカーだよ』


 一緒に戦おうよ、と、通り抜ける風のように少年が微笑む。そのまま風になっていつかもどこかへふらっと消えてしまいそう、そんな儚さがある笑顔だった。漠然とした僅かな不安が心に残る。


(……湖礼くん)



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