↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/22

20話 遊園地

「レグ、ここが遊園地だ」


 レグは周りを見回していた。


「こういうとこで、人間は遊ぶんだ」


 レグが頷いた。


「よし、じゃあ回るぞ」

「わかった」


 二人で遊園地に足を踏み入れる。

 入り口のすぐそばには、ジェットコースターがあった。


「智也、あれは何だ」

「あれはジェットコースターだ。乗りたいか?」

「乗りたい」

「そうか……俺はあんまり得意じゃないけど、行くか」


 平日だからか、順番はすぐ回ってきた。

 前から三番目の席に乗り込む。

 乗車が終わると、ゆっくり安全バーが降りてきた。


「この瞬間が、いちばん後悔する……」


 隣を見ると、レグは前を覗き込み、目を輝かせている。

 ほんの少しだけ、表情が出てきていた。

 それを見ていると、怖いのに、連れてきた甲斐はあったのかもしれないと思った。


 ガコン、と音が鳴った。


「ううっ」


 カタカタと音を立てながら、ゆっくりと登っていく。


「やばい、あそこ越えたら……」

「見てくる」


 レグがバーを外そうとしたのを、手で押さえつけた。


「やめろ! 大人しく座っとけ」


 そのときには、頂上に着いていた。

 ジェットコースターはそのまま加速して落下していく。


「う、うわー」


 思わず目をつぶった。


「智也、面白い飛び方だ」


 隣でレグが何か言っているが、それどころじゃなかった。


「はあはあ。まじこわかった」

「智也、もう一回」

「もう無理。違うやつ行こう」


 即答しながら隣の顔を見ると、レグは本気で残念そうだった。

 足がもたつきながらも、他の乗り物にもいくつか乗った。


 フリーホールでは俺だけ変な声が出た。

 コーヒーカップではレグが回しすぎて、本気で気持ち悪くなった。

 メリーゴーランドは気まずかったが、レグが乗りたいと言うから一緒に乗った。


 気づけば西日が傾き始めていて、園内の空気も昼とは少し変わっていた。


「もうそろそろ帰るか」

「あれに乗りたい」


 レグが指差した先には、観覧車があった。


「最後だぞ」


 二人で観覧車に乗り込む。

 スタッフの女性には二度見された。


 ゴンドラは、ゆっくり持ち上がっていく。


 レグが口を開いた。


「ゆっくり」


 レグがそう言うのが、少し意外だった。

 速いものばかり好むと思っていたからだ。


「観覧車はそういう乗り物だ」

「飛んだほうが早い」

「人間は飛べない」

「そうか」


 観覧車が頂上に近づいたところで、西日が差してきた。

 俺は目を細める。


「やっぱり、下見ると怖いな」

「怖い?」

「高いからな。人によるけど、俺は高いところはちょっと苦手だな」

「なぜ乗る?」

「そうだな……子供だと、スリルを感じるから乗るかなあ。あとは、デートとか」

「デート?」

「恋を教えただろ。恋人と乗ったりするんだよ」

「わかった」


 自分で言っておいて、妙に落ち着かなかった。


 観覧車は頂上を越えると、ゆっくり降下し始める。

 窓の外では、街が夕日に染まっていた。

 レグは黙って、その景色を眺めていた。

 こういう景色を見るのは、俺にとってもいつぶりだろう。

 

「レグ、人間のこと、わかったか?」

「たぶん」


 ここまで来ても、うまく伝えられている気はしなかった。

 それでも、もう残り少ないと思うと、聞かずにはいられなかった。


「でも最初に比べると、ご飯も作れるようになったし、良いこともできるし、俺は立派な人間だと思うぞ」


 レグは頷いて、こっちを見た。

 俺は目を逸らしてしまった。


 遊園地を出ると、外は薄暗くなっていた。

 さっきまでの賑やかな音が嘘みたいで、帰り道はやけに静かだった。


「あれ、高瀬くん?」


 振り返ると、会社帰りの相沢さんがいた。


「あ、お疲れ様です」


 相沢さんは、隣のレグを見上げた。


「あ、今日は仕事すみません。こいつが最後なんで、遊びに行ってて……」

「有給だから謝らなくていいのに」


 かすかな沈黙が、二人の間に落ちた。

 レグが、相沢さんを向いて口を開く。


「智也の恋人か?」


 相沢さんは目を丸くした。


「おい、ばか、やめろ」


 俺はレグの腕を引っ張る。


「恋人は、デートをする」

「あ、相沢さん、こいつのことは気にしなくていいので。人間に慣れて……じゃなくて、日本に慣れてなくて」


 レグの口を塞ぎ、苦笑いする。


「ふふっ」


 相沢さんが笑った。


「恋人じゃないけど、デートする?」


 俺は一瞬固まった。

 冗談みたいな言い方だったのに、心臓には冗談じゃなかった。

 すぐに返事をしなきゃいけないのに、喉の奥が少し詰まった。


 レグが隣で口を開く。


「頼む」

「お前が言うな!」


 俺がレグの口を押さえているのを見て、相沢さんはさらに笑った。

 その顔を見て、肩の力が抜けた。


「……あ、あの、いいんですか」


 俺は相沢さんを見て言った。


「うん、いいよ。あっ、私お迎え行かないといけないから、また今度決めよう。じゃあね!」


 そう言って、相沢さんは去っていった。

 振り返り際に、石鹸の香りがした。


 さっきまで遊園地にいたせいか、まだ少し現実味がなかった。

 でも、今のはたぶん現実だった。

 そう思ったら、急に足元だけ軽くなった。


「……相沢さんは、なんか小悪魔だなあ」

「あれは、元天使だぞ」

「そうじゃなくて!」


 レグはまだ納得していない顔で、俺の隣を歩いていた。

 俺はその顔を見て少し笑った。


「レグ、ありがとうな」


 遊ばせてやったつもりだったのに、助けられたのはこっちだった。

 レグは首を傾げたままだったが、たぶんそれでよかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。