第1話 お願いごと
「いたたたた……」
『お。死んでなかったか』
「ねえ、何だったのあれ!?頭が割れるかと思ったんだけど!」
『いや、単純にこの機械の使い方が分かるようになっただけだぞ。
あとついでに、この機械に書かれている言語が読めない人のための機能が働いただけ』
「あ、本当だ。文字が読める……文字が読める!?」
気絶してからどれぐらい時間が経っていたのか分からないけど、目が覚めたら文字が読めるようになっていた。機械の動かし方も分かるようになったけど、何重にも渡って厳重な封印をされていることが分かったし、やっぱり悪い人だったんだ。
『文字が読めないって、よっぽどの馬鹿だったんだな』
「なにおう。村にいるほとんどの大人も文字なんて読めないよ」
『……は?
おい待て。識字率はどれぐらいまで落ちたんだ』
「識字率……文字が読める人の割合、だね。
私の村だったら10人に、9人は読めないんじゃないかなあ」
文字が読めなかったことを馬鹿にされたけど、文字を読める大人は上級農奴の極一部だけだし、村に数人しかいない。それで十分だし、魔王さんって変なところを気にするなあ。
『……一応、現役最終年には50%に乗ったんだがなあ。
まあ良いや。封印解除の方法まで理解しただろうし、電子の壁だけでも取っ払ってくれ』
「それで、お願いごとを聞いてくれるって本当?」
『もちろん。叶えられるよう努力はするから、お願い』
「じゃあ開けるね」
『え?』
機械の動かし方は理解したので、魔王さんが言うように電子の壁を取っ払う。この電子の壁というのが何なのかは分からないけど、この壁の機能を停止させることで魔王さんの封印が一段階解除されるらしい。それだけなら、魔法の知識がない私でも簡単に出来る。
機械にある幾つかのボタンを押すと、ぷしゅんと窓の方から音がしたので見てみると、空中に男の人が立っていた。見た目は20歳ぐらい?邪教の教祖とか信じられないほどの悪行を繰り返した魔王と言われている存在なんだけど、そうは見えないかな。
『おお、マジで解除したのか。ご苦労。
一応自己紹介しようか。俺の名前はパルマー。1100年ぐらい前にこの地で封印された、この大陸の王だった人間だ』
「……魔王って、魔族じゃないの?
あ、この山の麓にある村の中級農奴のフレイです。よろしくお願いします?」
『うん。よろしく。
これからお前が死ぬまでずっとお前の周りでウロチョロすることになる存在だから、仲良くしておいた方が良いぞ』
「うん。うん?」
お互いに自己紹介をすると、魔王さんはパルマーさんと言う名前がある、普通の人間らしい。実際、何処からどう見ても人間の幽霊にしか見えないし、何で魔王なんて言われていたんだろう。
空中を浮かぶパルマーさんは、私を無視して部屋を好き勝手に飛び回った後、再び私の前に来て腕を組む。随分と偉そうな感じだけど、昔は王様だったらしいし、実際に偉かったのかな。
『で、フレイは何か願い事とかあるの?』
「……何でも良いの?」
『大体のことは出来る』
「じゃあ、世界を平和にして欲しい。今この世界にいるすべての人が手と手を取って笑い合えるような、そんな世界にして欲しい」
『……ええぇ』
しばらくすると、お願いごとを聞いてくれるとパルマーさんが言ったので、世界平和をお願いすると凄く嫌そうな顔をされた。私の言ったお願いごとを聞いて、ちょっとパルマーさんは考えた後「その願いは俺の力を超えている」と真顔で答える。そっかー。災厄の魔王さんでも無理かー。
「保留でも良い?」
『別に良いけど』
「じゃあ保留で良い。
というかさっき変なこと言ってなかった?ずっと付き纏うとか何とかって。嘘だよね?」
『いや?封印を解いたお前の傍にいないとここに強制送還されるからずっと付き纏うぞ?
まあ、幽霊が憑りついたとでも思っておけば良い』
「……凄く嫌なんだけど」
『そう言うな。お前のような年端のいかない女の子が世界平和を願うということは、乱世なんだろ?乱世なら役に立つから連れていけ』
そしてその災厄の魔王さんがこれから先ずっと付き纏うことになるそうだけど、お願いごとで再度封印されてと言ったら素直に封印されるのかな?……それは流石に可哀想だからしないけど、ずっと一緒は嫌だなあ。
「こんな変な存在に付き纏われているって村のみんなに知られたらどんな目で見られるか分からないじゃん!」
『安心しろ。フレイ以外からは視認出来ないはずだから今は傍から見れば1人漫才しているようにしか見えない』
「もっと嫌になったよ!?
って、そうだ。今何時?そろそろ帰らないといけないはずだけど」
『そろそろ日の出の時刻だな』
パルマーさんに、今何時か尋ねた瞬間に時間なんて分かるわけないじゃんと思ったけど、パルマーさんはそろそろ日の出だと教えてくれる。……え?
『ついでに言うなら、フレイがここに来てから2回目の日の出だな。まあ機械学習に1日使ったからしゃーない』
「2回目の日の出……?それって、2日も経ってるってこと!?」
慌てて外に出ようとするけど、そういえばここ地面の中だった!パルマーさんに先導されて、エレベータという機械を使って外に出ると、明らかに私がこの建物に入った時よりも、低い位置にある太陽が昇り始めている。
どうしよう。今村に帰ったら、間違いなく村長に怒られる。軽くても罰金。下手したら、下級農奴に落とされる可能性も……。
『ほーん、そんな簡単に中級農奴から下級農奴になるのか。どれだけ逆行しているのか楽しみだな』
何か自然に私の思考を読んでいる存在がふよふよ私の周囲を漂っているし、大変なことになってしまった。自業自得と言われたらそれまでだけど……でも、文字を読めるようになったって言ったら喜ばれるかな?




