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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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2/22

2話 逃げられない

「レグ、お前普通に歩けないのか」

「ついてきてる」


 レグは俺の少し上空を飛びながらついてきていた。

 こいつに、ある程度の常識は通用しないようだ。


「お前、街中で見られたら騒ぎになるぞ」


 レグを見ながら言った。

 

「だめなのか」

「ほら、降りてこい」


 通りすがりの人が、一定の距離を保ちながら、俺とその右斜め上を交互に見比べている。


「やばいって」


 レグを見上げたが、表情ひとつ変えず、ただ距離は保ったままついてくる。

 歩くたびに、モーセの十戒のように人が避けて行く。

 俺の顔の横で、ドクロ柄の靴がゆらゆら揺れていた。


「俺は知らねえからな!」


 レグを指差しているところで、話しかけられた。


「ちょっと、お話いいかな」


 振り向くと警察官が二人いた。


 ◇


 財布の中身まで確認されて、ようやく解放された。

 愛想よく頭を下げたあと、反射的に上を見た。

 

「お前、見えてないなら見えてないって言えよ!」


 警察官が二人すぐさま振り返る。


 俺は「へへっ」と笑って急いで立ち去る。

 悪いことはしていないのに、俺だけが完全に不審者だった。

 

 もう、家に着くまで何も喋らないと決めた。


「おーい」


 後ろから声が聞こえるが、無視した。

 何度か呼びかけられたが、前を向いてひたすら歩いた。


 声が聞こえなくなったと思って、ゆっくり振り返る。

 そこには、ついてきていたはずの悪魔がいなくなっていた。


「おい、レグ」


 辺りを見回しても、いない。


「……帰ったのか?」


 数秒待っても返事はなかった。


「ま、いっか」


 急に足取りが軽くなった。

 勝手にいなくなったレグが悪い。


 スキップしたい気持ちを抑え、自分のマンションに着いた。

 歩いて帰れる距離だから良かったが、このちょっとズレた距離はなんだったんだ。


 まあいい。とりあえず、帰って寝たい。

 ドアを開けて、ベッドに飛び込もうとした瞬間、目の前にレグが座っていた。


 俺は、飛び込む格好のまま、空中で停止し、そのまま投げ出された。

 床に転がったまま、数秒固まった。


「おい!」

 

 すぐさま立ち上がり、こめかみを抑えながら、レグを睨む。


「お前、なんでいるんだ!」

「さっき見た」

「だからって来るなよ!」

「お前の居場所だろう」

「だから、俺だけの居場所なんだよ!」


 大きなため息をついた。

 街中で目立つのも最悪だが、部屋にいるのはもっと最悪だった。


「……もう無理」


 とりあえず一缶飲まないとやってられない。

 冷蔵庫には、昨日自分が買ったビールが、ちゃんと冷えていた。


 缶を開けると、ひとりのはずの部屋に、もう一人分の気配を感じた。

 それだけで、自分の部屋じゃないみたいだった。

 

 振り返ると、目の前に、またドクロ柄の靴がさっきと同じ距離で浮かんでいた。


「背後に回るな! あと、そのダサい靴を今すぐ脱げ!」


 レグはその場で靴を片方脱いだ。

 片付いていない台所に、その靴が転がっていく。


「そこじゃなくて、玄関でだ!」


 レグは宙に浮いたまま、もう片方の靴を脱いで玄関に置いた。

 そして、こっちを見た。


「……とりあえず、歩け」


 そう言って、俺はビールを一気に飲み干した。

 たぶん今まで飲んだ中で、一番うまかった。


 ただ、視界の端では、さっき放ったもう片方の靴を持ったままレグが浮いていた。

 従っているというより、判断を全部こっちに投げている顔だった。

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