第19話 先導者
「第4中隊の第6小隊から第10小隊のリーダーは集まって!私達はこれから、避難する人達の誘導をするよ!
あ、リーダーは私が中隊長さんから任されたから、私の指示を聞いて下さい!」
『いきなり頭を下げるとか頼りないリーダーだな。まあ良い。ディスモアから避難する人は5000人近い数になるだろう。そのトップが実質的にはフレイだ。しっかりとやれ』
(うそ!?他にも冒険者ギルドの人とか大きな商会のトップとか、偉い人はいっぱいいるよ!?)
『だから、そいつらの発言を抑えてこの避難誘導をフレイの功績にしろ。……こうなったら、可能な限り多くの人の手助けをするしかないな』
特に避難のための知識もないけど、パルマーさんから黒衣賊の包囲から抜け出したことがあるのを功績として喋るよう言われたので喋る。信用を稼ぐためなのかもしれないけど、この状況でも立場や権力を考える人って嫌われるような……。
でもここにいる50人の協力は得られそうだし、救える人が増えるならこれで良かったのかな。急いで冒険者ギルドに言って、拡声器を貰う。借りても返せる保証がないから、貰うよって受付の人に言ったら貰えたから良い人だ。
『たぶん誘導の役目をフレイに押し付けて自分だけ逃げるつもりだろうな。まあ、自分で判断して逃げれる奴はとっくに行動に移している。フレイがやらないといけないのは、すぐに行動が出来ない年寄りや社会的弱者の街の脱出を手伝うことだ』
(そもそも、具体的にどうやって避難誘導をするのかも私は分かってないよ?)
『……一先ず人を各地区に派遣して急いで北側から脱出するよう大声で言い続けるしかないだろう。財産を抱えたまま移動しようとしている奴とかは放置しておけ。最大人数を救うぞ』
(商人さんとか、武器屋さんが素直に何も持たずに避難するのはあり得ないような気もするけど……)
この50人の内、30人は路地裏に居た人達だね。あの路地裏にいたのは全員が低ランクの冒険者だったから納得だけど、それで素直に私の指示を聞いて貰えるのはこの状況だと良かったのかな。
担当を北、東、西、南、中央の5つに分けて、私の小隊は南を担当する。北側の城門からは一番遠いけど、いざという時は南側の城門から逃げることは出来るね。
「あんた……!パルマーの言ってたことは正しかったのね。信用し切れなかった私が悪かったわ」
「……それで、返答は?」
「断るに決まってるでしょ!賊に身を落としてまで生きるほど落ちぶれてはいないわ!」
東の城門から飛び出たディスモア冒険者部隊の第1中隊の中核的存在であるオラージュは、黒いローブを被ったネーヴェと対峙する。既に黒衣賊を何十人も倒し、魔力がほとんど残っていないオラージュに対し、冒険者部隊に紛れて城門外に飛び出たネーヴェは潜伏を続けていたため魔力を消費していない。
戦闘が激化する中、第1中隊の中隊長を背中側から奇襲し、そのまま黒衣賊の集団に紛れたネーヴェは黒衣賊のトレードマークである黒衣を纏ってから再度前線に姿を現し、オラージュに向け杖を構える。直後、その杖の先から放たれた氷弾がオラージュを襲ったため、オラージュはそれを回避し決断を下す。
それは撤退の決断であり、オラージュは殿を志望した。既に指揮官が不在の中、オラージュの指揮に頼って戦い続けていた冒険者達は、撤退が始まると我先にと逃げ出す。
自然と、殿を務めたオラージュは黒衣賊に囲まれていた。そのオラージュに対して、ネーヴェが勧誘を行ったが、オラージュが断った瞬間に囲む黒衣賊達からは嘲笑が漏れる。
「ネーヴェ様、こいつは生け捕りにしますか?それともここで殺しますか?」
「……ここで殺す」
「はっ、やってみなさいよ!」
ネーヴェがここで殺すと言った瞬間に、囲んでいた黒衣賊達は魔法を放つが、その魔法が届く前にオラージュは地面に黒い弾を投げつける。直後、戦場にとてつもない量の煙と刺激臭が襲った。
ネーヴェは、その黒い弾をパルマーがオラージュに手渡していたことを思い出し、思考が目の前にいるオラージュから一瞬だけ逸れる。その隙を突いて、囲んでいる黒衣賊の中で弱い者だけを狙い撃ちしたオラージュは包囲網を突破した。
「よし、オラージュが来たぞ!全員逃げろ!」
「あんた達……!」
さらに殿を務めていたオラージュを支えるため、オラージュの小隊のメンバーはオラージュが黒衣賊の集団に飲み込まれてからも完全な逃走は行わなかった。その小隊員に助けられ、オラージュは城内へと入っていく。
オラージュを逃したネーヴェは、パルマーとオラージュと3人で話していたことを思い返す。
「ジュディット、ガルロン、ウージニー……」
「?
どうかされましたか?」
「……別に」
"救国の英雄"ジュディット
"狂気の鍛冶屋"ガルロン
"女神殺し"ウージニー
その時、ネーヴェはパルマーがフレイに憑りつくまでに憑りついた3人の名前を聞いた。他にも歴史上の偉人は多くいるが、最も名声が高いジュディットと、最も悪名が高いウージニーの2人はあまりにも有名だった。
フレイ自身のことは、本当にお人よしで、騙されやすい、ただの馬鹿だとネーヴェは認識している。しかしその背後に、おぞましい何かがいるということに、黒衣賊の幹部であるネーヴェは不安を感じた。




