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第3話 逃亡

「ちっ、大人しくしていろ。片腕斬り落とすぞ」

「ぴぃ!?」


舌打ちして迫って来る男の人は、近くで見ると大きい。大人の男の人に、子供で女の私が敵うわけもない。もう駄目だ。私、ここで死んじゃうんだと思ったその時。


『左足を後方に持ち上げ、前へ出せ』

(へっ?あ、うん)


パルマーさんからまた指示があって、勝手に身体が動いてしまう。何ていうか、パルマーさんの言葉は時々従わないといけないと思ってしまうような言葉の圧がある。


思いっきり左足で、相手の右足の脛を蹴ることになり、相手の男の人は蹲り怒る。そして短剣を振り上げて『左に跳べ!』っひ!?短剣を投げて来た!?


『その短剣を拾ええええ!』

(え?あ、そっか!)


左に跳ぶと、私のすぐ右を短剣が掠めて、後ろの木に刺さる。その短剣をすぐに確保しに行って、手に持って振り返ると相手も細い剣を鞘から抜いて構えた。う、もう一本あった。


『そりゃ2本あるに決まってるだろ。1本しか剣がないのにそれを手放す馬鹿はそんなにいない』

(その馬鹿を期待してました……ってこれどうすれば良いの!?私、剣で戦ったことなんてないんだけど!)

『逆に何なら使って戦ったことがあるんだ?』

(え、えっと、鍬とか?あ、鎌で兎を狩ったことはあるよ)

『……はー』

(何か盛大なため息を吐かれた気がする!うわあ来たあ!?)


腰が引けていたからか、最初の向こうからの突きは後ろに下がってぎりぎりで躱せたけど、次の突きは頬を掠めて血が出る。痛い。


(どどどどどうすれば)

『ちゃんと短剣を両手で握って、細剣を狙って振り上げろ。あれなら折れる』

(そんな無茶な!)

『無茶じゃねーぞ。自分に向かって来る突きだと分かっていれば、振り上げるだけで弾き返せる。それにあの細い剣、手入れをしていないから所々欠けているな。タイミングさえあえば、一発で折れるぞ』


3回目の突きに対しては、パルマーさんの言う通り短剣を振り上げて弾き返す。すると向こうの細い剣は折れ、相手の余裕そうな表情が一気に変わった。


『突け!』

(え、わ、分かった!)


両手で持った短剣を相手に向けながら走って近づくと、尻餅を付く黒い服を来た男の人。首元に剣を近づけると、その表情は酷く強張って震えていた。大きく見えたけど、近づくととても痩せていることが分かる。


「た、助けてくれ。俺も元は農奴だったんだ。でも村が………………」

『早く殺せ。仲間を呼ばれたら厄介だ。崖下に落ちた奴ももうすぐ上がって来る。2人になったら逃げ切れんぞ』

(……嫌だ)

『は?』

(嫌だと言ったの!今この世界にいるすべての人が手と手を取って笑い合えるような、そんな世界になって欲しいって言ったでしょ!その世界には、この人もいるの!)

『お前は今、こいつに殺されそうになったのにそれを言うのか。どんなお花畑思想だよ?というかその願いごとは俺の力では無理だって言っただろ』

(じゃあ今の願いは私が叶えるから、パルマーさんは出来る限りの協力をして!それが私のお願いごと!)

『………………はぁー』

「もう二度と悪いことをしないって誓えるなら、この場から立ち去って。今すぐ!」

「ち、誓う。誓うから!」


私は剣を降ろして、盗賊を続けないことを約束させる。たぶん数日後には守られない、下手すれば数分で裏切られる口約束。でもよろよろと立ち上がって、山を降りていく後ろ姿を見て、これで良かったんだと自分に言い聞かせる。誰だって、死ぬのは嫌だ。


登って来ている人が崖を登り切る前に、私もその場を離れる。パルマーさんが索敵してくれるようになったから、上手く黒ずくめの人を回避しながら進めている。何で最初っから、そうしてくれなかったんだろう。


『逃がした奴が仲間を呼ぶ可能性があったからこうして俺が苦労しているわけだが。というかさっきの考えを改めるつもりは無いんだな?』

(ないよ。それに、あの人が仲間に伝えていたらもっと大規模で囲むように来るはずだから、あの人はきっと伝えなかったんだよ)

『……1つ、伝えておくべきことがあった。

俺を解放したら普通の人生は歩めなくなるから覚悟しておけ』

(もう既にその効果出ているんですけど!?知り合いとか全員いなくなったんですけど!?)

『いや、このザル包囲網なら何人かは逃げ出せているはずだ。略奪の仕方まで退化しているとは思わなかったわ』


盗賊団の包囲は、パルマーさんから見れば甘かったようで何人かは逃げ出せているかもと聞いて、ちょっとだけ嬉しくなった。僅かだけど、生き残りがいるかもしれない。そう信じて、獣道を突き進む。


気が付けば、とっくに日は沈んでいる時間帯となった。遠回りして、山を越えて、ようやく見えた街の灯りだけど、城門が閉まっているから明日までは入れない。途中で木の実とかは食べていたけど、全然足りないし、明日までこのまま何も食べられないのは辛い。


『これを食べておけ』

「え、食べ物?」

『薬草』

「薬草……薬草かあ」


ちょっと私から離れていたパルマーさんは、近場で採ったと思われる草を渡して来たので食べたけど凄く不味かった。獣道を抜けてきた時に出来た生傷が若干塞がっていたから、薬草に間違いはない。……多く食べると吐きそうになるけど、頑張って飲み込む。少なくともこれで、明日までに飢え死にすることはないと考えると、とても気が楽になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前作のパルマーさんいい師匠役になっている。こういうのが見たかったです。
[一言] 理想に殉じるのは良いけど、自分の甘さが原因で死の危機に陥ったら考えを改めないと協力出来ないとか言いそうではあるんだよなパルマーなら。 可能な限りの協力だし、甘さが原因で何度もやってたら見捨…
[良い点] あの続き(?)が読める、素晴らしい…… [一言] …んん? 物理的に影響及ぼせないのかとおもったら薬草は採取して渡せたりするんですね
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