第20話 アフターフォロー
「くっ、ダメね。この街は陥落するわ」
「オラージュさん、中央に街の人や冒険者達が集まっているようです!一旦そこまで引きましょう!」
「……え?何で脱出もせずに集まってるの?」
東の城門からディスモアの東地区へと撤退を繰り返す冒険者達は、中央に固まっている街の住民達に不信感を覚えながらも、中央へ向け後退を続ける。殿は既にピアネリの率いる警備隊に受け継がれており、オラージュ達は援護射撃をしながら戦力を削がれないように引いていた。
そしてオラージュに、聞き覚えのある声が届く。
「オラージュさん!良かった、冒険者隊の主力が生きてた!」
「フレイ!?何であんたがここにいるのよ」
「逃げ遅れた人を、一か所に固めてたんだ。集めた人の数は、1000人を超えるよ!」
「……中央に、お年寄りや幼い子供を入れているのね。もしかして、非戦闘員を半分以上抱えながら、王都まで行くつもりかしら?」
声の正体は小隊長かつ避難を先導する立場となったフレイであり、パルマーの指示で逃げ遅れる人、荷物を多く抱えた人、移動速度が遅い人、大怪我をしている人、戦争序盤で被弾し戦線を離脱した人が集められている。
非戦闘員650人を、戦えそうな人間350人で囲んでいるだけであり、このままでは包囲され殲滅されるのが目に見えている。東側から撤退して来た警備隊、守備兵、冒険者部隊は合計で500人ほどだが、既に散り散りになっており、オラージュと一緒に中央まで引いた人は50人にも満たなかった。
フレイには目もくれず、オラージュはフレイの後ろにいるパルマーに念を送る。
(どういうつもりなの!?もうすぐそこまで敵は迫っているのよ。しかも東側から来る敵の数は、2500人以上だし、間違いなく包囲されて全滅するわよ)
『最大人数を救うには、これしかなかった。文句ならフレイに言え。
あと、黒衣賊全員で包囲されることはあり得ない。街に入った賊がまず行うのは、財産を捨てて逃げる人を追うことよりも、家探しだ。無法者の集まりの規律なんて無いに等しいわ』
(……向こうはネーヴェが指揮をしていて、それなりに統率力もありそうよ?)
『ああ、やっぱり黒衣賊側の人間だったか。というか周囲の人間に指揮が出来るなら幹部級の人間だな。捕らえて来いよ』
(数の暴力で攻められたら無理よ!それに、ネーヴェの周囲の人は賊にしてはやたらと強かったわ。全員魔法が使えたし……)
『まあ、ここで言い争いをしてても仕方ないから素直に従え。緊急脱出用の奴、使ったんだろ?』
一瞬で情報を交換した後、オラージュはフレイに対してため息をつきながら、協力することを伝え、最後方に近い位置まで移動する。最後方の殿は、フレイが務めることになった。
「もしかして、あの薄汚い冒険者集団が先頭なの?先頭って、一番大変よ?。包囲網を切り開く難しさを知らないの?」
『いや、先に逃げ出した冒険者とかが戦っているから包囲はギリギリされていない。それに、金持ちの商人が護衛を引き連れて大量の財産を抱えながら移動していることは確認済みだ。その後をついて行くぞ』
「……王都までのルートは何通りかあるけど、ちゃんとその金持ちが使ったルートは分かっているの?」
『既に矢傷を負っていたジルという爺さんが追跡してる。まあ殿が強ければ大丈夫だろ。警備隊の面々も前に行ったしな』
パルマーが「殿が強ければ大丈夫」と言った瞬間に、どや顔を見せるフレイとそれをジト目で見つめるオラージュ。そうこうしている内に西側から逃げて来た守備兵、警備隊、冒険者部隊の面々が合流し、外側の戦闘が出来る人間が450人、内側で守られる人間が650人、計1070人の集団が出来た。
東西からまずは黒衣賊の先遣隊が迫るが、数が少ないためにオラージュが主体となって撃退に成功する。各地で完全に見捨てられた者達の悲鳴が響き渡ると、どこからか火の手も上がった。
これに焦ったのは黒衣賊の方であり、せっかく手に入れた家や食糧が焼失したら苦労して街を襲った甲斐が無くなる。そのため統率のとれている部隊は消火活動に入るが、末端の存在は慌てて略奪に勤しむ。
しかし、作為的に付けられた火は消え辛い。街の南側から順番に燃えていくディスモアを見て、フレイはこれで良かったのかと自問自答を繰り返す。
中央から北側の城門まではほぼ一直線であり、大通りであるため比較的速やかな行軍が可能だった。移動が困難な老婆や足のケガをしている人は、重力軽減を付与された台車に乗せられ、その台車をフレイが押す。
「すまないねぇ……重かったら捨ててくれても」
「そんなこと言わないで!全員で、ここから、脱出しましょう!」
「……後ろ、来てるわよ」
『5秒後に右斜め後ろへ3番。力8割』
「はい!」
パルマーが後ろを見ながら指示を出し、フレイはその通りに物を投げる。今回投げたのは粉が入った瓶であり、見事追いかけて来る黒衣賊の頭に命中し、ビンが割れて中の粉が周囲に漂った。




