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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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7/22

7話 外の世界

 日曜日の朝。


「レグ、起きろ」


 レグ用に布団を買って下に敷いているのに、目が覚めると、いつの間にか俺がベッドから追いやられて、その布団で寝かされている。

 何度か怒ったが、まったく言うことを聞かない。

 俺のベッドなのに、起きるたび立場が入れ替わっているのが地味に腹立たしかった。


「今日は出かけるぞ。外にも慣れたほうがいいだろ」


 レグはベッドの上で起き上がると、無言のままこちらを見た。


「どこか行きたいところはあるか?」

「パチンコ」

「ダメだ!」

「じゃあ、Tシャツ屋」

「もういらない!」


 レグは少し黙ってから、首を傾げた。

 俺は大きくため息をつく。


「じゃあ、公園でも行くか。人も少ないし、変なことしてもまだごまかせる」

「わかった」


 納得したというより、候補が尽きただけに思えた。


「用意しろ」


 そう言って、自分も身支度を整える。

 バッグを肩にかけて振り返ると、レグが見たことのないTシャツを着て立っていた。


「まあもう、ドクロなのは突っ込まねえけど、そのTシャツはどうした」

「ベルクスから買ったやつ」

「ああ、それが例のやつか。結構ダサいぞ」


 レグはTシャツの裾を引っ張って、柄を確認していた。


「とりあえず今日は、俺が買ってやったやつを着ていけ」

「わかった」


 返事だけはいい。


「ちなみに、そのTシャツ何ポイントだったんだ」

「五千ポイント」

「価値は知らんが、なんか高そうだな」


 レグは部屋に戻ると、先日買ってやった無地のTシャツに着替えて戻ってきた。


「よし、じゃあ行くぞ」


 レグは頷いた。


 道中、翼は広げず、黙ってついてきていた。

 ただ、俺のシャツの裾をずっと掴んでいる。

 邪魔ではあるが、急に消えられるよりはましだった。


 通り過ぎる人たちは、レグを見て一瞬だけ振り返る。

 その視線が顔に向いているのか、俺の裾を掴んだ手元に向いているのかは、あまり考えないことにした。


 それでも、今日はかなりましなほうだった。

 このまま何事もなく帰れるかもしれない。

 外に慣れさせるって、案外こういうことの積み重ねなのかもしれなかった。


 昼間の公園は、人もまばらだった。

 家族連れがちらほら見えるくらいで、今の俺にはちょうどいい。


 変に目立たないよう、なんとなく外周を歩く。


「レグ、どうだ外は? 人間のこと、わかってきたか?」

「うん」


 たぶん、わかってないだろうけど、習うより慣れろだ。

 部屋にいるよりは、実際に人を見たほうがいいはずだった。


 そのとき、後ろから聞き慣れた声がした。


「高瀬くん?」


 振り返ると、相沢さんがスーツ姿で立っていた。


「あ、お疲れ様です! もしかして仕事ですか?」

「そうなの。急ぎの仕事が終わらなくて」


 相沢さんはそう言ってから、レグのほうを見上げ、少し目を見開いた。


「……友達?」

「あ、そうなんです。ちょっと、知り合いで」


 レグは、じっと相沢さんのほうを見ている。

 俺は腕で軽く突ついて、小声で「挨拶!」と急かした。


 レグは頭を軽く下げた。

 相沢さんも不思議そうな顔をしながら、軽く会釈を返す。


 そしてその目線が、そのまま俺の裾を掴んでいるレグの手元で止まった。


「あ、これは……日本がまだ慣れてないんだよな!」


 俺は軽くチョップして、その手を払った。

 レグは、なぜか苦い顔をしている。


 相沢さんが、ぽつりと呟いた。


「……なんか似てる」

「えっ? なんですか?」

「あ、ごめん、なんでもない。じゃあ、急ぐから、また会社で」

「はい! お疲れ様でした」


 相沢さんの後ろ姿を見送ってから、俺はレグのほうを見た。

 レグは、まだしかめ面のままだった。


「レグ、どうしたんだ」

「あれ、元天使だぞ」

「は?」


 頭が追いつかなくて、一瞬言葉が出なかった。

 会社で普通に挨拶している相手が、急に別の何かに見えてしまう。


「元天使? ……それ、比喩とかじゃないんだよな」

「ああ。匂いが嫌い」


 レグはそう言って、鼻を押さえた。


「マジかよ……。悪魔って、天使にも会ったりするのか?」

「いや。上級悪魔ぐらいしか会えない」

「へえ、上級だと会えるんだ」

「天使と合コンしてるって聞いたことがある」

「……今まで聞いた中で一番のパワーワードだな」


 もう一度、相沢さんが去っていった方向を見る。

 でも、もう姿はなかった。

 レグを外に慣れさせるつもりだったのに、何も知らないのは俺のほうかもしれない。


 レグを見ると、少し疲れているようにも見えた。


「もう帰るか?」


 レグは頷いて、また俺のシャツの裾を掴んだ。


「さっきのやつ、弱ってた」


 その言い方が妙に引っかかった。


「なんか言ったか?」


 レグは答えなかった。

 俺は握られたシャツの裾を見て、小さく息を吐く。

 そのまま家へ戻った。

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