暗殺(2)
リアが急ぎ足で廊下を曲がると、艦隊の白い制服姿の少女達の姿が目に入った。
<今みんなの後ろに来てる。準備はいい?>
リアが念話で声を掛けると、一斉に返事が返ってきた。
<リア、遅いよ!>
<隊長さえ良ければ、いつでも!>
<居住区の地図は頭に叩き込んだよ>
<みんなのボディの点検項目、異常なし>
幾つもの戦いを共に切り抜けてきた仲間。
(この子たちと一緒なら、どこまでも行ける!)
とリアは思う。
5人は総合司令部の廊下をジャンプを繰り返すように走ると、すぐに木々の鮮やかな緑が見えてきた。居住区は目の前だ。リアは4人を抜き去り、先頭に出る。
居住区に入ると一気に視界が開けた。天井は高い。10m以上はある。リアは走りながら合図を送る。
<みんな、いくよ……。エアボーン!!>
<<<<オール・ザ・ウェイ!!>>>>
リアは軽く腰をかがめると、次の瞬間には両足で地面を強く蹴り、空中高く飛翔していた。驚く居住区の住人を背後に残し、4人も飛翔する。
リアを先頭に空中で∨字隊形を組む。
彼らは高機動型サイボーグだ。両手首の甲側、両足首の踵側にスラスターが内蔵されている。艦隊総司令部のような低重力下であれば、飛行ユニットが無くとも、飛行が可能だ。
人も建物も飛び越えて、一気に居住区を突っ切る。
彼らの行く手を遮るものなど、何一つなかった。
◇ ◇ ◇
「波方あい少将、23番ゲートから兵員輸送船に搭乗して下さい」
MIの無機的なアナウンスに、あいはゆっくりと立ち上がった。
鞄を持ち上げて、23番ゲートへのほうへ向かって歩き始めると、その向こうから、サングラスを掛けた、白いワンピース姿の女性が近づいてきた。女性はあいの前で、ハイヒールの脚をもつれさせて転んだ。
「――いった~い!」
「……大丈夫ですか?」
一瞬、女性に駆け寄る素振りを見せたあいだったが、女性の右頬のホクロに気がつくと、掴みかかる女性の手を振り払って、その場から足早に離れていった。
<ごめん、みんな、バレた、急いで>
<モカ……もうすぐ……見えた!!>
白いワンピースを着た女性、モカの横を4人の少女が通り過ぎた。
先を行くあいは、もはや歩いてはいない。低重力の許す限りの駆け足で、23番ゲートのなかに入ってゆく。
リアが立ち止まり、左腕を前に突き出した。リアの左手の甲から、シュッという軽い音とともに何かが打ち出された。その物体は、数mの距離を飛び、あいが通過したばかりのゲートの枠に刺さった。
(チッ!)
内心で軽く舌打ちをして、リアがゲートを突破すると、その後に3人の少女たちが続いた。ゲートをくぐった先のシャトルベイで、兵員輸送船に乗り込むあいの姿がリアの目に入った。
振り返ったあいの視線と、リアの視線が交錯する。
ほんの一瞬。
あいの口が動き、リアに何かを告げようとした。
だが、
「マリ! 撃って!」
リアの叫び声に、一人の少女が腰を軽く落として、拳銃の引き金を引いた。
一瞬前まであいのいた空間を、弾丸が通り過ぎる。
あいが兵員輸送船に乗り込むと同時にハッチが閉じて、あいを狙った弾丸を間一髪で弾く。
「クソ!」
マリが毒づいた。
緊急事態発生のシグナルを受けたMRU達が殺到し、リア達に組みつき、覆いかぶさった。機械の容赦のない力で、リア達はコンクリートの冷たい床に押さえつけられていた。
その時、チーム全体に念話が入った。
<こちら、リン。ターゲットが接触していた弁護士の鞄を確保し、池の中に投げ捨てた>
床に顔を押し付けられたまま、リアが美しい顔をニヒルな笑いに歪ませた。波方あいを直接暗殺することは出来なかったが、プランBは成功したのだ。
◇ ◇ ◇
あいが兵員輸送船に乗り込むと同時に、若い男性クルーがマニュアルでハッチを閉じた。
カンッ カンッ
あいを狙った銃弾が船殻に弾かれる音が響く。
兵員輸送船の内壁に背中をもたれて、あいは肩を上下させ息をあえいでいた。
心臓が激しく鼓動していた。
機械類との戦争において、これまでに何度も危険な状況に陥ったことはあったが、それらは全て艦隊戦だった。ここまでの生命の危機を肌感覚で感じたのは初めてのことだった。
あいは震える手で小さな鞄を抱きしめた。
(オリバー君、大丈夫だよ。オリバー君を地球に連れて帰るまで、ウチは絶対に死なない!)
◇ ◇ ◇
ラウンジの壁面モニターに映った女性アナウンサーが、ニュースを読み上げていた。
「――ニュース速報です。艦隊MIはケイナリアの惑星全土の殺処分を行う計画であった、との情報が入りました。
連合艦隊からの内部告発によりますと、艦隊MIは、波方少将によるケイナリア首都に対する殺処分の承認を利用して、実際には、ケイナリアの軌道上に展開していた複数の戦艦を用いて、惑星全土の殺処分を行う計画であった、とのことです。
繰り返します。艦隊MIはケイナリア全土の殺処分を行う計画で……」
(そんな! 殺処分なんて! 惑星全土の殺処分だなんて、聞いてない! 逆上陸作戦の火力支援のはずだったのに!)
人々の叫び声で騒然となるラウンジで、自分たちが何者かに操られていたことを悟り、モカは呆然と立ち尽くしていた。




