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悪魔を人間にする方法 〜うちに来た悪魔は、常識だけがなかった〜  作者: 蒼


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10/22

10話 パンケーキ食べたい

 朝食のトーストをかじりながら、俺はレグに言った。


「そろそろ仕事も覚えないといけないな」

「パチンコ?」

「それは仕事じゃない」


 あと一ヶ月でどうにかしろと言われてから、そのことが頭のどこかにずっと引っかかっている。

 働いているふりでも何でもいい。とにかく、人間の側に寄せるきっかけが欲しかった。


 俺はレグを見たまま、独り言みたいに続ける。


「急に就職は無理だよなあ。体験とかあればいいけど」

「できる」

「……何が?」

「明日だけ智也の会社に行く」

「魔力でごまかせるってことか。一日だけいても、不自然じゃないようにできるのか?」

「可能だ」

「会社か……。一回やってみるか」


 レグは頷いた。


「よし。じゃあ今日は、少し外に慣れとくか」

「わかった」


 ◇


 何をするかわからないと思って、先日行った公園にまた来た。


「誰かと話せるといいけどな」

「智也がいる」


 当たり前みたいに言われると、こっちのほうが返事に困る。

 そういう言い方をされる立場になった覚えはないのに、否定もしづらかった。


「……まあ、そうか」


 そう答えて、横を歩くレグを見る。

 最近は、黙って隣を歩いているぶんには、人間に見えなくもない。


「そういや、昨日の焼きそば、酢入れたの案外美味かったな」


 言ってから、こいつの味覚に寄っているみたいで少し悔しくなった。

 散々否定していたくせに、案外美味かったなんて認めるのは、なんだか負けた気がする。


「智也も悪魔になれる」

「ならねーよ。てか、悪魔の条件は酢好きなのかよ」


 レグは特に返事をせず、無表情のまま歩いていた。


 なんでもそのまま返してくるわけじゃなくなった。

 こいつなりに、拾う言葉と流す言葉を分け始めている気がした。


 昼間の公園は、日差しがあって心地いい。

 俺は明日に備えて、いくつか質問されたときの練習を始めた。


「じゃあ、前の仕事は何をしていたかって聞かれたら?」

「パチンコで……」

「待て。……まあ、完全に嘘でもないか。パチンコメーカーで働いていました、にしろ」

「パチンコで働いていました」

「惜しいな……」


 そんなやり取りをしながら、公園をぐるりと一周していた。

 その途中で、レグがふいに指を差した。


「あそこ行きたい」

「ん、どれだ」


 目を凝らすと、淡いピンク色のファンシーな外観の店が見えた。

 看板には、パンケーキと書いてある。


「マジかよ。男二人で?」

「匂いがいい」


 パチンコでもドクロTシャツでもなく、パンケーキと言い出したのが少し意外だった。

 しかも、理由をそれ以上は足さない。


 男二人で入るのは気まずい。

 でも、行きたいと言ったレグの声が妙にまっすぐで、却下しきれなかった。


「……うーん。そうだ、お前変身しろよ。子供だったら、まだ違和感ない」


 だいぶ雑な案だとは思ったが、男二人よりはましな気がした。

 周りを見渡すと、ちょうど人けがない。

 ここなら一瞬くらい変わってもごまかせる。


「今なら大丈夫だぞ。……あっ、営業時間十五時までだ。走るぞ」


 走り出した直後、後ろでボンっという音がした。

 肩で息をしながら、俺は店のドアを開ける。


「いらっしゃいませ」


 可愛い格好をした店員が、声と一緒にこちらを向いた。

 目が合うと、一瞬だけ笑顔になりきれない顔で迎えてくれた。

 たったそれだけの間なのに、こっちまで急に居心地が悪くなった。


「二名様ですね」

「はい」

「お待ちください」


 店員は笑顔を作り直して、席を確認しに行った。


「……なんか、場違いだな」


 俺は振り返って下に目線を落としかけたが、そこにあったのはレグのウエストの位置だった。

 嫌な予感がして、そのままゆっくり顔を上げる。

 そこには、ドクロTシャツを着た、いつものレグが立っていた。


「お前、なんで!」


 その声で、店の中の視線が一斉にこっちへ向いた。

 俺は慌てて口を押さえ、小声で言う。


「なんで子供になってないんだよ!」

「前、子供になるなって言ってたから、設定してなかった」


 そういうところだけ律儀に覚えているのが腹立つ。

 腹立つのに、よく考えたら、こいつはちゃんと聞いてはいたんだなとも思った。


「じゃあ、なんでドクロは残してんだ」


 Tシャツを引っ張っていると、後ろから声をかけられた。


「お客様、こちらへどうぞ」

「あ、はい」


 席へ向かいながら、どこかでクスクス笑う声が聞こえた。

 笑われているのがレグなのか、俺まで込みなのか、もう区別がつかなかった。


 目の前にパンケーキが運ばれてきた。

 皿の上のそれがどんな形をしていたのか、もうよく覚えていない。

 ただ、やけに甘い匂いだけが残っていた。


 あれをレグが本当に食べたかったのかどうか、それだけが気になった。

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