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PASS!  作者: 寛世
第2章
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mission 1 : to the MOON③



 遅れを取らないよう、必死に走る。足を攣りそうだ。こんなことなら、月面歩行のシュミレーターを念入りにやっておくべきだった。

 しばらく走り続け息も上がってきた頃、ようやく長い連絡通路を抜ける。眼前に分厚そうな扉が現れ、湖礼少年がこうやって開けるんだよー!と言いながら扉の大きなハンドルを反時計回りに回すと、ガコンとやや古めかしい音を立てて扉が開いていく。


 ───眩い光で、一瞬、目を開けていられなかった。それが地上の光だと気づくのに、少々時間を要した。

 目が慣れてきた頃、まず視界いっぱいに鮮やかなスカイブルーが広がった。次に、俊輔がよく知っている街並みが飛び込んでくる。それは記憶の中のものよりやや古く感じる自動販売機や初めてみた線路、マンション、小さな商店、車、信号機。


(…なんだこれ)


 ここが月の中だとは俄かには信じられない。そんな風につい自分を疑ってしまうほどの、少し懐古的な、

普通の日常があった。


(しっかりしろ、ここは地球じゃない、月だ)


 ふと後ろを振り返ると今しがた出てきたはずの扉はなく、ポツンと自動販売機がそこに静かに立っているだけだけだった。


「えっと、これは…出入り口を、迷彩で隠してるんだよな?」

「せいかーい!慣れてきたね?シュンスケ!自販機(よくあるもの)ならそこら辺にあっても怪しまれないからさ」

「まあ確かに…」

「あ、大事なことを言い忘れた!あのねシュンスケ、月人(ルーナ)はルーツは地球人だしボクたち能力者にも表面上は友好的だけど、全面的に味方ってわけじゃないんだ」

「えっと、どういうこと?」

「歩きながら話すよ、とりあえずあっち行こう」


 少年は足を動かしつつ何か考えるように腕を組み、少し唸る。言葉を選んでいるんだな、と俊輔は漠然と思った。湖礼少年は少し考えたあと、声を顰めつつ説明を始める。


「んー…月人(ルーナ)は月で覚醒した人が出たら、すぐ第三の地球に輸送してくれる。地球を取り戻すための戦いに協力する、そのための能力者だからね。ただ、ほかの月人(ルーナ)は…能力者以外はもう、()()()()()()()()()なんだ。月を戦場にしたくないし、地球なんて知ったこっちゃない。関わりたくないんだよ。そんなわけでムーンベースの存在も、一部の月人(ルーナ)しか知らないらしい」


 時折悲しげに、最後は満足げに説明をして湖礼少年は両手を伸ばして背伸びをする。

 俊輔はその言葉を聞いて、父に貰った古びた本の内容を思い出していた。たしかあの本には「地球人の一部は月に移住した」という記述があったはず。だが今の少年の説明では、何かが頭の中で引っかかった。疑問符ばかりが思考を埋め尽くす。終わりのない迷路にでも迷い込んだ気分だ。


(月人(ルーナ)たちは、地球を取り戻すために協力しているわけじゃない?『能力施術法』はたしか重力の関係?で月では普及しなかった、とか書いてあった……重力と施術の因果関係はわからないけど、月での生活に思いの外満足することができて、あえて普及させなかった?()()()()()()()()だけ?地球がなくとも生活ができるまで開拓できたし、倫理に反するから?……とにかく、移住してすぐ施術されて覚醒した月の能力者だけがここでの味方で、ほかの月人にとって俺たちは、月を戦場にする可能性がある厄介者、ってことになる。

だからこうやって、目立たないように動いてるのか?この月面調査の任務って)

 

 ───本当は、月の謀反者(裏切るかもしれない人)を探すことが目的だったりして…


 俊輔が思考の海に浸った時、先ほどとは打って変わった一際明るい声で少年が口を開き、俊輔の肩がびくりと跳ね上がった。


「いやあ〜〜〜、にしても月の空はいつ見ても綺麗だなぁ、まあ投影による作り物なんだけど。あっ、ねぇねぇ!地球もこんな感じなの?!色とか雲の形とか、違ったりする?!」

「えっと……地球の空は、うーん…そうだなあ」

「うんうん!」

「俺が知ってる空はもっとこう広くて、こんなに透き通るような水色じゃなくて、粉塵まみれで黄土色に濁ってる…湖礼くんが期待するようなものじゃない…かも」


 話しながら故郷を思い出してしまい、後半はほとんど消えいるような小声になってしまった。しかし、音の能力(アビリティ)を使える湖礼少年にはきちんと聴こえていたらしい。少年は一言「うーん、そっかあ!それはそれで見てみたい!」と笑顔で言った。俊輔は苦笑を浮かべた。

 少年はポケットから携帯端末を取り出し、地図アプリケーションを起動させる。


「さて、この地点だと…ふむ、北区が近いかな、街の北側に行こう。ボクもチェックするから、シュンスケも変な人とか怪しいものとかあったら教えてヨロ!」

「わ、わかった」

「月の地区についても説明するね」

「ありがとう。わかんなかったら逐一聞くから」

「えへへ、おっけー!まっかせてー!」

 

 そうだ、今はとにかくに集中しないと…。ここにきてから何度も思い返していたことを、再び心に刻む。初任務で緊張しているからか、俊輔は自分でもどこか集中力が欠けている気がした。


 さて、道中は湖礼少年から月について色々な話を聞いた。例えば、月は人類が秘密裏に住み始めてから歴史が長いこと。今見えている風景や建造物は実像とは限らなくて、地球にあったものを投影技術によって再現している物が多いということ。例えばこの空とか海や山など。土地は狭いけど出生率は良くて、人口は年々増えてきているということ。ご飯が意外と新鮮で美味しいこと。


 月人には、特殊な面があること。






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