メダカの初陣(2)
艦隊MIより操艦指示書が送付されてきた。シート脇のモニターで内容を確認すると、あいが艦隊MIに提言した内容が採用されていた。
あいは内心、ほっと胸をなでおろす。だが、会敵まであと5分しかない。気持ちを引き締めて立体ディスプレイを睨む。
敵デルタ、イプシロン艦隊は、タイミングをあわせて、味方艦隊を同時攻撃する戦術だ。味方艦隊の視点から見ると、左右の斜め前方から敵艦隊が迫ってくるイメージだ。
最初の機動までもうすぐだ……。
ビイッ!
キャビンにブザー音が響いた。
「艦隊MIより各艦へ。
送付した操艦指示書に従い、各自行動せよ」
指示書によると、コンテナ母艦は円錐隊形の内部で守られる位置だ。
あいの体がシートに押し付けられる。あいの座乗するコンテナ母艦が急加速していた。直前に艦隊の軌道をずらし、敵が未来位置を予想できないようにするのは、宇宙戦闘のセオリーだ。
艦隊は円錐隊形を保ちながら、敵デルタに向かう。
青い輝点群が動いたあとには、無数の小さな、青い輝点群が残されていた。その数は、シート脇のモニターによると199機。つい先程まで、円錐隊形の艦影の陰に隠れていたHMMP達だ。
HMMP達は、最後の急機動を行わず、そのままの位置に残ったのだ。HMMP達は艦影が小さく、敵に捕捉されていなかった。
いないハズだ。
この距離まで近づくと、距離による遅延効果も数10秒程度。「もしもし」が返ってくるまで数10秒の距離だ。
敵の動きに変化が見られた。敵デルタ、イプシロン艦隊が大きく動いていた。こちらの動きを打ち消そうとする動きだ。敵はあくまでも挟み撃ちにこだわっているようだ。
「波方中尉、加速がくるぞ!」
ブルドック隊長の警告と同時に、あいの体が先程よりも強くシートに押し付けられる。
「くうっ!」
あいは体をシートに固定している∪字型のハーネスにしがみついた。艦体のきしむ音が聞こえてくる。
突然、衝撃が艦体を揺さぶる。急いでモニターを確認するがコンテナ母艦にはアラートは出ていない。すれ違った敵艦の爆発する衝撃か、味方艦の爆発する衝撃か――。
0.1光速に迫る速さですれ違う艦隊同士の戦闘は一瞬で終わった。
(戦闘の結果はどうだったんやろうか?)
あいがディスプレイへと視線を戻すと、早速、戦闘評価結果が反映され始めていた。赤い輝点が減ってゆく。
「戦闘評価。
敵デルタ艦隊109隻中、撃沈 10隻、撃破 47隻。
敵イプシロン艦隊89隻中、撃沈 2隻。撃破 75隻。
艦隊損害、撃沈3隻。大破9隻。
HMMP損害、なし」
波方中尉の顔が笑顔に輝いた。
「やったあ! HMMPの損害、無しだあ!!」
敵艦隊はHMMPの存在を探知できなかったのだ。おそらく攻撃を受けて初めて、レーダーに映る低シグネチャ体が危険な存在だと気づいたのだろう。
いっぽうで、HMMPと交戦した敵イプシロン艦隊の損害が撃沈2隻、撃破75隻と極端に偏っているのは、HMMPの火力不足が原因だ。
ぼろぼろになった敵デルタ、イプシロン艦隊を背後に残し、味方艦隊は再び円錐隊形を組み上げた。HMMP達は整備のために母艦へと戻った。全てのHMMP達がポートに収容されるまでわずか30分。日頃の猛訓練の賜物だ。
艦隊は敵の拠点へ向け、速度を上げた。
◇ ◇ ◇
あい達のベータ艦隊が敵の拠点に向けて航行を続ける間に、味方のアルファ艦隊も敵の主力艦隊を相手に手堅い勝利を収めていた。アルファ艦隊はそのまま、ベータ艦隊が撃破した敵2艦隊の残存艦艇にぶつかってゆく軌道だ。
あいが腕組みをしながら立体ディスプレイを睨んでいると、ブルドック隊長の声が聞こえてきた。
「敵拠点攻略の先鋒はベータ艦隊に任された格好であるな」
「はい……。艦隊がこの星系に到着した時、5つの敵艦隊がいたでありますが……」
5つの敵艦隊のうち、3つは既に撃破していた。
「1つは工場船の艦隊だった。早々に敵拠点近くの遷移点から逃げ出しておるぞ」
立体ディスプレイには、最後の敵艦隊が赤い輝点群で示されていた。赤い輝点群からは赤い線が伸び、味方艦隊の青い輝点群から伸びる青い線と交差していた。
敵艦隊はベータ艦隊を迎撃するコース上にあるのだが、
「会敵までは、まだまだ時間があるぞ」
「宇宙戦争とは、ほんとに気の長い将棋ですねえ」
その間、銀河連合のベータ艦隊が何もしなかったわけではない。
敵の拠点は、恒星をはさんで反対側の、氷巨星の小さな衛星上に存在していた。その衛星は鉱物資源が豊富であり、機械類の自動工場が増殖するのに、うってつけの環境だ。
敵拠点を放射器で攻撃するためには、減速して、ガス巨星の周回軌道に入る必要があった。
減速前に、ベータ艦隊の巡洋艦は敵拠点に対して爆撃を行った。爆撃、とはいっても、地球での戦争のように火薬を詰めた爆発性の容器を投げつけるわけではない。宇宙空間には酸素がないので、敵に火薬を配達するような行為は無意味だ。
宇宙戦争において、火薬よりも致命的な兵器は単純な質量である。巡洋艦達は、敵拠点の未来位置を予想し、マスドライバーを使って鉄の塊をどんどんと投げつけていた。




