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一曲目

 俺は目の前に広がる景色に目を疑った。

 当然だろう。いつものように駅前で歌っていたと思ったらこれだ。

 右にはだだっ広い草原。左にも草原。

 後ろは、と見るとなんと山。とても人が登れるわけがないような断崖絶壁だ。

 そして目の前にはーー


 ボロを纏った女の子がいる。

 長い髪に隠れた顔はなんとなく存在感が希薄な感じがある。しかし、その髪から覗く瞳にはしっかりとした意志が宿っているように思えた。


 俺は自分の頭がおかしくなってしまったのかと思った。

 よし、心を落ち着けるためにギターでも弾こうと思って相棒を抱えなおそうとした。

 したのだが、俺の肩にはなにも掛かっておらず手が空を切るだけに終わった。


「お弾きになりますか?」


 目の前の少女が突然口を開いた。

 俺は驚いて、思わず首を縦に振って頷いた。


「わかりました」


 そう言うと少女は突然体を発光させた。

 何が起こったのか?と、突然の事態に困惑していると不意に自分の肩が重みを訴えた。


「あれ、ギターがある……もしかしてあいつがこいつでこいつがあいつみたいな事か?」


 肯定をするようにギターが鳴った。

 この音は3弦の開放弦か……"ソ"だな。もしかしてこれは"そう"って意味か?

 またソの音が鳴った。こりゃあ間違いないだろうな。


 とりあえずよく分からないけど弾いてみるか、とEのコードをかき鳴らしてみる。

 おぉ、もの凄く開けた場所だからかいつもより"ギターが鳴っている"感じがするな。

 調子に乗った俺はそのまま何曲か弾きながら歌ってようやく落ち着いた。

 落ち着いたはいいもの……ここはどこなんだろう?

