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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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6話 ポイント交換

 さっき商店街で買った唐揚げを、テーブルの上に置いた。

 今朝置いていった食パンには、指で押した跡だけが残っている。


「レグ、飯は食うのか」

「食っても食わなくてもいい」

「便利だな……。でも人間になるなら、食うほうにも慣れとけ」

「わかった」


 俺は唐揚げの紙袋を破いて広げ、そのままテーブルに置いた。

 箸を持ってきて、一膳をレグに渡す。


「これで掴んで食べてみろ」


 レグは箸を一本ずつ両手に持って、唐揚げを挟もうとした。


「こうするんだよ」


 俺は箸で唐揚げを掴んで見せる。

 こんなことまで教えるつもりはなかったのに、気づけば普通に手本を見せていた。


 レグは片手で箸を持ち、唐揚げに突き刺した。


「最初はそんなもんだよ」


 俺は唐揚げを頬張りながら言った。

 レグも同じようにして、唐揚げを口に入れる。


「美味いか?」

「肉の味がする」


 感想としては、妙に生々しかった。

 その一言だけで、口の中の唐揚げが少し重くなる。

 こいつはまだ、人間みたいに「美味い」とは言わない。


「まあ、そのうち慣れる。てか、なんでお前、人間になりたいんだ?」

「別になりたいわけじゃない」


 その答えは少し意外で、唐揚げを持つ手が止まった。


「じゃあ、なんであの……フサフサのやつは、お前を人間にしろって言ったんだ」

「たぶん、魔界の人口が増えたから」

「なんか妙に俗っぽい理由だな」

「下から間引かれる」


 まるで天気の話みたいな口ぶりだった。

 それが余計にぞっとする。


「間引くって……。お前は下っ端なのか」

「俺は下級悪魔」

「まあ、なんかわかる気はする。あのフサフサは?」

「ベルクスは中級悪魔」

「へえ。だからなんかフサフサつけてるのか」

「いや、あれは趣味」

「……そうか」


 気づけば、レグは唐揚げを半分ほど食べていた。

 俺は空になった紙袋をくしゃくしゃに丸める。


「お前は中級悪魔にはならなかったのか?」

「ポイントが貯まってなかったから」

「またポイントか……。何に使ってたんだよ」

「Tシャツとかに交換してた」


 追い出されそうな立場のくせに、使い道がTシャツなのか。

 こいつ、可哀想なだけじゃなくて、普通にちょっと駄目なんだなと思った。


「Tシャツとかいらないだろ。まさかとは思うけど、ドクロのか?」

「そうだ」

「……お前、自分でも出せるだろ」

「ベルクスが作ったやつのほうがよかった」

「あいつ、上司面しながらグッズ販売してんのか」


 ベルクスへの印象が、聞くたびに悪くなっていく。


 俺はベッドに寝転がった。

 肘をついて、レグのほうを見る。


 レグは、唐揚げの入っていた袋を覗き込んだり、丸めた紙袋を宙に浮かせたりしていた。


「お前ぐらいの悪魔なら、人間になれるんじゃねーの」


 その瞬間、目の前の紙袋が爆発した。


「レグ! 何してんだお前!」

「どうなるのかと思って」


 やっぱり全然駄目だった。

 部屋中に、唐揚げの揚げカスが飛び散っている。


「お前、ふざけんなよ! その魔法かなんだか知らないけど、それで片付けろ!」

「魔力だ」

「名称の話じゃねえ! 床がベタベタなんだよ!」

「できない」

「何でだよ!」

「壊すのは得意だが、掃除は違う」

「そんな時だけ悪魔出してくるな!」


 ベッドから起き上がり、布巾を取りに行こうとして、そのまま滑って転んだ。

 床の油が足に張りつく。


 もう起き上がる気がしなかった。

 そっと目を開けると、宙に浮いているレグと目が合う。

 その時点で、さっきの「なれるんじゃねーの」は全部撤回したくなった。

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