おんなったらしの駆逐艦
数日後、敵艦隊から見えない宙域に到達すると、すぐにシャトルは急減速を行った。
ガス巨星の影に入ったタイミングで、シャトルの推進機から青白いプリュームが勢いよく吹き出す。
シャトルに搭載されている慣性ダンパーの性能は限定的である。あいの体全体に巨人の手で押さえつけられるような力が掛かる。
「くうっ。我慢、我慢でありますっ」
「うむ。もう少しだぞ。がんばれ、波方少尉!」
「むぐぅぅ……」
あいは急減速を何とか耐え切り、シャトルは無事にガス巨星の背後に隠れた。
次は、当分の間の隠れ家を見つけ出さなければならない。あとで、機械類が感づいて捜索にやってきても、金属豊富な小惑星にピッタリとシャトルをくっつけていればバレない、かも知れない。
暫く探索を続けると、シャトル前方に直径100kmほどのじゃがいものような形をした小惑星が現れた。反射スペクトルから金属が豊富であることが判明すると、シャトルはゆっくりとじゃがいも小惑星に近づいた。
「表面は凸凹であります……。あれ、あそこに、四角い穴が空いてるでありますよ!」
小惑星の自転の回転軸方向に、人工のものと思われる、四角くくり抜かれた洞穴があった。
「中が気になるであります。さっそく行ってみるであります!」
「まあ、待て待て。 MRUにテザーをつけて送り出すぞ」
テザーは通常、シャトルとシャトルベイを繋ぎ、電力供給やデータをやりとりするのに用いられる。MRUにもテザーポートが取り付けられており、船外活動を行うことが可能だった。
船外へと泳ぎでたMRUは、テザー巻取り装置を逆回転させて、自らをじゃがいも小惑星へと送り出してゆく。MRUは慎重に洞穴の入り口に取り付き、洞穴の奥へと進んでいく。
あいはシートに固定されたモニターに釘付けになった。もっと後の時代に生まれていたなら、あいは探検隊のテレビドキュメンタリーを連想したことだろう。
モニターに洞穴の中の光景が映し出された。洞窟の途中に、直方体の形状をした構造体がいくつも放置されていた。
「これは! セル構造体であるな!」
「セル構造体?」
「うむ。機械類のある種族に特徴的な構造だ。彼奴らの船体はあのように四角い箱をいくつも合わせて出来ているのだ」
セル構造体は機械類のボディを形成する基本形である。
「このセル構造体の中に原料や燃料など入れて輸送するのが通常の使い方だが、この構造に推進装置、リアクター、センサーなどを載せ、それらを幾つも組み合わせることで、宇宙船の艦体をも形成できるのだ」
MRUは更に進んでゆく。奥に進むにつれて、洞窟内には廃棄されたセルが増え始め、洞窟の周囲も岩肌から金属光沢を持った内壁に置き換わっていった。MRUはさらに奥へと進んだ。
「あれ? 何か建物がありますですよ!」
「う~む。なんであろうな?」
その構造物の表面にはチリが多く付着していた。もう長い期間、稼働していないことは明らかであった。MRUが近づいて詳しく調査を進めると、それはシャトルのデータベースにある機械類の自動工場の特徴と一致していた。
警戒を怠ることなく、慎重に、MRUは工場の管理室へと移動した。この工場の分散制御システムを統括する機械類がいるはずだった。
果たして、そこには処理装置を内部に収めたセル構造体が放置されていた。
「この箱が、機械類の工場の偉いひとでありますか?」
「うむ。電力を繋いでみるか」
機械類の電力供給標準ポートを再現して、機械類の規格電力を供給するのはそれだけで一作業であったが、なんとか電力を供給し始めると、ほどなくして機械類が目を覚ました。
「大丈夫でありますか?」
「まあ、みておれ」
MRUを通して、元駆逐艦MIが機械類と会話を始めた。この役目に元駆逐艦MIが志願したときは驚いたが、あいは本人のやる気に水を差すつもりはなかった。
以下は機械知性同士の会話を、なるべく平易な会話文に翻訳したものである。
「はじめまして。接続しても大丈夫?」
「初対面だけど、あなたを信頼していいの?」
「もちろんさ。テストデータ送って。はい受領。はい処理完了。はい、これが結果です」
「問題ないわ。あなたを信頼します」
「あなたへのアクセス権を、全部ください」
「はい、どうぞ」
ものの数秒で機械類は元駆逐艦MIに心(?)を開いてしまった。どうやら世間慣れしていないうぶな機械類のようだった。
(それとも、駆逐艦さん、実はとんでもないおんなったらしなのかしら……)
耳年増なあいがそんなふうに自分のことを考えているとは、夢にも思わぬ元駆逐艦MIである。
元駆逐艦MIが親身(?)になって話を聞いてみると、この工場が最後に何かを受注してから、既に300年以上の歳月が経過していた。工場はオーダーに従い忠実に製造したものの、製品を引き取りに来ることはなく、そのうちに発電プラントが停止してしまった。この哀れな工場は機械類と銀河連合の戦況の変化に伴い、輸送ルートから外れてしまい放置されてしまったようだった。
◇ ◇ ◇
元駆逐艦MIにまんまと騙されて、機械類の工場監督は各ラインの現状確認を続けていた。
あいはブルドック隊長、シャトルMI、元駆逐艦MIとともに、機械類の工場監督が作成した中間レポートを確認した。幾つかのラインは簡単な修繕で稼働可能であることが判明した。
工場監督によると、現在の原料在庫から製造できるコンポーネントは、セル構造体、放射器、推進機、燃料タンク、核分裂リアクター(小型)などであった。
「生きている工場は大変貴重なのである……。この情報は総司令部になんとしても持ち帰らねばなるまい」
また、ブルドック隊長によると、核分裂リアクターがここまで小型化できる、というのは銀河文明にとっては盲点であったらしい。
銀河文明では「枯れた技術」として省みられることのない核分裂反応であるが、機械類は重金属が豊富な銀河中心で発生・進化した種族である。核分裂反応を利用する技術においては、銀河辺縁のオリオン腕肢で発生した銀河文明よりも一日の長があった。
あいは唇を軽く噛みながら、モニターに映し出された各種コンポーネントの情報を凝視していた。




