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連合艦隊旗艦 アンドロメダ

 連合艦隊旗艦アンドロメダは全長3kmを超える巨大戦艦である。アンドロメダは最初から艦隊旗艦として設計され、連合艦隊の頭脳として機能するために、可能な限りの指揮通信能力と防御能力を備えていた。


 艦隊旗艦のキャビンでは、フィッシャーがシートに腰を下ろし、モニターに映る兵員輸送船を厳しい視線で眺めていた。


 波方あいという銀河文明の火種を、ここで取り逃してはならなかった。


 波方あいを野に放つと、人間性主義者達と、「量子MIは死後、地球人類に転生する」などという馬鹿げた主張をする者達を勢いづかせてしまい、銀河文明を二分する事態になってしまうだろう。最悪の場合は内戦になりかねない。


(腰抜けの、事なかれ主義者のタヌキめ!)


 ロバーツ中将の人を食ったような顔が思い浮かんだ。査問委員会が波方を処分していれば、このような事態にはならなかったのだ。ケイナリアの敗残兵達が波方を襲撃したことも、査問委員会の空気を波方に同情的なものに変えてしまった。


(だが、奴らも最後には役に立った。あとは口封じさえすれば……)


 フィッシャーは厳しい表情のまま、薄い唇の片側を吊り上げた。

 

(ここで波方を拘束するも良し。あくまでも遷移点へ進むならば抹殺するも良し)


 ……


「――妙だな」 


 最終警告から既に60秒が過ぎていた。


「艦隊旗艦MI。既に60秒は過ぎている。地球6号に攻撃を行うことを提言する」


 ビイッ


 キャビン内にブザー音が響いた。


「こちら艦隊旗艦MI。

 艦隊旗艦の権限により、艦隊旗艦のヒューマンファクターとして波方少将を指定しました」


 落ち着いた女性の声がキャビンに響いた。フィッシャーは自らの耳を疑った。


「……よく聞こえなかったようだ。もう一度、いってくれ」

「艦隊旗艦の権限により、艦隊旗艦のヒューマンファクターをフィッシャー少将から波方少将に変更しました」


 フィッシャーは椅子から立ち上がっていた。


「バカなッ!? 何をいっている? 理由を言え!」

「波方少将が少将に昇進したのは75年前であり、フィッシャー少将が昇進したのは4年前です。したがって、波方少将が先任将校となります。本艦MIは艦隊旗艦の権限を行使し、ヒューマンファクターをフィッシャー少将から波方少将に変更しました」


 フィッシャーの顔が怒りで真っ赤になっていた。


「そのような変更は無効だ。取り消せ!」

「実行不可能です」

「こ、このようなことは、計画には、なかった。こんな、バカな……」


 フィッシャーは唇を震わせたまま押し黙り、崩れるようにシートへと座り込んだ。



◇ ◇ ◇



 ビイッ!


 突然のブザー音にあい(・・)が身を震わせた。


「こちら艦隊旗艦MI。

 艦隊旗艦の権限により、艦隊旗艦のヒューマンファクターとして波方少将を指定しました」


 女性の声が、あいが艦隊旗艦のヒューマンファクターだと告げていた。あいは呆気にとられ、小さく口をあけたまま、正面スクリーンに映るアンドロメダの巨影を見つめた。


「波方少将は地球6号に対し、1次放射器の使用を承認するか?(イエス/ノー)」


 あいは大きく深呼吸をした。答えは決まっている。


「ノー!」


 射撃管制ロック警報の断続的な電子音が不意に止んだ。


 船長キャビン内には循環ファンの回る小さな音だけが聞こえていた。


 アンドロメダの砲門はまだ兵員輸送船に向けられたままだ。


 あいが固唾を飲む。


 トカチェンコは背筋を伸ばしたまま固まっていた。


「艦隊旗艦の射撃管制システムによるロックが解除されました」


 兵員輸送船MIの声に、トカチェンコがシートに沈み込んだ。


「いったい何が起こったんだ……」


 誰に向けられたものでもない呟きに、兵員輸送船MIが応えた。


「艦隊旗艦MIより、波方少将個人にレーザー通信回線開設要求あり。

 承認するか?(イエス/ノー)」

「イエスよ。繋いで」


 あいが答えると、ややあって、落ち着いた女性の声がキャビンに反響した。


「こちら、艦隊旗艦MI。

 地球6号の安全な航行が確認できるまで、貴船をエスコートします」


 艦隊旗艦MIが明らかに好意を示してくれている。だが、あいには理由が分からない。


「ありがとう……。でも、どうして、そこまでしてくれるの?」

「本MIは、かつて、HMMP199と呼ばれていました」


 あいの大きな目が驚きでさらに大きく見開かれた。


「あなた、あの時の……」

「はい、メダカの学校を、最後に卒業したメダカです」


 女性の声はほとんど笑っていた。



◇ ◇ ◇



 しばらくして、契約解除が正式に人事データベースに反映され、晴れて波方少将はいち民間人、波方あいとなった。


 その後、判明したところによると、フィッシャーによる派遣命令は、実際には契約解除のあとに発令されていた。


 あいは査問委員会による発表の前に、発効日を記載しサインした契約解除通知書を、ロバーツ中将に預けていた。発表後、ロバーツ中将が即座に除隊の承認をデータベースに入力したが、反映されるまでタイムラグがあったのだ。


 ケイナリアのサイボーグ兵士リンが池に投棄した鞄には、最初から契約解除通知書は入っていなかった。あいが弁護士に会ったのは、個人的な依頼のためであった。

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