未知なる登校初日
───雲一つない爽やかな青空と、降り注ぐ柔らかな日差し。どこからか聴こえる鳥の囀りが、朝の訪れを告げる。重い瞼を開く。ああ、憂鬱な朝がきた。
支給された真新しいブラザーに袖を通した時は、少しだけ内心ワクワクしていた。ルームメイトが作ってくれた美味しい朝食を食べていた時はまだ実感が湧かなかった。同じく支給された革製の鞄に最低限の荷物を詰めて寮を出た時には、諦めにも似た覚悟が決まった。
だと言うのに、数分も歩かぬうちに俊輔の胃は悲鳴をあげ、気がつけばその場に蹲っていた。
「…………」
「…………そろそろ五分経つんだけど。大丈夫?」
「………はい」
「…あのさ、別に今から戦場に行くってわけじゃないんだけど」
「わ、わかってる、わかってるんですけど、こうなんて言うか、転校なんてしたことないし、落ち着かないというか…とにかくめっちゃ、腹痛い」
「……」
「い、いたたたたた!?さすってくれるのは有難いんだけどめっちゃ力強いって!」
「え、強い?ごめん、優しくしたつもりだったんだけど……まあ、緊張するよな」
「正直摩擦熱で擦れるかと思った」
「この制服耐久力すごいから大丈夫。ああ、さっき思い出したけどさ、俺も初日はお前みたいになってたよ」
「…海野くんも?」
「月から出たことなんて、まして地上に出たことなんてなかったから」
「地上……?」
海野少年は何かを考えるそぶりをしたあと、ニヤリと笑いながら告げる。
「今度月のことを教えてあげるから、その代わりに地球のことを教えろよな」
「わ、わかった」
──いよいよ初登校、である。
彼は青い顔のまま、鞄をぎゅっと抱え直し、なんとか立ち上がった。昨日、といってもほんの数十時間前に第三の地球に護送されてきたばかりの彼は、まだまだわからないことだらけで、今にも不安やプレッシャーに押し潰されてしまいそうだった。人が近くにいなければいつでも吐ける自信さえあった。
だが、どんなに緊張しようが不安を感じようが、残念ながら時は待ってくれない。昨日と同じ白い校舎を、今日は海野少年と並んで歩く。相変わらず不気味なほど人気がない。…昨日と違って、湖礼少年もここにはいない。
「あいつ、今日は特別課外学習だよ」
「とく…?というか、顔に出てました?!」
「めっちゃきょろきょろしてたら流石にわかる」
「あ、はは…なんか、恥ずかしいな」
「…まあ、見知った顔がいた方が安心するよな」
「はい…」
その後は特に会話もなく、海野少年の少し後ろを歩いた。「I -E」とかかれたプレートが見えた時、「あー、とりあえず着いてきて」そう言って少年は扉をガラッと開いた。「え」ノータイムの犯行であった。あわれ緊張で張り詰めている俊輔には心の準備をする時間さえ与えられなかったのである。彼は心の中で叫んだ。
教室の中には誰もいなかった。
「……?」
「テキトーに座って、別に席とか決まってないから」
「う、うん……あの、誰もいない、んです、けど」
「実技以外はオンライン授業受けるやつの方が多いんだよ」
「オンライン?」
「そう。大体はオンラインでなんとかなる。俺らみたいに真面目に登校してるやつの方が少ないんだよな。そう言うことで人もいないし、楽にしてなよ」
なるほど、合点がいく。校舎の中に人がいなかったのはそういうことだったのだ。それにしてもオンライン授業か。まあそういうことなら…と適当に教室の前の方の席に腰をかける。海野少年はその一つ離れた席に腰をかけていた。
「『授業を開始』する」




