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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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16/22

16話 ボランティア

「おい、レグ!」


 俺は、レグが行きそうな場所をひと通り回った。

 パチンコ屋も商店街も探したが見つからず、公園まで来た頃には息が切れていた。


 ベンチに腰を下ろし、足元の小石を転がす。

 コツン、と音がして顔を上げると、そこにレグが立っていた。


「お前、どこ行ってたんだ!」

「近くの店になかった」


 レグは袋を俺に差し出した。

 中を覗くと、酢が入っている。


「近くのコンビニは、お前が買い占めてるんだろ」

「智也、焼きそば食べたい」


 がくりと肩を落とした。


「わかったよ。材料買って帰るぞ」


 レグは頷く。


「行くぞ」


 俺はくるりと踵を返し、歩き出した。

 レグはその後をついてくる。


「なあ、お前さ。もし、人間になれなかったらって思うと、怖くないのか」


 レグは首を傾げた。


「しょうがない」

「……嫌じゃないのか」

「人間ほど、生きてる感覚がない。たぶん」


 そう言われると、こっちだけが勝手に焦っているみたいで、余計に苦しかった。

 

 レグがぼそりと言う。


「でも」


 レグはいつの間にか隣まで追いついていた。

  俺はその横顔を見上げた。


「智也といるのは楽しい。たぶん」


 夜の公園には二人分の足音しかなかったのに、その一言が妙にはっきり残った。

 少し歩いてから、俺は言った。


「レグ」


 レグがこっちを向く。


「今週の土曜は、ボランティアに行くぞ」

「わかった」


 ◇


 土曜日の朝、外はきれいに晴れていた。


「ご参加ありがとうございます。今日は川沿いを中心に活動します。拾ったゴミは、このゴミ袋へ入れてください」


 スタッフの人が、一人ひとりにゴミ袋とトングを渡していく。

 レグはトングを受け取ると、持ち上げて下から覗き込んでいた。


「レグ、いいか。この袋に、このトングを使ってゴミを入れていくんだ」

「わかった」

「あと、今日はポイントは出ないけど、それでもやるんだ。いいな」


 ポイントが出ないのにやる、というのが今日の本題だった。


「わかった」

「よし、行くぞ」


 川沿いに沿って、ゴミを拾っていく。


「若いのに偉いね」


 お婆さんに声をかけられた。

 参加しているのは、子供連れの親子か、年配の人だけだった。


「いえ。今日は晴れて気持ちいいですね」

「ほんとだねえ」


 そう言って、お婆さんはまた作業に戻った。

 レグは数メートル後ろで、真剣な顔のままゴミ袋にゴミを入れている。


「少し休憩しましょう!」


 太陽が真上に昇る頃、スタッフの声が聞こえた。


 俺は後ろを振り返り、レグに声をかける。


「レグ、ちょっと休もうか」

「わかった」


 レグに近づいたとき、曇ったゴミ袋の中が動いた気がした。


「お前、どれくらい拾ったんだ」


 中を覗き込むと、大量のダンゴムシがうごめいていた。


「うわっ!」


 思わずのけぞる。


「お前、何やってんだ!」

「ゴミを拾っていた」

「これはゴミじゃない!」

「落ちてた」

「落ちてても、これは生き物だ! 動いてるものはゴミじゃない。土に放してやれ」

「わかった」


 ゴミが何かなんて、普段は考えたこともなかった。

 でも、こうして口にしてみると、たしかに線引きの話なんだと思った。


 レグがゴミ袋を逆さにすると、中にいたダンゴムシが土の上にばらばらと落ちる。

 俺はその様子に、眉を寄せた。

 

 レグはそれを眺めながら言った。


「かっこいい」

「ダンゴムシがか?」

「フェルガ様の服に似てる」

「ダンゴムシみたいな服を着てたのか……。甲冑みたいなのか」


 こいつの中では、ダンゴムシも上級悪魔も同じ線の上にあるらしい。

 そのとき、笛の音が聞こえた。


「休憩終わりです。あと少し頑張りましょう!」


「よし、レグ、やるぞ。ゴミはどれか教えてやるから、こっち来い」

「わかった」


 そのとき、数メートル先に、さっきのお婆さんがいた。

 持っている袋は膨らんでいて、手元も少し重たそうだった。


 レグが、そのお婆さんに近づいていく。


「おい、レグ」


 レグは自分の空のゴミ袋を差し出し、お婆さんの袋を受け取っていた。


「ありがとう」


 お婆さんはにこやかに笑った。

 レグは表情ひとつ変えずに戻ってくる。


「……レグ。お前、偉いぞ! 気が利くようになったじゃねーか」

「いっぱい入ってるのが、かっこいいから交換した」

「かっこいい? まあ、いいや。良いことしたな」

「良いこと?」

「そうだ。重い荷物を持ってあげるってことだ」


 レグは袋を見て、それからお婆さんの背中を見た。

 少し遅れて、小さく繰り返す。


「……良いこと」

「そうだ」


 俺が言うと、レグは小さく頷いた。


「わかった」


 その返事が、今までで一番人間らしく聞こえた。

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