第21話 規律
「思っていたよりも、追撃してくる黒衣賊が少ないわね」
「うん、これなら逃げ切れるよ!」
ディスモア脱出作戦を開始してから、時々十数人ぐらいの黒衣賊の部隊が攻撃してくるけど、パルマーさんの指示とオラージュちゃんのお蔭で全員撃退出来ている。特にパルマーさんの指示は分かり易いというか、私の力加減や方向感覚を予測して指示を出してくれるから、後ろを見ずに投げた物がたくさん当たる。
パルマーさんはよく「8割の力で」みたいなことを言うけど、実際に私が8割ちょうどの力を出せるわけじゃないから、凄く細かな計算をしているんじゃないかな。
ついさっき投げたビンには、路地裏で捕まえた盗人達が持っていた睡眠薬を詰めておいたし、チラッと後ろを確認すると数人がダウンしていた。それでも残りの数人はこちらに攻撃を仕掛けて来るけど、この数なら大丈夫。
「斉射!」
私が合図を叫ぶと、殿集団にいる冒険者や守備兵達が一斉に弩で矢を放つ。打ち終わったら即座に弩を中央集団に戻して、代わりにセットが終わっている弩を受け取る。パルマーさんお得意の三段撃ちっていう戦法らしいけど、このお蔭で素早い矢の一斉射撃が出来ているから、追手の勢いが削がれる。
北の城門を抜けると、追手はいなくなったので一安心。……街の南側で火の手が上がっているから、そっちの消火を優先したのかな。
「……非戦闘員でも、弩に矢をセットするぐらいは出来るわよね。
それでこれから、王都に向かうの?」
「うん。王都から西側の地域で黒衣賊が増えているって警備隊の宿舎で聞いたし、それなら王都まで行けば安全だと思う」
オラージュちゃんが合流してくれなかったら、もっと脱出に手間取って後方集団が黒衣賊に捕まっていたかもしれないけど、このまま王都まで一緒に行ってくれるみたい。
……もう、私が指示を出す必要はないし、そんな資格があるとは思えない。警備隊隊長のピアネリさんや、それこそ隣にいるオラージュちゃんの方が指揮は私よりずっと上手いと思う。これ以上、出しゃばって下手な方向に転びたくないけど……。
『いや、フレイがこの集団から戦える人を選出して義勇軍を立ち上げるんだからな?というか絶対やれ。ついて来る奴は今ならいるだろうし、普通の農奴が絶対になれない数百人規模の組織のトップだぞ?』
(私が、数百人のトップ!?いきなり!?)
『いきなりも糞もねえ。組織においてナンバーワンとナンバーツーでは天と地ほどの差があるということを認識しろ。そして義勇軍や傭兵団の立ち上げなんて大体が唐突だ。実績を作った以上、それを拡大解釈して利用することを躊躇うな』
パルマーさんが、王都に着いた時点で黒衣賊に対抗する義勇軍を発足させろと言って来る。私が発足させたとして、人は集まるのかな。なんか色々と不安なんだけど!
『フレイが自分の力で世界を平和にする夢をかなえるから手助けしろって言ったんだろ。そのための最短ルートを辿っているだけだぞ』
(でもそれって結局、力で周囲を屈服させていくことになるの?たくさん血が流れるの?)
『非常に残念なことに、力のない者の発言なんて誰も聞かない。力がある者同士がぶつかれば血は流れるし、たくさん死者が出るな。まあ盗賊団が跋扈している時期に一番得やすいのは権力だから、権力を作るぞ。
……その前に、生きて王都に辿り着くのが先だけどな。西側から100人規模で来てるぞ』
「え、嘘!?
左方警戒!斉射用意!」
パルマーさんと話していたら、西側から黒衣賊がまた現れる。この人達は、ディスモアを襲った黒衣賊とはまた別の部隊なのかな。
「待ってくれ!俺達はディ」
『斉射ァァ!』
「え!?
斉射!」
「……えげつないわね。騙してきそうだったから大声で叫んだんでしょ?」
「え、騙す?」
『黒衣賊のフリをした、元ディスモア市民の可能性は僅かにあったが、まあ黒衣賊が元ディスモア市民のフリをしてくる可能性の方が圧倒的に高かったからな』
向こうから、何か話しかけて来たと思ったらパルマーさんが斉射と叫んだので私も釣られて斉射と叫んでしまう。いきなり矢弾を浴びせられた黒衣賊は、あっという間に反転して去って行ってしまった。
その後のオラージュちゃんとパルマーさんの会話を聞いて、もしかしたら黒衣賊のフリをした元ディスモア市民だったかもしれないと知った時はちょっと怒りそうになったけど、パルマーさんに冷静に説き伏せられる。
『本当に元ディスモア市民ならここまで来て黒衣賊のフリをしなくて良いんだよ。あれだけの人数、全員分の衣装を用意するのも難しいだろうし……。もしあいつらが黒衣賊の工作員で、王都に黒衣賊の内通者を沢山入れたとなればフレイは一躍国家反逆者になれるぞ?それでも良いならそのルートで行くが?』
(……国家反逆者になって、どうやって平和な世界にするの?)
『フレイ以外の人類が地上からいなくなれば平和な世界になるぞ』
(絶対にやめてください。というかそれだと人類滅亡するじゃん!?)
その100人規模の襲撃を最後に、黒衣賊の追撃はなくなり、駆け足で進んでいた集団は、いつの間にか歩いての移動になっていた。




