第2話 異変
山を下ろうとすると、村の様子が変なことに気付く。もしかして、私のことを探しているのかな?
『たかが中級農奴にそんな人員を割くわけないだろ。
……盗賊の類に襲われているな。規模は数十人か』
「え、それって大変じゃん!お母ふぁふ」
『黙れ。賊に気付かれるだろうが。
フレイが死んだら俺は再封印される都合上、一蓮托生なんだぞ』
そんなことを思っていたら、唐突にパルマーさんが盗賊に襲われていると言ったから、お母さんと叫ぼうとしたら口を塞がれる。幽霊は物理的に干渉出来ないはずでしょ!何で出来るの!
『ちっとは感謝しろや。近くに黒ずくめの男がいるんだぞ。あとこれから会話は念じるだけにしておけ。勘付かれる』
(う。か、感謝はしないからね。
と、これで伝わっているの?)
『めっちゃ伝わっているから安心しろ。
……にしても軽いな。ちゃんと飯食ってるのか?』
(一日二食ちゃんと食べてる!)
……私の村は、お年寄りを含めても200人もいない。戦える男の人は少ないし、早く助けに行かないと。
『数十人規模の賊相手に単騎で特攻して勝てるなら突っ込んで良いぞ。遠目に見た感じ、全員武装しているし男ばかりだけど、素手で行けるのか?』
(行けるわけないでしょ!えっと、どうしよう?)
『まずは落ち着け。あ、そうだ。良い事を教えてやる。
1000年以上前からの、不変の真理だ。「若い女は高く売れる」』
(そんなこと知りたくなかったんだけどぉ!?)
パルマーさんは凄く落ち着いているように見えるけど、これが大人の余裕なのかな。……うん、落ち着いた。私が行っても、たぶん殺されて死んじゃうだけだ。でもそう冷静になると、目からは涙が溢れそうになる。
例え殺されるにしても、助けに行きたい。いやもう既に、お母さんは殺されているから無駄死にする?もしそうなら、お母さんと一緒に死んでも……。
『いや死なんよ。数人の賊に輪姦されて近場の金がある奴の家に終身雇用されるだけだ。拘束具とか付けられて、壁の中に埋め込まれたりするかもな』
(死んでるのと同じでしょそれ!というか、お母さんは……)
『十中八九殺されている。残り1割の確率で犯されているから、自身が性奴隷になってでも親の輪姦を見たいなら行け』
(そんな淡々と言わないでぇ……)
泣き崩れたいけど、たぶんそうなったらここにいる私も捕まっちゃう。だから必死に降りてきた山をまた登って、村から離れる。もう一度村の方を振り返ると、火の手が上がっていた。
『頂上にはいくな。右の崖際の方へ行け』
(え、何で)
『200人もいない小規模な村を襲うのに、数十人規模の軍団が全員で襲う必要はない。何人かは村人を逃がさないように退路を断っているはずだ』
(……分かった。信じるよ)
唐突にパルマーさんが、分かり易い道を行くなと伝えて来る。この規模の盗賊団なら、村を強奪する時、退路を断つのは基本のようなので、道じゃない道を選んで行く。この山に登る時に持っていた物は、僅かなお金と水筒と着ている服だけ。無理に走ったから、肌に若干の傷も出来た。でも隣の村まで逃げれば、きっと。
『ああ?この山の向こうにあるのも村レベルか?
それなら既に襲われた後か、そうじゃなくても近々襲って来るだろ』
「隣の村は大きいよ!村人が500人以上いるし、戦える警備隊もいる。知っている人も多いから、今日の宿ぐらいは貸して貰える……」
『煙が見えた時点でお察しだな。火の手も見えるぞ。引き返せ』
「……そんな」
そんな希望は、山向こうの村も燃えているのを見て打ち砕かれた。私達の村で見た、黒づくめの恰好をした人が、何人か隣の村の出入り口にいるのを遠目で見ることが出来る。私達の村を襲ったのと、山向こうの村を襲ったのは、同じ盗賊達?
『視力は良いんだな。しかしまあ、状況は最悪か』
(街までは、太陽が昇る方に歩いて半日ぐらいだよ)
『そうなのか。じゃあお前が居た村を通り過ぎないといけないな。
……何でこっちに来たんだよ』
(いやだって、困ったことがあったらこっちの村にいる男爵様に言うのが普通だもん)
東と西、両方の村に盗賊が数十人規模でいるけど、そうなると合わせて100人ぐらいもいることになる。そんな規模の盗賊団の噂は、今まで聞いたこともない。
『そりゃ村人全員燃やされているなら規模までは分からんだろ。というか今フレイが住んでいる国の名前を教えろ』
(え?あ、そっか。知らないんだ。
レイナール王国だよ)
『……知らんな。
王都からここまでは、どれぐらい離れている?』
(行ったことないから分かんない)
再び崖際を通って私達の村へ戻ろうとするけど、途中で黒い服を来た2人組の男の人が向かい側から来た。すぐに隠れたけど、気付かれてしまったようでこちらに走って来る。嘘でしょ!?
『走れ!捕まったら死ぬぞ!』
(無理!向こうは大人の男なんだよ!?勝てるわけないよ!)
『振り返るな!あと、隠れた奴に気付かないフリをしながら近づくことが出来ない時点で間抜けな2人組だから安心しろ。良いか、俺が合図したら座り込みながら後ろへ跳べ!』
(ええ!?)
『3……2……1…今だ!』
必死に逃げるけど、こんなの逃げきれっこない!そう思ったら、パルマーさんがいきなり指示に従えと言ってくる。座り込みながら、後ろに跳べってこういうこと!?
「きゃっ!」
「なっ!?」
「うわ!?」
言われた通り、パルマーさんの合図に合わせて後ろへ跳ぶと、追いかけて来ていた2人の男は私に躓いてこける。そして片方は、崖から落ちていってしまった。崖と言っても、高さは数メートルぐらいのはずだけど、たぶん戻って来るまでには時間がかかる。
もう1人もこけたけど、こちらはすぐに立ち上がって私を睨みつける。手には短剣を持ってるし、もう逃げることは出来ないかな。




