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「ニーナさん、支度はよろしくて?」
デイヴィス侯爵夫人がわたしに声を掛ける。
「はい。お義母様」
あれから一年経った。
ルーク様にとっては、激動の一年だったと思う。
伯爵位をもらって、すぐに伯爵としての仕事をしなければならなかったし、国政でも割と中枢を担う役職を任されて、サリーさんの話によると帰宅すると湯浴みをする気力もなく爆睡する日も多かったらしい。
我が家も陞爵して伯爵位になったけれど、ミラー家はまだお父様が現役で当主の仕事をしているし、教会のボランティアに行く日ををかなり減らしたので、なんとかできている。
忙しい日々を送っても、お父様は絶対に教会に行く日をゼロにはしないので、わたしはちょっとお父様が心配なので、少ない日ではあるけれど、わたしもボランティアには進んで参加している。
そして、やっと、今日を迎えることができた。
白いチュールに金糸の刺繍を施されたウエディングドレスを着て、わたしは新婦の控室にいる。
ここの控室は広くて、デイヴィス侯爵家の応接室くらいの広さがあり、用意されたソファにミラー伯爵家のお父様お母様と、商家の家族3人が座って和やかに団欒している。デイヴィス侯爵夫人は、わたしの様子を見に来ていたのだ。
多分、ルーク様の控室には、デイヴィス侯爵様とアロン様がいらっしゃるだろう。
そして、お兄様も今はそちらに行っている。
ちなみに、わたしたちが今日結婚式を挙げるこの大聖堂は、王族がいた頃に王族と高位貴族が使っていた格式高く、広さも半端ないところだ。
新時代を築くきっかけとなった英雄の結婚式とあって、国内の貴族はほとんど出席を希望していた。
でも、全員はさすがに入りきれないので、家門の代表家族のみが出席している。
他国からの賓客も多い。
そのため、この大聖堂を使うのだ。
元国王が結婚した時より多いと言われた時は泣きそうになった。
ドレスにつまづいて転んだらどうしよう。
ミラー子爵家に養女に入ってから伸ばし始めた髪を綺麗に結い上げてもらい、その上にカサブランカをつけたベールを被っているわたし。
ちなみに、生花は枯れないように髪飾りにこっそり水を入れる入れ物がついているし、生きているお花は重い。
こう言ってはなんだが、大変豪華なドレスも重い。
ああ、これが幸せの重さなのね。
少し離れたところにあるティーカップを取り、冷めた紅茶を飲もうとすると、ミラーのお母様とフィーナお母さんが慌てて待ったをかける。
「こらっ! ニーナ。せっかく塗った紅が落ちてしまうでしょう」
ミラーのお母様がストップをかけ、フィーナお母さんがカップを取り上げた。
「緊張して喉が渇くんです~」
「トイレに行きたくなったらどうするの! その格好でトイレに行ったら大変よ。ひとりではできないわよ」
それは困る。
ひとりでできないと言われても、そんなもの誰にも手伝ってほしくない。
「ふ~っ、我慢しますぅ」
渋々とティーソーサーもお母様に返却した。
そんな様子を見て、デイヴィス侯爵夫人はクスリと笑った。
「ルークも朝から落ち着かない様子でしたのよ。やっと、あの子にも幸せな日が訪れるのかと思うと、わたくしも昨日は寝られなかったわ」
デイヴィス侯爵夫人は、わたしのすぐ側までやってきて、わたしの両手をしっかりと握った。
「ニーナさん、ルークを救ってくれてありがとう。何もできないわたくし達だったけれど、心の底からルークのことを心配していました。また笑顔を見せてくれるようになって、あの子が幸せになろうとしている。わたくし達親にとって、こんなに嬉しいことはないわ。本当に、ありがとう。デイヴィス侯爵家には入らず、デイヴィス伯爵家に嫁ぐ形になるけれど、何か困ったことがあれば、いつでもわたくし達を頼って。そして、2人で幸せになってくださいね」
ああ、ルーク様。
あなたのご両親は、やっぱりとても素晴らしい人です。
あなたのことを愛して、心配して。でも、不器用でそれをあなたに伝えることができなくて。
みんな、あなたの幸せを願っています。
だから、幸せになりましょう。
「はい。お義母様。ルーク様と2人、幸せになります」
嬉しくて、ぽかぽかと暖かいものがルーク様を包んでいるようで嬉しくて、ポロポロと涙が溢れ出てくる。
わたしがしっかり頷いたのを見届けて、デイヴィス侯爵夫人はルーク様の方の控室へと戻って行った。
嫁姑の幸せな空気を壊したくなくて、デイヴィス侯爵夫人が部屋を出ていくまで見守っていたミラーのお母様とフィーナお母さんは、慌ててわたしに走り寄ってきて、涙で崩れたお化粧を直す手配をしてくれた。
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いよいよ明日は最終回です。
それと、おまけでエピローグを書きました。
明日の最終回公開後、10分間を開けて公開致します。
くれぐれも、先に最終回をお読みになってから、エピローグをお読みくださいね。




