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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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1話 なんだこれ

 会社から帰る途中、車に轢かれて俺は死んだ。

 もう痛くないことが、逆に気持ち悪い。

 二十五年の人生にしては、さすがに短すぎるだろと思った。


 目を開けているのか閉じているのかわからないほどの暗闇の中で、声が聞こえた。


「生き返りたいか?」

「もちろん生き返りたい」


 頭の中でそう答えた。

 こんなときなのに、冷蔵庫にある納豆の賞味期限が気になった。


「じゃあ、悪魔を人間に育てよ」

「は? ……なんでそんなファンタジーなことしなくちゃいけねーんだよ?」

「ならいい。死ね」

「すみません! やります!」


 一瞬だけ焼けたような匂いがしたあと、目の前がぱっと開けた。

 異様に湿度の高い、薄暗い空間に二つの人影が見える。


 目が慣れてくると、その姿がはっきりしてきた。


 一人は、小さく湾曲した角を生やし、黒い翼を持っていた。

 上半身は裸で、浅黒い肌に筋肉が浮いている。

 悪魔と言われたら、たぶん誰でもこういう姿を思い浮かべる。


 もう一人は、それより少し小柄で、首元にフサフサした毛を巻いた悪魔だった。


「レグラム、こいつだ」


 フサフサのほうが、俺を指差して言った。


「わかった」


 レグラムというやつが答えた。

 低い声だった。感情が薄いというより、単純に俺へ向いていない感じがした。


「じゃあ、頼んだぞ」


 フサフサは、今度は俺に向かって言った。


「待て。どういうことだ?」

「契約しただろ。悪魔を人間に育てるって」


 俺は、さっきの声を思い出した。


「今、死んだ直後ってことか?」

「そうだ」


 俺は自分の手足を見た。


「……生き返れるのか」


 フサフサは、レグラムを指差した。


「人間にするのはこいつだ」


 聞いたことには、まっすぐ答えてくれないらしい。


 差されたレグラムは、のんびりあくびをしていた。

 開いた口の奥に牙が見える。


 俺はフサフサに向かって言った。


「はあ……もう少し説明してもらえると」

「こいつが人間になれるように訓練しろ」

「悪魔を人間に?」

「そうだ。じゃあ、頼んだぞ」

「ああ、待って! 人間になるって、何をもってなんだ!」


 フサフサはそのまま飛び去っていった。

 暗い空間に、レグラムと俺だけが残る。


 レグラムは黙ったまま立っていた。

 俺は、とりあえず話しかけてみる。


「あ、あの……」


 レグラムは振り返ってこっちを見たが、何も言わなかった。


「名前って、レグラムでいいのかな」

「レグラム」

「そっか。なんか言いにくいな。レグでいいか」


 レグは一瞬だけ止まったが、すぐに頷いた。


「俺は智也だ。で、ここからどうやって家に戻ればいいんだ?」


 そう言うと、レグが手をかざした。

 足元に、自分の家が映し出される。


「お前の家は、ここか」

「すごいな……。そう、ここ」

「じゃあ、掴まれ」


 急に言われて一瞬戸惑ったが、俺はそっとレグの腕を掴んだ。

 その瞬間、レグは黒い翼を広げて上空へ飛び立った。

 思わず腕にしがみつく。


「落ちる」


 レグは一度だけこちらを見て、そのまま映し出された映像のほうへ降りていく。

 俺は必死に腕を掴みながら、ぎゅっと目を閉じた。


 風を感じて、そっと目を開けると、マンションの上空にいた。

 足元を見た瞬間、胃が縮む。

 一日に二回死ぬのは勘弁だった。


 地面に近づくにつれて、人通りが目に入ってきた。

 一人、こっちを見上げて目を丸くしている。


「ちょっと、やばくね」


 レグはそんなこと気にもせず、マンションの屋上にふわりと降り立った。

 地面に着くと、俺はすぐにレグの腕から手を離す。

 痺れた腕をぶんぶん振った。


「連れてきてくれたのはありがたいんだけどさ、ここ、俺の家じゃないんだけど」

「さっき見た」

「だよな。じゃあなんで知らないマンションの屋上なんだよ」

「悪魔だから」

「なるほど……悪魔」

「どうするんだ」

「お前が言うな! ……まあいいや。じゃあ、ちゃんと家まで飛べるか?」

「できる」


 レグは真っ直ぐに俺を見て言った。


「さっき、お前、人間に見えてたみたいだけど。見られないようにして、家まで飛べるか?」

「できる」


 そう言ってはいるが、任せてもちゃんと家には着かない気がした。


「よし、わかった。歩いて帰るぞ。とりあえず、その翼と角をしまえ」


 レグは無言のままこちらを見ている。


「人間は、翼も角も生えてない」


 俺は自分の頭を指差して言った。

 すると、レグの翼と角が、だんだん薄くなって消えた。


「あとは……」


 俺はレグの全身を見渡した。


「靴と、上の服。なんか出せるか?」

「可能だ」


 そう言うと、レグの上半身と足元に勢いよく風が起こった。

 風がおさまると、つま先が十センチくらい反り返った靴と、ダメージの激しい黒いTシャツを着ていた。


「すごい目立つな。普通のは無理か?」


 レグは黙ってこっちを見ている。


「俺が履いてる、こういう靴と、こういうTシャツ。同じようなの出せるか?」


 キャンバス地の靴と、小さなロゴの入った白いTシャツを指差して言った。

 シンプルなのが一番だ。

 少なくとも、つま先の反った靴よりはマシだった。


「わかった」


 もう一度、レグの体にさっきと同じような風が起こった。

 キャンバス地の靴と、白いTシャツに変わった。

 ただし、靴にはドクロの模様、胸元には小さなドクロマークの刺繍が入っていた。


「……まあいい。とりあえず、ついてこい」

「お前にか?」

「……そうだよ」


 そう言った直後、レグは黒い翼を再び出すと、俺の後ろ上空でぴたりと止まった。

 試しに歩いてみると、同じ距離を保ったままついてくる。


 犬みたいだ、と思ってから、いや羽の生えた悪魔だろ、と考え直した。

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