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2階級特進

「艦隊総司令部に到着しました。ウェルカムホーム!」


 お決まりのシャトルMIのアナウンスとともにハーネスが上がった。波方あい(・・)はシート横の物入れから帽子と小さな鞄を取り出すと、ゆっくりとシートを離れた。低重力下で転倒したりしないように、慎重にシャトルを降りると、ゆったりとした足取りで傭兵協会区画にある上官のオフィスへと向かった。


 今回の寄港は、残念ながらオリバーの寄港のタイミングとは重ならなかった。あいに急ぐ理由はなかった。


 廊下を何度も曲がりながら進んでゆくと、正面の壁に敬礼する人の絵表示(ピクトグラム)があった。傭兵協会の一角だ。複雑な内部構造の艦隊総司令部であるが、ここまで来れば道に迷うことはない。上官のオフィスを見つけ、あいはドアをノックした。


「はい」


 なかからローラ・グッドマン少佐の声が聞こえた。


「失礼します。波方中尉、帰投しました」

「中に入って」

「失礼します」


 あいがドアを開け、敬礼をしてから中に入った。オフィスの机で事務仕事をしていたグッドマン少佐が顔を上げた。あいはデスクの前に移動し、直立した。


「ご苦労さま。作戦報告を提出して」

「はい!」


 あいは体内のCPUを通して、直ちに作戦報告書をグッドマン少佐に送信した。


「送信完了しました」

「……内容を確認しました。受領します」

「ありがとうございます。それでは、失礼します!」

「――ちょっと待って」


 背を向けかけたあいをグッドマン少佐が呼び止めた。グッドマン少佐が立ち上がった。


「私の後についてきて」


 グッドマン少佐が先行し、傭兵協会区画の廊下を進んでゆく。しばらく歩くと、別のオフィスの前に辿り着いた。グッドマン少佐がドアを軽くノックした。

  

「グッドマンです。波方中尉を連れてきました」

「入り給え」


 グッドマン少佐の後に続いて中に入ると、そこはグッドマン少佐のものよりも広めのオフィスであった。2人掛けのソファが向かい合う形で置かれており、壮年の男性と初老の男性が座っていた。


 壮年の男性が立ち上がった。グッドマン少佐に少しだけ遅れて、波方中尉も敬礼すると、壮年の男性が模範的な敬礼を返した。


「波方中尉。艦隊が崩壊したかのように見せかけた上での攻撃球形成は実に見事な提案だった」

「いえ……私は余計なことをいったような気がしています」

「謙遜することはない。これからもその調子でやりたまえ」


 壮年の男性が軽く咳払いをして続けた。


「辞令。本日付をもって、波方あい中尉を少佐に任ずる。今回、作戦を成功に導いた貴官の功績は大きい。これまでの業績も鑑みて、委員会は満場一致で貴官の2階級特進を承認した。以上だ。今後一層の奮励を望む」

「はい、謹んで拝命いたします!」


 グッドマン少佐に続いてオフィスを辞し、丁寧にドアを閉めると、あいは大きく息を吐いた。


「グッドマン少佐、私、少佐に昇進しました!」

「ふふふ、立派になったわ! 追いつかれちゃったわね」

「グッドマン少佐のおかげであります! ……少佐になると何か良いことがありますか?」

「給料があがるわ。ギャラがたくさん入るわよ」


 ギャラは銀河文明の通貨単位であり、ギャラクシーの略である。


「とても嬉しいです。豪遊したいです! あ、でもやっぱり貯金かなあ?」

「日本人は堅実ね」

「今のおふたりはどなたですか?」

「辞令を読み上げた方はトラウトマン大佐よ。私の上官であり、今後はあなたの上官でもあるわ。トラウトマン大佐の向かいに座っていた方は情報部の方よ。私も名前は知らないの」


 波方少佐はグッドマン少佐と別れ、総司令部内の居住区へと向かった。さきほどグッドマン少佐に貯金するといったばかりではあったが、ほんの少しだけ、自分にご褒美をあげる気になったのだ。


 居住区内では多数の民間人が様々な店舗を経営していた。あいの足はとある(・・・)店の前で止まった。看板には、色とりどりの半球がカップに盛られた漫画絵が描かれていた。ドアを開けて中に入ると可愛らしい格好をした女性店員がニコリと微笑んだ。


「いらっしゃいませ。店内でお召あがりですか?」

「はい!」

「お味見いかがですか?」

「この水色のを……」

「では、こちら、水色のフレーバーのお味見でございます。スプーンをどうぞ」


 あいはピンクの小さなスプーンを受け取ると、そっと口に運んだ。


「……美味しい。これは何の味ですか?」

「こちらは惑星トレリア産の紫ミントのフレーバーとなっております。病みつきになりますよ」

「ふうむ。こちらの赤色のアイスは何味ですか?」

「こちらは惑星スラリアのバラのフレーバーです。一度嗅いだら忘れられない匂いって言われてますよ」

「味見、いいですか?」

「はい、どうぞ!」

「……美味しい」


 結局、あいは両方のアイスをキングサイズのカップに入れてもらい、店内のシートに収まると、早速口いっぱいにアイスを頬張った。


「あむ?! ブルドック隊長どの、美味しいであります! 感激です! 少佐の給料で、1日に何個アイスクリームを食べられますでありますか?」

「少し待て……。約50個だ」

「なんたる幸せ!」

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