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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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14/22

14話 人間テスト

「よし、今日はテストをしよう」


 朝、レグは寝ぼけた顔でこっちを見ていた。


「テスト?」

「今日は一人でやってみろ。俺はついてくけど、いないもんだと思え」


 レグはじっと俺の顔を見つめている。


「いいな」

「わかった」

「よし。これは今日の生活費だ。三千円入ってる。好きに使っていい。でも、ちゃんと一日過ごしてこい。……じゃあ、始めるぞ」


 レグは頷いた。


 俺は少し離れた場所からレグを見ていた。

 レグは迷わずドクロ柄のTシャツを手に取る。


「……違う。今日は無地」


 レグは一度俺のほうを見たが、結局ドクロを着た。

 その時点で、今日のテストに一抹の不安がよぎった。


 レグはもう一度だけこちらを一瞥して、そのまま外へ出る。

 俺も少し間を空けてあとに続いた。


 レグは商店街を抜けると、パチンコ屋の前で足を止めた。


「だめだ」


 物陰から小声で言ったが、レグはパチンコ屋の前から動かない。

 通りすがりの人が、俺をちらちら見ていく。


 俺は立ち上がって、ひとつ咳払いをした。

 その瞬間、レグの姿が消えていた。


 慌てて辺りを見回し、パチンコ屋の中を覗く。

 レグはもう台の前に座っていて、隣のおじさんが札の入れ方まで教えていた。


 慌てて中へ入ったときには、千円札はもう機械に吸い込まれていた。


 しかも、レグの前の台が光り始め、玉がどんどん積み上がっていく。

 レグはその様子をしばらく見ていたが、満足したのか、それ以上興味がないように席を立った。


 隣のおじさんが何か言っていたが、レグはそのまま外へ出ていく。

 止めなきゃと思うのに、俺は一瞬立ち止まって、ドル箱をちらりと見た。

 それから、慌ててレグのあとを追いかけた。


 レグはそのまま公園へ向かった。

 時々しゃがみこんでは、ダンゴムシを突っついている。


 横を通り過ぎる人が、不思議そうにレグを振り返った。

 俺は少し距離を空けて、そのあとを追う。

 レグは一度だけこちらを見たが、何も言わずにまた前を向いた。


 やがてレグは、この前のパンケーキ屋に入っていった。


 俺は背伸びをしながら店内を覗いたが、ガラス越しに見るだけで、結局中には入れなかった。

 しばらく外で待っていると、レグが出てきた。口元にクリームをつけている。


 バッグの奥で潰れていたポケットティッシュを取り出し、俺はレグに近づいてそれを手に渡し、すぐ離れた。


 レグはティッシュを持ったまま、こっちを見ている。

 俺は自分の口元を拭う仕草をしてみせた。


 レグは同じようにティッシュで口を拭いた。

 俺は小さく二回頷く。


 ここで近づいたらテストにならない。

 そう思っていたのに、口元のクリームだけは見過ごせなかった。


「何してんだ、お前」


 声のしたほうを見上げると、佐藤がいた。


「こんな物陰に隠れて、大丈夫か」


 しゃがんだまま見上げる形になっていて、自分でもだいぶ言い訳のきかない姿だと思った。


「……佐藤。今日出勤か」

「今度うちのチーム、コンペがあるからな。休日出勤だよ」

「そっか。大変だな」

「……お前、犯罪はやめとけよ」

「違う!」


 俺は反射的に立ち上がった。

 ただ、その時にはもう、視界の中にレグはいなかった。


「やば、俺急ぐから!」

「お、おう」


 佐藤を置き去りにして、レグを探し回る。

 すると、商店街の唐揚げ屋の前にいるレグを見つけた。何やら店員と揉めているようだった。


 パチンコで千円、パンケーキで二千円使ったはずだから、きっと金がない。

 急いでレグのところへ向かおうとした、そのときだった。


 レグのそばに、さっきのおじさんが寄ってきた。

 おじさんは笑いながらレグの肩を叩き、店員と何か話したあと、「また来いよ!」と言って去っていく。

 気づけば、レグの手には唐揚げの袋があった。


「レグ」


 俺は駆け寄った。


「唐揚げ、お金は……」

「さっきのおじさんが交換してくれた。勝ったからって」

「ああ、パチンコの」


 おじさんの後ろ姿が、遠くに見えた。


「智也、一緒に食べよう」

「ん、ああ……。お土産か」

「お土産」


 食べたいものを見つけるだけなら、前からしていた。

 でも、それを持って帰ってくるのは、たぶん初めてだった。

 それだけで、今日やらせた意味が少しはあった気がした。


「今日は頑張ったな。帰るか」

「わかった」


 三千円の使い方としてはひどい。

 でも、最後に唐揚げを持って帰ってくるあたりが、妙にレグらしかった。


 こうして見ると、こいつにもだいぶ“選ぶもの”が増えてきている。


 袋から漏れるニンニクの匂いに、腹が鳴った。

 なんだかんだ、ちゃんと帰ってきたんだなと思った。

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