第8話 悪霊
「はい、仮登録が完了いたしました。依頼の方は今日から受けることが出来ますが、明日になったら市民カードの提出をお願いしますね」
「分かりました!
やった、冒険者カード作れたよ」
「市民なら誰でも作れるけどね。
それじゃあ、何か依頼を探す?」
「うん。まだお昼だし、簡単な依頼を受けたいかな」
美人な受付の人に500円を払って、冒険者カードを発行して貰う。再発行には1000円も必要だから、この冒険者カードは無くさないようにしないと。冒険者カードには冒険者ギルドで撮られた写真が貼られていて、冒険者としての実績も書いてあるけど、まだ冒険者としてのランクは一番下の10等級。登録したてだから、当たり前だけどね。
『10等級から1等級まであるのは変わってないな』
(う、10等級だとやっぱり嫌な仕事しか残ってないなあ。下水道の掃除は9等級かぁ)
「フレイさんは何かやりたいのあります?」
「……うーん、今から下水道掃除9時間5000円で請け負うと、帰って来るのは夜遅くなるよねぇ」
受注に関しては、自身の冒険者ランクと同じ等級と一個上の等級の依頼を受けることが出来る。同じく冒険者登録を済ませたネーヴェちゃんと一緒に依頼が張り出されている掲示板の前でうんうんと唸っていると、背中を叩かれる。振り返ると、とても小さな女の子がいた。見た目的に、8歳か9歳かな?冒険者ギルドに何か、依頼しに来たのかな?
「わー、可愛い。1人で来たのかな?依頼の仕方分かる?」
可愛すぎて思わず撫でてしまったら、その子はちょっとムッとしたけど、すぐに私の手を掴んで引っ張り始める。え、何!?力つよ!?
「あなた悪霊に憑りつかれてるわよ!良いからこっち来なさい!」
「あ、わ!ちょ、力強い!」
(悪霊!?というかパルマーさん助けて!この子力強くて解けない)
『ん?お前に悪霊なんて憑いてないぞ』
(パルマーさんの事でしょ!?)
『えー。俺は分類するなら生霊だし……』
「え、待って!?誰か止めて!」
周囲の人が止めてくれるかと思ったけど、周囲の人は私達を避けるように逃げて、扉までの道を開ける。もしかしてこの子、有名な子?ネーヴェちゃんが周囲の人間に止めるようお願いしても、無視されるし。たぶんパルマーさんが見えていると思うんだけど、どうするつもりなんだろう?
「おい、かんしゃく玉のオラージュが暴れてるぞ」
「まーた新人が誤解したか揶揄ったな」
「逃げろ逃げろ。ああいう時は前に立っているだけで絡まれる」
……この子、本当に有名な子なのかな?大人の男性が避けるってことは、冒険者ランクが高いのかも。受付の人も特に動いていないってことは、この程度冒険者ギルドなら日常茶飯事なのね。
『結構余裕そうだな。ついでに言うと、こいつたぶんお前より年上だぞ』
(嘘でしょ!?どう見ても一桁の背丈だよ!?)
「こっち!」
「え、そっち路地裏だし真っ暗」
オラージュちゃん?に連れて来られた先は、昼間でも真っ暗な路地裏。大通りから一本外れただけで、誰も見向きもしないような所に来てしまった。後ろからネーヴェちゃんがついてきてくれているけど、ネーヴェちゃんも怖がっている。
「お代は結構だわ。今ここで、あなたに憑りついている悪霊を払ってあげる。
はあ~!」
「待って、この人生霊で」
「雷撃滅霊!」
「聞いてないよー!?パルマーさん大丈夫!?」
改めて私と向き合うけど、目線は右後ろにいるパルマーさんに合っているから本当にパルマーさんが見えているのかな。そして唐突にオラージュちゃんの右手にバチバチと電気が迸ると、一気にパルマーさんとの距離を詰め、その右手を差し出す。やっぱりこの人強かったんだ!
凄い衝撃音と共に、私にもバチっと衝撃が伝わって来たけど……無抵抗に殴られたパルマーさんは大丈夫なのかな。パルマーさんの方を振り返ると、そこには電気を纏ったオラージュちゃんの右手を左手で受け止め、にんまりとしているパルマーさんの姿が。あ、この人の方が強かった。
「は、離しなさい!」
『やだね。慰謝料を払ったら考えてやる。
ほうら』
「やめ、離しなさい!」
そのままパルマーさんは、オラージュちゃんを片手で持ち上げ空中でぶらぶらさせる。その光景を、とんでもないものを見るかのような眼で見つめるネーヴェちゃん。あれ、これネーヴェちゃんにはどう見えているんだろう?
「えっと、今何が起きてるの?」
「私に憑りついた霊がオラージュさん?って人を弄んでいる」
「さっきパルマーさんって言ってたけど、もしかして災厄の魔王の名前?」
「……はい、そーです。
あの、ネーヴェちゃんからはどう見えてるの?」
「なんか急に、オラージュさんが空中に浮いて弄ばれているような……」
ネーヴェちゃんにも本格的にバレちゃったけど、この後どうしよう。あ、オラージュちゃんがお金を払うって言ったら解放されて、またパルマーさんを殴っては捕まっている。今度はもっと強い電撃だったのに、余裕そうな辺り、パルマーさんが凄いのか単純に魔法が効かないのか分からないや。
結局オラージュちゃんが落ち着くまで、10分ぐらいかかったけど、その間にネーヴェちゃんに今までのことを説明したら怪訝そうな顔でこちらを見つめて来る。う、そりゃ災厄の魔王の封印を解いたって、そういう目で見られるようになるよね……。覚悟はしていたけど、幼馴染のネーヴェちゃんにそういう目で見られるのは結構辛いなぁ。




