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サジタリウスA(1)

 局地高速戦闘艦、通称、局高戦からなる艦隊が銀河中心ブラックホールの遷移点で実体化した。銀河中心ブラックホールは後年、地球ではサジタリウスAと呼ばれることになる天体である。


 いつものように、艦隊は遷移点に浮かぶブイから星系の最新情報を受け取ると、敵輸送船団の予想位置に針路を定め、巡航速度で航行しながら迅速に隊形を組み上げる。


 艦隊旗艦オーロラのキャビンでは、銀河連合艦隊の白い気密服に身を包んだ黒髪の美しい少女が、シートに固定された小型スクリーンを指先で操作していた。大きな切れ長の目。ぷっくりとした下唇。艶のある長い髪は邪魔にならないように後ろでまとめ上げられていた。傭兵協会によって今治空襲から救われた少女、波方あい(・・)だ。


 宇宙戦艦のヒューマンファクターとして傭兵協会から銀河連合の艦隊に派遣されて既に6年が経ち、あいは16歳になっていた。重力のない環境において肢体は伸びやかに成長し、70数年後に出会うことになる妹の孫、波方愛よりも10cm以上背の高いスリムなプロポーションの少女に成長していた。


 あいは天の川銀河のオリオン腕肢の各方面を転戦、功績を上げ、単なるヒューマンファクターではなくMI(機械知性)に戦い方を提案できる存在として認められ、階級も中佐へと異例の昇進を遂げていた。


 ビイッ! ビイッ! ビイッ!!


 キャビンにブザー音が3回響いた。あいの心臓が跳ね上がる。ブザー3回は悪い報せだ。


 立体ディスプレイの中心に味方艦隊を示す青い輝点群、ディスプレイの上部に敵対勢力を示す赤い輝点群が表示された。


<未確認の艦影。数は400隻以上。


 アップデート!!

 機械類の戦闘艦。数は500隻以上。これまで未確認の艦種。


 アップデート!!

 機械類の新鋭戦艦。数は600隻以上。加速性能は局地高速戦闘艦と同等かそれ以上の戦闘艦。

 本艦隊に向かってダイブ開始>


 明らかな罠だった。これまで局高戦艦隊に連敗を喫してきた機械類が、新しい戦闘艦で局高戦艦隊を葬り去り、戦局を覆そうとしているのだ。


 ディスプレイでは敵艦隊が味方艦隊に向かってダイブしてくる様子が表示されていた。モニターには会話ログが狂ったように流れていた。MI同士が激しく議論をしているのだ。


 だが、今は議論をしている時間はなかった。


「艦隊MIに提言。

 艦隊はダイブを続行。スイングバイして到達可能な遷移点から離脱する」


 モニターの会話ログが止まった。


「艦隊MIは波方中佐の提案を暫定的に認容」


 艦隊MIからの操艦指示書に従い、オーロラもすぐにダイブに入った。 


 その後、艦隊はサジタリウスAに向かってダイブしながら、到達可能な遷移点に向けて何度かスイングバイを試みたが、敵もこちらの意図を悟り、その度に軌道を読まれ、先回りされ、上からの攻撃ポジションを取られてしまった。艦隊は次第にサジタリウスAに向かって追い詰められていった。


 砂粒のように小さかったサジタリウスAが、いつのまにか、ディスプレイの下半分に大きく表示されていた。


 濃い紫の領域は光すら飲み込んでしまう領域、いわゆるイベントホライズン。この領域に足を踏み入れると一巻の終わりだ。


 その外側の薄い紫の領域はエルゴ領域と呼ばれ、空間そのものがブラックホールの回転に引きずられて回転する空間を示していた。


 モニターの会話ログが少なかった。MI達の議論が少ない。艦隊全体にいやな空気が漂っていた。あいは技術部に異動した時に技術部MI達と交わした議論を思い出していた。あの時は現実的ではないと言われた。だが、この状況であれば……


「艦隊MIに提言。

 エルゴ境界の周回軌道で敵艦隊にドッグファイトを挑む!!」

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