第6話 脱獄
『うわ。流石に幼少期から鍛え上げられたパル教の狂信者なだけあって物理も魔法もかなり高いレベルだな』
(だ、ダメだよ。脱獄は重罪だよ!)
『いや、素直に判決を待つつもりかよ。言っとくけど十中八九、お前の有罪は覆らないぞ』
「いえ、パルマー様。十中八九ではありません。ほぼ100%有罪にされます」
「えっ嘘!?」
「嘘ではないぞ。一度牢屋に入れてしまった人間が、実は無罪で間違いでしたとなれば、警備隊の沽券に関わる。証言を集めているのは、何としてでもお嬢さんを犯罪者に仕立て上げるためじゃ。ここに残る益はないに等しいと儂は思うがの」
脱獄への道が出来上がったわけだけど、ここで脱走したらもうその時点で間違いなく犯罪者になってしまう。だから私は、脱獄を拒否した。いくら犯罪者に仕立てあげられる確率が高くても、それが脱獄していい理由にはならないし、断固として動かない姿勢を2人に見せる。
また2人は念じて話をし始めたけど、しばらくするとお爺さんが諦めたようにため息を吐き、脱獄への一本道の方へ向き直る。この人はたぶん、脱獄するんだろうね。
「儂の名前はレパードじゃ。パル教清流派の幹部じゃし、儂の知り合いだと言えば敬虔なパル教徒の多くはお嬢さんのために動く……可能性があるぐらいじゃな。まあその姿勢は感心するが、真似したくはないの」
「あの……本当に脱獄されるんですか?やめておいた方が」
『脱獄のための道を用意した緒本人にそれを聞くか』
「もう既に道は作ったのでの。使わなければ勿体ないではないか」
止めたけど、意気揚々と脱獄するレパードさんは止まらずに道を駆け上がる。老人とは思えない身体能力だし、逃げ切れるんだろうなあと思っていたら、十数分後に地下へ警備隊の隊長のピアネリさんが複数の警備隊員を引き連れて地下にまで来た。たぶん、さっきの衝撃音を聞いて駆けつけて来たんだと思う。
「おいお前!そこの大穴はどういうことだ!」
「隣にいた人がこっちに来て空けました!」
「そうか。
取調室に連行しろ!」
そしてその警備隊に捕まれてまた牢屋に入る前の部屋に戻る。ここが取調室ってことは、元から疑われていたんだろうなあ。
「なぜパル教徒の捕縛の仕方が甘かったんだ!油断するなと言っただろう!!」
「すいません……捕らえた時の抵抗の仕方があまりにも弱弱しかったので……」
ピアネリさんは、私の前でまず部下に対して怒る。怒りの矛先は、こちらにも向いた。
「それで、何故その老人の牢屋ではなくお前の牢屋に穴を空けたのだ。鉄格子のアレはお前がやったのか?」
「いえ、その老人が鉄格子をこじ開けてこちらに来た後、一緒に脱獄しようと言われました」
「ふん、よく誘いに乗らなかったな。
ああそうだ、お前に会いたい奴がいるそうだ。おい!連れてこい」
初対面の時のちょっと礼儀正しかった態度は何処へやら、とてもイライラしていて正直に言うと怖いです。ピアネリさんが連れてこいと言うと、警備隊の1人が何処かへ行って、すぐに戻って来る。あ!ネーヴェちゃんだ!
「ネーヴェちゃん!」
「待って!答えて!
フレイさんは、何で戻って来なかったの!」
「……えっとそれは」
「フレイさんは、盗賊の手先だったの?手引きをして、お金とか貰ってたの?」
「違う!私は盗賊の仲間じゃない!」
近寄ろうとすると、ネーヴェちゃんに静止するよう言われて、ついでに警備隊の方に槍を突き付けられる。ぴぃ。思わず叫びそうになった。
『知り合いか?』
(幼馴染だよ。名前はネーヴェちゃん。私より1歳年下で、水属性の魔法を使える凄い子なんだよ)
『ほーん。水属性魔法か。見た感じ、魔力量はそこそこだな。12歳ということを考えると将来有望か』
「……フレイさんが嘘を言っていないことは私が保証します。嘘が苦手な正直者ですし」
「っち、ならもういい。好きにしろ。
元中級農奴なら所属先がなくなった時、一時的に下級市民になる。後で市民カードを発行してやるから明日になったら受け取りに来い」
ピアネリさんは、ネーヴェちゃんに証言をさせた後は私を解放する。間違えて牢に入れたことに対する謝罪とかは特になかったけど、時間にして2時間ぐらいの出来事なんだよね。本来なら、一日ぐらい牢屋に入ることになっていたのかな。
でも結果的に、脱獄しなくて良かったよね。「老人と共に脱獄しないなら正直者」って印象をちゃんと与えられたと思うし、それが決め手だったのかもしれない。うん。そう思うことにしよう。
『2時間で慰謝料寄越せは言い辛いな。下手に訴えたらこちらの首が飛ぶ』
(2時間ぐらいなら別に良いし、ちゃんと疑いが晴れたならそれで良いよ。市民カードも貰えるようだし)
『ところで無一文なわけだが、何かあてはあるのか?』
(いや一応財布はずっと持ってるよ!それにネーヴェちゃんは上級農奴の一人娘だし、結構お金は持ってるはずだよ!)
無事に解放されたけど、今のところ頼る人はネーヴェちゃんしかいない。そのネーヴェちゃんは警備隊の宿舎の前で待っていてくれたので、無事に合流することが出来た。
「ネーヴェちゃん!」
「フレイさん!」
お互いに姿を確認するなり、抱き着きに行く。ネーヴェちゃん、こうやって抱いてみるとやっぱり小さい。4日ぶりの再会だけど、村に居た時もこれぐらい会えない期間というのは珍しくなかった。なのに、前に会った時から随分と時間が経過した気がするな。