 などと、そんなゆったりと考える時間はなかった。


 なんと腹を空かせていそうなモンスターとも言うべき異形が俺を囲むようにして周りに集まり始めていたのだ。

 俺の演奏を聞いて急いでやってきてくれたんだろうけど、もうライブは終演だ。

 だがアンコールはないから帰ってくれ、と言った所で聞き入れてくれるオーディエンスじゃないんだろうな。

 あゝ無情だ。こんな所で俺の音楽の道は終わってしまうのか。

 そう悲嘆に暮れていると俺の腹あたりからさっき見たような光が輝いた。


「マスター。ご指示を」


 気が付くとボロを纏った少女がそこにいて、俺に指示を出せと宣っている。

 なんだこれは、どういう事だ、などと考えている時間はない。

 奴らの牙が、爪がそこまで迫ってきているのだ。


「あいつらを追い返してくれ。涎を垂らすマナーの悪い客はお断りだ」


 目の前の華奢な少女に何が出来るのか分からなかったが、とりあえず指示を出してみる。

 そんな俺の指示を受けた少女はおもむろに10メートルほど前方にいるモンスターへと向けてその手を振るう。

 しっしっと手で追い払おうとしているのかと思った俺はその後の光景に目を疑った。

 なんと、前方のモンスター達がビクンと体を震わせて地面に倒れ伏したのだ。

 何が?などと思う間もなく、周囲に陣取っていたモンスター達にも手を軽くふるとあっという間に全てを制圧した。

 驚きに目を閉じられずにいると、最初に倒れたモンスターから順番に逃げるように去っていくのが見えた。


 呆気にとられてそんな状況を作り出した少女を見つめていると、私を弾きたいのですか?とその体をギターへ変じた。

 そうして俺の肩に掴まるようにギターの形を取ると、ドの音を鳴らした。

 これは"どう?"という意味だと思った俺はギターの曲線をひとつ撫でて呟いた。


「すごかったよ、助けてくれてありがとう」


 すぐには納得出来なかったが、どうやらここは俺が元にいた世界ではないのだと分かった。

 そうしてギターは少女になり、少女はギターになるのだ。これはそういうものだ、と飲み込むしかなかった。

 俺と少女は歩き出す事にした。

 行く宛などある訳がないが、とにかくここにいたらまた異形共に囲まれてしまうかもしれない。

 さっきの奴らが増援を連れて戻ってこないとも限らないしな。

 断崖絶壁の山を背にしてとにかく前へ進んだ。


 時間にして10時間くらいだろうか?もう一生どこにも着かないのではないかと思い始めた頃、ようやく目の前に違った景色が見え始めた。

 それはまさに断崖絶壁の"壁"だった。

 これにはさすがの俺も絶望するしかなかった。

 しかしその時、人の形を取っていた少女が俺の肩を叩いて横を指さした。

 その方向を見ると断崖絶壁だとばかり思っていた所に薄っすら何かが見える。


「これは……門だな」


 俺と少女はその門へと近づいていく。

 大きな門だ……こいつは押したら開くようなもんじゃなさそうだが……。

 そんな事を思っていると門から誰かが出てくるようだった。

 こいつはラッキーだな、とすぐさま近づいていって声を掛ける。


「すみません、ここはどこでしょうか? もしよければそちらの中に入れて貰えますでしょうか?」


 近づいてみて分かったが、そいつらは人ではなかった。

 二足歩行はしているものの、まさに獣というような風体をしている。

 見た目からして言葉など通じる訳がないだろうし、さっき襲われた異形達の仲間か!?と思ったが次の瞬間にその考えは打ち払われた。


「お前は何者だ!ラグナの方から来たのだろう」


 上背としては2メートルはあるだろう巨体から響いてくる低い声は俺を心の底から震えさせた。


「あ、あ、あ……ち、ちがっ」


 そんな俺の言葉は聞かない、とでもいうように腕を振り上げると門から数人の獣が出てきて俺と少女を羽交い締めにした。

 こうして俺と少女は獣人に捕まってしまったのだった。


 そのまま俺たちが何者なのか、という取り調べが行われた。

 どうやら俺たちがいた所は魔王のヘソと言われているような場所だったようだ。

 そこは"罪人の国ゲーヒンノーム"、”獣人の国ガルロス”、”異教徒の国イウダ”、”傭兵の国ラグナ”という4つの国の丁度真ん中に位置しており、大昔に魔王と呼ばれるような"敵"と4つの国が力を合わせて戦った結果として大地に大穴が開いて盆地のような形になっていた、という事が分かった。

 そんな所に何故俺たちがいたのか?というのは至極もっともな疑問だろう。

 自国の国民でないのなら他の国の民だろうと考えるのは自明の理だ。

 そして現在4つの国はそれぞれが互いに敵対しており、微妙な緊張感の中にあるという。

 俺は何度も繰り返し説明した。違う世界にいた筈なのに目を開けたらその場所にいたのだ、と。

 その度に頭がおかしいんじゃないのか?と哀れみにも似たような目をされたが、それが真実なのだから仕方がない。まぁ俺の頭がおかしくなったんじゃなければ、だけどな。

 彼女はいつの間にかギターに戻っていて、撫でてとでもいうように俺に抱きついていた。

 いや、不安だった俺が抱きしめていたのかもしれない。

 そうして尋問の末、埒があかないとなったのか俺は相棒のギターと共に牢へぶち込まれた。



 地下にあるそこはジメジメしていてカビ臭かった。

 部屋の中にはベッドが一つと排泄をする為であろう穴が一つ開いているだけだった。

 俺はこれからどうなるんだろう?そんな事を考えたら気分が落ち込んできた。

 これが夢だったらいいのに、と目を閉じてみるも開けばそこは石で囲まれた牢獄だ。

 そういえば駅前でギターを弾いていたあの時、妙な格好をした男がなにかをブツブツいっていたよな。

 それから気付けばここにいたんだからあいつが何かをしたに違いない。

 気付いてしまえば俺の感情はその男への怒りでいっぱいになった。

 その感情に任せて「くそ!」と壁を殴りつけようとして思い留まった。

 こんな硬い壁を殴って手を怪我してしまえば治療してもらうなんて夢のまた夢。もしかしたら二度とギターを弾けなくなってしまうかもしれない。そんなのはごめんだ。

 俺は硬いベッドの上に頭を投げ出す事で誤魔化すことにした。


 そのうち、退屈になってきた。

 特に誰かが尋問しにくる事もないし、見張りと思われる獣人もこくりこくりと船を漕いでいる。

 まぁこんな所で誰かに気を使う事もないと考えた俺は"彼女"を胸に抱き寄せた。

 そして彼女の大事なところに手を伸ばし、そして愛でるのだ。滅茶苦茶に愛するのだ。

 彼女の吐息が音になり、彼女の叫びが曲になる。


 その音に驚いた見張りは船旅をやめ、こちらを向く。

 そして何かを言おうとして……やめた。

 どうやら曲を聞いてくれているようだ。今日の観客は一人。

 俺にしては多い方だな。それじゃあ聞いてくれよ、俺の魂の歌を。

 一曲、一曲と続けるうちに見張りの体は縦に揺れ、横に揺れ。

 しまいには足がトントン、手がトントン。

 どうやら気に入ってくれたようだ。気付けば全20曲を弾き倒していた。

 全部終わった後、見張りは交代の時間なのか席を立って地上へと向かった。


 ライブ後の軽い高揚をベッドに乗せて、俺は軽く夢の世界へ旅立つ。

 どれくらい寝ただろうか?起きて見張りの方を見てみるも誰もいない。

 もしや何の価値もないと見捨てられたのかと思った頃に足音が響いた。

 どうやら見捨てられた訳ではなかったと分かり安心した。

 降りてきたのは兵士のような格好をした獣人だった。

 そいつは短く一言「出ろ」というと俺を牢屋から連れ出した。


 処刑でもされるんじゃないかと思うとなかなか足が進んでいかないが、なんとか足に喝を入れて進む。

 そうして俺が連れて行かれたのはなんとその国の王の前だった。

 まるでライオンのような姿の王は、威厳をたっぷり込めた声で俺にこう言うのだ。


「話は聞いた。貴殿は違う世界から突如として現れ、聞いたこともないような音を出すという。その話が嘘か真か。我が眼で直々に見極めてくれよう」


 つまりこの場で曲を演奏しろ、という事か。その演奏如何で俺の今後が決まる。

 寝る前に20曲も歌った喉は……まだ大丈夫そうだ。それどころかすこぶる調子がいい。

 この場を見渡せば王とその側に控える兵士が20名程。ライブをするのには上等な人数じゃないか。


 やってやるぜ、この俺の魂を受け止めてみろ!

間違って投稿しちゃったので開始します

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