第18話 脱走
黒衣賊が西から攻めて来て、城壁内にも矢や爆弾が降って来る。ぴぃ!?今隣の家、吹き飛ばなかった!?
『おー、運が悪かったらすぐ死ぬな』
(こ、こんなところにずっと居たら何もできずに死んじゃうよ!?
じょ、城壁の上にも登って来てる……!?)
『数は軽く3000人を超えているな。……西側だけで』
(え……?)
城壁内側から渡された弩を使って矢を放つけど、なんかこっちが放つ矢の数よりも降って来る矢の方が多いよ!?必死になって弩に矢をセットし続けていたら、周囲の人に矢が刺さっていない人の方が珍しくなったころ、パルマーさんが不吉なことを言う。西側以外からも来られたら、もうこの街は対応しきれないよ。
『戦争なんか大っ嫌いとか言いながら、ちゃんと戦えるんだな。その弩で放っている矢で、城壁の向こう側にいる誰かを貫いているかもしれないぞ?』
(今は考えないようにしてるだけ!というか、聞けば戦争を体験させたかったとか流れる血の量を知れだとか、どうしてそんな物騒な思考なの!?)
『いや別に、戦争を知って分かり合えない存在を知って、世界平和までに流れる血の量や犠牲を知った上でなおも「今この世界にいるすべての人が手と手を取って笑い合えるような世界を目標に頑張る」と言うならもうただの空虚な夢想家じゃなくなるしな。現実的な手段を提案していくよ』
(……こんな状況でも、私のお願いごとのことを考えてるの?)
『そりゃ契約だしな。……そろそろ、西側以外に兵を分けているなら頃合いか』
戦争を体験させたかったと言うパルマーさんは、私の言ったお願いごとをしっかりと憶えているみたい。そしてパルマーさんがそろそろとか言った直後、東からも攻撃を受けている連絡が西側で戦っている人達に伝わった。
「急報!東から1000人を超える黒衣賊の集団!ゼンリ隊が消滅しました」
「何!?
ディスモア冒険者第4中隊所属の者で動ける者は即座に東の城門へ急げ!敵が城壁内に入るぞ!」
警備隊の人で、第4中隊の指揮官の人が第4中隊所属の人達に対して指示を飛ばすけど、1000人を超える黒衣賊に対して、たぶん西側に居た守備兵は50人にも満たないはず。これじゃあもう、間に合わないんじゃないかな。ということは、この街は……。
『略奪の限りを尽くされて黒衣賊に吸収される人、凌辱される人、逃げ出す人に分かれるだろうな。完全に、負け戦だ』
(どどどどうすれば良いの!?)
『自分で考えろ、というのは酷か。
第4中隊の指揮権を奪って脱出に専念しろ。で、王都へ向かって走れ』
(王都ってどっち!?指揮権を奪うってどうするの!?)
『王都は北東の方角だから、北側の城門から出るぞ』
パルマーさんは軽々しく第4中隊の指揮権を奪えって言うけど、そんなのどうしたら良いの。逃げ出すって言い出したら、それだけで隊長さんに殺されちゃうかもしれないし。
街の人は、右往左往する人と最低限の荷物だけ持って脱出しようとしている人に分かれている。こんな状況で、出来ることと言ったら……。
『街の人の誘導をすると中隊長に伝えてこい。緊急時に誘導する役目の人間は印象に残りやすいし、どっちにしろ必要な役割だ。第4中隊を半分に分ける提案をして、50人の指揮権を奪え』
(一々奪うって言い方が気になるよ!貰うで良いじゃん!)
「ディスモア冒険者第4中隊所属のフレイ班、じゃなかった第9小隊の小隊長のフレイです!あの、私達が街の人の誘導をします!第4中隊を二手に分けて、半分は避難の手助けをしましょう」
「何!?まだ我々は負けて」
避難する人の、誘導をすること。それを第4中隊の中隊長さんに伝えに行ったら、凄く怖い顔をされたけど、私の後に中隊長の傍まで来た人が報告をしてからは顔色が変わった。
「東の敵兵力、およそ2000です!もう1時間も持ちません!」
「なっ!?
……仕方あるまい。貴殿の案を採用しよう。しかし半分に分ける方法はどうするつもりだ?」
『第4中隊の中で、第6小隊から第10小隊までは路地裏で生活していた人達です。彼らなら、敵に見つかりにくいルートでの脱出が可能です。誘導する人材として最も適しています』
「第4中隊の中で、第6小隊と第7小隊と第9小隊は路地裏で生活していた人達です。戦う力も弱いから、半分に分けるなら第1小隊から第5小隊までと第6小隊から第10小隊までが良いと思います!」
『フレイは台本通りに言うことも出来ないのか』
(うー、嘘は言いたくないし、これで良いじゃん)
東からの黒衣賊の数は、2000人。東西合わせて5000人の賊が攻めて来ているなら、もう一刻の猶予もない。第4中隊の中隊長さんはちょっとだけ考えた後、私の案を採用してくれた。やった!
「それでは貴殿には誘導班のリーダーをやって貰う。恐らく、1時間後にはこの中心部にまで賊が流れ込んで来る。それまでに頼む」
「分かりました!全員、北の城門から王都方面へ誘導するのを頑張ります!」
最後によろしく頼むとだけ中隊長さんは言って、東の城門の方向へ駆けて行った。避難の誘導を任された私は私で、今できることをちゃんとやっていこう。




