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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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19/22

19話 運命の人かもしれない

「くそっ。行きやがった」


 ベルクスの飛んで行く姿を見て振り返ると、レグがまだTシャツとペンを握りしめていた。


「レグ、書かねえぞ」


 レグは下を向いた。


「フェルガ様って言われても、記憶ねーんだよ」


 レグはこっちを見ている。


「そいつは……フェルガは、何で人間になったか知ってるか」

「いなくなる前は、天使にいつも会いに行ってた」

「上級悪魔だと、天使にいつでも会えるのか」

「ポイントを使っていたと思う」

「……ほんと、何でもポイントなんだな」


 レグは少し宙を見ていた。思い出しているようだった。


「一度俺のところに来て、人間になると言って、そのまま去って行った」

「理由は言わなかったのか」

「言った」

「何て?」


 レグはじっとTシャツを見つめ、それから俺のほうを見た。


「サイン書いてやるから、教えろ」


 レグの顔がぱっと明るくなる。


「天使と一緒に人間に転生するって言ってた」

「そこまでして、一緒に来たかったのか」


 俺は思わず息をついた。


「……それは、大恋愛なんじゃないか」

「それ以来見てない」

「その天使、地球にいるのか? まさかとは思うが、それが相沢さんってことは……」

「たぶん、そうだと思う」


 まじか、と思った。

 そんな話を聞いたせいで、相沢さんの見え方まで変わってしまいそうだった。


 レグはTシャツとペンをこっちに差し出したまま、じっと俺を見ていた。

 俺はTシャツに、カタカナで「フェルガ」と書いてやった。

 レグはそれを掲げて見入っていた。


「お前はそのフェルガ様、相当好きだったんだな」

「かっこよかった」

「そ、そうなのか」


 記憶はないけど、ちょっと照れる。


「あの黒い生き物みたいな服を着て、ドクロを五個もぶら下げていた」

「ダサいな……って俺なのか」


 記憶はないのに、笑いきれない感じが残った。

 いきなり「あなたはフェルガです」と言われても困る。


 レグはTシャツに夢中だった。


 表情はあまり変わらないが、レグが嬉しそうなのはわかるようになった。

 そう思った矢先に、二日後、という言葉が嫌なタイミングで頭に浮かんだ。


 ◇


「レグ、俺は仕事があるから。今日はなるべく、良いことを重点的にやっておけ」

「わかった」


 そう言い残して、会社に向かった。


 会社に着くと、後ろから声がした。


「おはよう高瀬くん」

「あ、お、おはようございます!」


 自分でもわかるくらい、声が妙に上擦った。


「今日は元気だね」


 相沢さんはクスッと笑って去っていった。


 その後ろ姿を、つい目で追ってしまった。

 我ながら、意識しすぎていた。


「なに見てんの」


 振り返ると、佐藤がニヤニヤした顔でこっちを見ていた。


「うるさいな」


 そう言って、自席に向かった。


 午前中は手を動かしていた。

 仕事は進んでいたはずなのに、頭のどこかでは昨日の話がずっと引っかかっていた。

 席を立って背伸びをしたところで、相沢さんに声をかけられた。


「高瀬くん、区切りついたの? 今からお昼行くけど、行く?」

「あ、はい。ちょうどお腹が空いてたところです」


 できるだけ普通に返したつもりだったが、たぶん少し変で、早口だった。

 相沢さんは気づいていないのか、気づいていて流しているのか、よくわからなかった。


 お昼のピークタイムは過ぎていたので、すぐお店に入れた。

 メニューを閉じると、相沢さんが話しかけてきた。


「高瀬くんって、恋人いるの?」

「え?」


 いきなりそこを聞かれるとは思っていなくて、変な声が出そうになった。


「いや、さっき佐藤くんが変なこと言ってたから」

「なんて言ってました?」

「休憩所で、『高瀬が狙ってるから気をつけてくださいね』って言われた」


 あの下級悪魔しばいてやる。


「あいつの言うことは、全く気にしないでください。あと、恋人もいません」

「そうなんだ」


 相沢さんは、いつも通りの調子でお昼を食べていた。

 俺だけが勝手に落ち着かなかった。


 家に帰ると、いい匂いが漂ってきた。

 レグが台所で焼きそばを作っていた。


「レグ、この前教えた焼きそば、作れるようになったのか」


 レグが頷く。

 テーブルにはちゃんと二人分あった。


「今日は出かけたのか?」

「うん」

「何してた?」

「商店街で良いことやった」

「荷物を持ってあげたのか」

「そう」

「恋は、やってないよな?」

「やってない」

「よし、えらいぞ!」


 それで合ってるのか自分でもよくわからなかったが、とにかく今はそれでよかった。


 俺は、レグの作った焼きそばを頬張った。

 ちょっとむせたけど、ちゃんと焼きそばの味がした。


「レグ、明日、有給取ったぞ」

「有給?」

「休みだ。最後は人間を楽しむのが一番だから、遊園地に行くぞ!」


 あと、二日しかない。

 だったら、もう教えるとか試すとか、そういうのは後回しでいい気がした。

 残りは、一緒に人間の時間を使えばいいと思った。

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