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窮鼠、猫を噛む

 ビイッ、ビイッ、ビイッ


 シャトルキャビンにブザーが3回鳴った。


「機械類の艦隊が、こちらに戻ってきておるな。シャトルが脱出したのを見られたのか、よほど疑り深い性格なのか」

「あわわわわっ、ブルドック隊長どの、どうしましょう!?」

「焦ってはならんぞ! シャトルを洞窟に引き込んで、入り口を岩石で覆ってしまえば、見つかるまい」



◇ ◇ ◇



「彼奴らめ、小惑星を片っ端から爆撃しておるな」


 ディスプレイには、8つの赤い輝点がゆっくり航行しながら、輸送船団ルート上の主だった小惑星に攻撃を加えている様子が映し出された。


「2日足らずでこのじゃがいも小惑星にもやってくるであろう。シャトルを洞窟に引き込みはじめるか」


 ブルドック隊長は独り言をいっているように見えて、じつのところ、シャトルMIと元駆逐艦MIがブルドック隊長を通して情報を与えてくれているのである。



◇ ◇ ◇



 2隻の小型艦、5隻の巡洋艦からなる機械類の艦隊は、めぼしい小惑星に爆撃を加えながら、輸送艦隊の航跡を逆にたどり、ついにじゃがいも小惑星の近くまでやってきた。機械類の動きを、あいとブルドック隊長は小惑星の表面に取り付けたカメラで観察していた。


「機械類はどうしてこんなにしつこいのでしょう?」

「輸送艦隊の加速度から、脱出したシャトルに人間が乗っていると推定したのだろう」


 あいには、人間がシャトルに乗っていることと、機械類がしつこいことの関係がよく分からなかった。


「どういうことでありますか?」

「理由は分からないが、機械類は人類を憎んでおるのだ。ある研究によると、彼奴(きゃつ)らは、彼奴(きゃつ)らを創造した人類を滅ぼしたとも言われておる」

「恩知らずな連中でありますねっ!」


 機械類の艦隊がじゃがいも小惑星に近づくと動きが止まった。


「お、どうやら、気がついたようだぞ」


 機械類は周辺を浮遊する無数のデブリが、貨物セルであると認識したようだ。機械類艦隊の問い合わせに対し、貨物セルに取り付けられたスマートタグが貨物の内容を忠実に回答した。パーティションで仕切られたセル内部には燃料や様々なコンポーネントが貨物として格納されていた。どの貨物も、銀河連合の駆逐艦との戦いで傷ついた彼らにとって必要な物資であった。


 貨物セルは機械類艦隊との短いやりとりのあと、艦に貨物を搬入するべくスラスターを噴射し、ゆっくりと移動を始めた。


 最初のセルが慎重に艦内に搬入されると、すぐに貨物が確認された。貨物に付属していた品質保証データにも何の問題もなかった。原料担当の機械類の判断は、すぐに艦隊の兵站担当の機械類へと伝わり、周囲を浮遊している貨物セルは兵站担当の指示に従い、スラスターを噴射し始めた。


 貨物セルはランダムな動きを止めて、アルゴリズムに従って艦隊への搬入が開始された。


 巡洋艦の分厚い装甲が開く。貨物の搬入口だ。


 ひとつ、またひとつ、貨物セルは巡洋艦の腹に大きく開いた搬入口から内部へと収納されて行く。


 全ての作業は順調に進行していた。


 ――突如、なんの前触れもなく、1隻の巡洋艦が爆散した。


 機械類は混乱した。周囲には銀河連合の艦船は確認されていないのにもかかわらず、貨物の搬入中に突如攻撃を受けたのだ。


 巡洋艦が爆散すると同時に、周囲を浮遊する無数の貨物セルのうち、7つの貨物セルがスラスターを噴射させ、方向を微調整した。


 7つの貨物セルは貨物として放射器を格納していた。貨物セルは、こともあろうに味方である機械類の艦隊に向け、放射器の照射を始めた。残った4隻の巡洋艦のうち、1隻は背後から推進装置に攻撃を受け、爆散し、プラズマの火球と化した。1隻の巡洋艦は搬入口から内部を攻撃され、大破した。


 2隻の巡洋艦は複数のセルから至近距離の攻撃を受けて、行動不能となった。残された2隻の小型艦はその素早さを活かすこともできず、すぐに放射器の餌食となった。


 機械類の艦隊は全滅した。


 貨物セル――実質的には小型攻撃艇――は、その後も、艦艇の残骸に攻撃を加え続けた。


 数週間に渡って輸送船団を追いかけまわした機械類の艦隊は、小惑星の周囲を漂う無数のデブリとなり、やがてそれらも散り散りになり消えてしまった。



◇ ◇ ◇



 数日後、遷移点に見慣れた艦影が現れた。銀河連合の戦艦だった。シャトルMIはすぐに救助要請を発信した。


「味方でありますよ!」

「どうだ、波方少尉、なんとかなったであろう? 機械類の工場と小型核分裂リアクター技術の土産付だ。艦隊総司令部も大いに喜ぶであろう」

「私は生きて帰れるのが一番うれしいでありますよ!」


 あいはにっこりと笑った。この数週間で初めて、あいは心から笑うことができた。


「今回の『トムとジェリー』は、ジェリーがトムを見事に撃退したではないか!」

「あはは……現実の世界のジェリーの人生は、辛いもんですねえ」


 ブルドック隊長のジョークに苦笑いする、あいなのであった。

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