査問委員会(1)
黒と灰の斑模様を散らしたような迷彩服に身をつつんだ6人の少女達が、強襲上陸艇に閉じ込められていた。
ケイナリア惑星軍からは、何の連絡もない。分かっていることは、上陸作戦が何らかの理由で中止となり、艦隊総司令部に戻ってきた、ということだけである。
食べて寝る以外、6人には何もすることがない。目を瞑る者。ストレッチをする者。携帯端末で読書をする者。それぞれに時間を持て余していた。
船内には、先程からトン、トン、トンというリズミカルな音が響いていた。音の正体は、少女の靴が床に当たる音であった。ツインテールに編んだ金髪を振り乱して少女が叫んだ。
「ああ、もう、限界だよ!」
またか、という表情で他の少女達が顔を見合わせる。気の短いユマが発狂するのは毎度のことである。
「そうだ! いいこと考えた! 装甲ゲートを爆破しよう! モカ、すぐに気密服着て外に出よう!」
モカと呼ばれた少女が携帯端末から顔を上げ、顔に掛かる後れ毛を払う。右頬のホクロが印象的な少女、モカは戦闘工兵である。チームにおける爆発物のスペシャリストだ。
「リア、ユマがあんなこといってるよ!」
モカが笑いながら、隣に座った少女の右腕に触れると、少女は右目だけを開いてニヤリと笑った。少女は、先日、泥酔した男達からあいを救ったリアだった。
「私にもっといい考えがある。ユマ、戦艦MIをハッキングして装甲を開かせるんだ。なんなら、色仕掛けで落としてもいい。人間に興味を示す変態MIかもしれない」
ユマはチームにおけるシステム担当だ。以前、ユマは仮想空間で知り合った男性と交際をしていたのだが、後に男性がMIであると判明し、大騒ぎをしたのだ。それ以来、ユマは大のMI嫌いである。
ユマの顔が赤くなり、何か言いかけた時、
ビイ!
強襲揚陸艇のキャビン内にブザー音が響いた。
「こちら、強襲揚陸艇MI。
傭兵協会フィッシャー少将よりレーザー通信回線開設要求あり。
承認するか?(イエス/ノー)」
「イエスよ。繋いで」
リアが即答すると、正面のモニターに中年男性の顔が映し出された。男性が何の前置きもなく、話しだした。
「傭兵協会のフィッシャーだ。君たちのリーダーと話がしたい」
「リーダーは私よ。お話は何かしら、フィッシャーさん?」
リアが立ち上がり、モニターの前に進み出た。フィッシャーと名乗った男がわずかな時間、言い淀んだ。
「……君たちはケイナリア惑星軍から連絡を受けているか?」
「いえ、まだ受けてないわ」
「艦隊からは話を聞いていないのか?」
フィッシャーの歯切れが悪い。
「……聞いてないわ。何が言いたいの、フィッシャーさん」
「ケイナリアの首都が完全に魔物化したそうだ。おそらく、君たちの惑星軍司令部もすでに――」
リアが声を荒らげた。
「ちょっと待って、そんなはずないわ! シェルターには3年分の備蓄がある! 周辺の魔物さえ駆除すれば、すぐにでもシェルター内部から部隊を出して、首都を取り返せるはずだよ!」
「……傭兵協会が入手した情報では、シェルター内部でフェーズ3のアウトブレイクが発生したようだ」
フェーズ3のアウトブレイクはコミュニティレベルでの複数の実体化した魔物の発生だった。閉鎖空間で魔物のアウトブレイクが起こったなら、その結果は明らかであった。
「――そんな」
ケイナリアはリア達の生まれ育った故郷だ。ケイナリアの首都が魔物の手に落ちたという情報は、故郷を取り戻すために魔物との戦いに明け暮れてきた彼らに、強い衝撃を与えていた。
少女達の動揺を見て取ったフィッシャーが、痛ましそうに続けた。
「……今回の攻撃承認がヒューマンファクターの波方少将によって拒否されたのは、君たちも知ってのとおりだ。
波方少将が攻撃を承認していたら……、今頃ケイナリアの首都は取り返せていたはずだ。傭兵協会の一員として、大変遺憾に思う。
艦隊は波方少将による命令違反を疑っており、傭兵協会に査問委員会の設置を要求している。私は傭兵協会の監査チームの責任者として、事実関係の確認のため、君たちに証言台に立つことを要請したい」
◇ ◇ ◇
傭兵協会の区画を、大柄な体つきの憲兵2人に挟まれるようにして、波方あいが歩いていた。
会話はいっさい無かった。重苦しい空気のなかを、一行は迷路のように入り組んだ廊下を歩き、ひとつのドアの前で止まった。
「波方少将をお連れしました」
「お通ししてください」
憲兵が開けてくれたドアに入ると、中は広い会議室となっており、長机がコの字型に配置されていた。机には傭兵協会の長老から構成された査問委員会の面々が座っていた。
正面のモニターには傭兵協会のピクトグラムが表示され、その前では「ロバーツ中将」と表示された席に座った初老の男性が書類をめくっていた。
コの字の開いた位置にあいがつくのを待って、ロバーツ中将が顔をあげ、開会を宣言し、査問が始まった。
「波方少将。あなたは艦隊MIからの攻撃承認の要請を受領していた。間違いありませんね?」
「間違いありません」
背筋を伸ばした姿勢で、あいが答えた。
「攻撃目標は魔物および魔物の占領した都市でした。これも間違いありませんか?」
「はい。間違いありません」
「しかし、あなたは攻撃を承認しなかった」
「はい」
「理由を説明してください」
ロバーツ中将の鋭い視線が、あいの目を正面から見据えた。
「攻撃目標とされた区域には多数の市民が生活していました。市民を攻撃することはできません」
「ロバーツ中将」
査問委員のひとりが声を上げた。
「波方少将は攻撃目標区域に銀河文明の市民がいたという前提で議論を進めています。しかし、その前提事実そのものに争いがあります」
神経質そうな中年男性の座った席には「フィッシャー少将」と表示されていた。
ロバーツ中将は大仰に頷いて、波方少将への質問を続けた。
「あなたがMIによって判定された魔物を、市民であると判断した理由を教えてください」
「攻撃承認の要請前に、私は地上偵察ドローンからの映像を確認しました。彼らは犬のような姿をしていましたが、2足歩行しており、衣服を身に着け、商業活動を行っていました。また彼らの……幼体の映像も確認しましたが、幼体の様子は、人間の子供が遊ぶ姿そのものでした。私はヒューマンファクターとして、MIの攻撃承認要請に対し、NOの判断をしました」
あいはそこまでを一気に陳述すると、コップの水に口をつけた。




