4話 服を買いたいだけなのに
「おい、着いたぞ」
何度も飛ぼうとするレグの手を無理やり引いて、店まで連れてきた。
その時点で、もうかなり目立っていた。
店に入ると、レグは陳列された服を間近でじっと見始めた。
鏡の前を通り過ぎたとき、そこに映ったレグと俺を見て、自分だけが普通すぎて、逆に変な感じがした。
「上着と、ズボンと、下着と、靴だな。てか、なんで俺がお金出さないといけないんだ。あのフサフサのやつとは話できないのか」
「ベルクスのことか?」
「たぶんそいつだ。呼べないのか」
「知らない」
レグはそう言って、ロゴの入ったTシャツの縫い目をじっと見ていた。
「もういいから、なんか選べ」
俺は無地のシャツと、色の薄いパンツを手に取る。
こういうのを着せておけば、とりあえず人は深く見ない。
「とりあえず、これ着てこい」
レグは服を受け取ると、指を動かし始めた。
俺はその手を慌てて掴む。
「待て待て。ここじゃなくて試着室だ。こっち来い」
手を引いて試着室まで連れていき、そのまま服ごと押し込んだ。
試着室の中で、ボンっと音がした。
たぶん中で、また何かやった。
そっとカーテンの隙間から顔だけ覗かせる。
レグが、渡した服をちゃんと身につけていた。
「なんだ、普通に着れるじゃないか」
一瞬だけ、今日はいけるかもしれないと思った。
カーテンを開けて、少し離れてレグを見る。
白いシャツにグレーのパンツ。少なくとも、昨日の格好よりは、ずっとまともだった。
「Lサイズだけど、丈が短いな。お前、でかすぎるから、ちょっと身長小さくできないのか」
レグは何度か指を左右に動かした。
ふっと風が起きたかと思うと——ドクロのTシャツを着た子供が現れた。
隣にいた店員が、二度見した。
「おい、入れ!」
慌ててカーテンを閉めて、レグを試着室の中へ押し戻す。
自分も顔を中に突っ込んだ。
「なんでそうなる! 戻れ! お前、初期設定に子供とドクロ入ってんのか!」
声は抑えていたが、勢いまでは止められなかった。
「サイズ違い、お持ちしましょうか?」
カーテンの隙間からそっと顔を出して振り向くと、店員が立っていた。
その笑顔がやけに優しくて、全部見られていた気がした。
結局、店員に丈の長い商品を教えてもらい、それを持ってセルフレジに並んだ。
順番が来ると、画面をタッチしながら会計を始める。
「なんで俺がお金払わなきゃいけないんだよ。まとめて買ったから、結構高かったんだけど」
ぶつぶつ言いながらカードを差し込み、操作する。
隣にはぴったりとレグがくっついていた。
「手伝うぞ」
レグが後ろからタッチ画面に触れた。
「あ、やめろ!」
ピーッと音が鳴った。
画面には、きっぱりと「一括払い」の文字が出ていた。
「二回払いにしようとしてたのに……」
今月の支払いくらい、俺に選ばせてくれ。
俺は睨んだが、レグは首を傾げていた。
飛ぶな、子供に変身するな、画面に触るな。
大したことは何も言っていないはずなのに、その全部が通らない。
大きくため息をついて、カードをしまう。
「お前、荷物は全部持てよ」
「わかった」
服はまともになった。
ただ、視界の端でレグが荷物を浮かせている。
その時点で、まだ何ひとつまともじゃなかった。




