↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/32

水塊

 壊れた配管から流れ出した水が、ヒューリの周りに浮かんでいた。

 さきほど肌の上ではじけた粒の痛みを思い出し、ミーシャは路面で距離を保ったまま身構える。


(確証《かくしょう》はないけど、威力と粒の大きさが比例するって仮定して動いたほうがいいかな。だとしたらあれに直接触れるのは絶対にマズい)


 ヒューリがミーシャへ右手を伸ばした。

 周囲に漂《ただよ》う水が、その腕の先へ吸い寄せられる。

 ミーシャの背筋を、嫌な予感が駆け上がった。


(ヤバッ――)


 身をひねったのと同時に、拳ほどの水の塊がヒューリの右腕から撃《う》ち出《だ》される。

 塊はミーシャの脇を通り過ぎた。


 かわした、と思った瞬間、ミーシャの背後を飛ぶ水弾《すいだん》が爆発した。

 無数の粒が背中に降りかかる。

 一粒ごとの小さな痛みが重なり、耐えがたい激痛になった。


(痛っっっ――)


 息をつく間もなく、次の水弾が来る。

 ミーシャは痛みをこらえてロープを張り、その収縮で身体を引いた。

 すぐそばで再び水弾が爆発したが、浴びた粒は先ほどより少ない。


(やっぱり、てか当然だけど被る水の量が少ないとダメージも小さい)


 ヒューリは傍《かたわ》らの水たまりから少しずつ水を引き上げ、再び身の周りに漂わせる。


(典型的な中距離タイプ。それも待ちをメインとするタイプね。私が一番相手しにくいタイプだなぁ)


 ミーシャは額の汗もそのままに、笑ってみせた。

 ヒューリの冷たい目は揺らがない。


(お前はロープを駆使《くし》しての接近戦しかできない。俺が水をまとった時点ですでに、これは戦闘ではなく狩りに変化している)


 ヒューリの右腕に水が集まる。

 今度の塊は、これまでの2発よりも大きかった。


(どうかバカであってくれ。詰みであることにすら気づかず、ただひたすらにもがいて苦しんでくれればそれでいい)


 3発目が、まっすぐミーシャへ飛ぶ。

 それでも彼女は、避けようとしなかった。


(くそ、あの女もう諦めたか――)


 水弾が顔に届く寸前、横からトタンのゴミ箱が飛び込んだ。

 中身をまき散らしながら水弾とぶつかり、弾《はじ》けた水を側面で受け止める。

 それまでの爆発とは違い、押し潰された水が飛び散っただけだった。


 その陰から、ミーシャがゴミ箱を蹴り返す。

 ヒューリは漂わせていた水を上からぶつけ、箱を路面へ叩き落とした。


「どう、驚いた? さっすがミーシャちゃん、中距離も完璧みたい」


 ヒューリの眉がわずかに寄る。


(ゴミ箱を直接ロープで飛ばしたのか……。路地裏を狙ったのが仇《あだ》となったが、盾に使えるものは限られる)


 ミーシャはわざとらしく目を見開き、笑いかけた。

 叩き落とされた箱にロープが掛かり、縮む勢いで彼女のもとへ戻ってくる。


「ミーシャちゃんはえらいからね。ちゃんと環境に配慮して再利用できるものは使い回さなくちゃね!」


 ミーシャは、戻った箱のへこみ具合を確かめた。


(水の大きさのわりに意外とゴミ箱のダメージが少ない……。大きくへこんだ部分もさっき私が蹴ったところだろうし、ミストが本当にメイン? あるいは自発的に爆発させないと効果を発揮しないか……)


 箱を確かめながら、ミーシャはヒューリとの距離を測る。


(ただどっちにしろ好都合! もしもの時はぶつかる前に何かぶつけて壊せばいいってだけで、メンタル的にだいぶ楽だし)


 ヒューリも、今見たロープの動きを頭の中でたどっていた。

 不意の攻撃に備え、周囲にはオーラを張り続けている。

 その監視の中で、直前までロープがなかった領域に、突然ロープが現れたのを感じ取っていた。


(確かに、ゴミ箱が引っ張られる直前までロープは存在していなかった……。となると追加された機能は、ロープの状態を変化させて生成できることか。伸びきった状態で生成し、伸ばす過程を省いて最大速度を実現できる。厄介《やっかい》だが、弱点もある)


 ヒューリの視線が、箱に残った損傷を拾う。


(ゴミ箱を引っ張るロープの速度に比べて、新しくできた損傷があまりにも小さい。あの速度で引っ張れば、密着状態からでももっと損壊《そんかい》するはず。そして、あれだけ俺の至近距離《しきんきょり》にロープを生成したのに、ロープでの直接攻撃がなかった)


 2つの観察を、ヒューリは1つの仮説へ結びつけた。


(つまり、少なくとも最初から伸ばしたロープに破壊力は持たせることができない。いきなり伸ばしたロープを生成できる代償としては妥当か)


 最初に見た、足元からの急加速が思い返される。


(よく足元からロープで飛ばされて蹴りが繰り出せるものと感心したが、レスラーゆえの体幹《たいかん》や技術ではなく、能力の特性と考えれば納得もいく。ロープが物理的に物を押し出すというより、触れた物質そのものに速度を加算するといったほうが正しいか)


 ヒューリは、闘技場で見た攻撃も警戒の対象に残した。


(だが、ブラフの可能性もある。闘技場でのロープによる攻撃の警戒は引き続き必要だが、優先度は下げていい)


 ヒューリが水たまりから水を引き上げている間に、ミーシャが動いた。


「そっちが来ないならこっちからいくよー!」


 同じゴミ箱を、再び蹴り飛ばす。

 ヒューリは水の塊を上から叩きつけ、今度は箱の上で大きく爆発させた。

 破裂音に重なって金属の潰れる音が響き、箱が路面でひしゃげる。


 ミーシャはそれをロープで引き寄せ、冷めた笑みで形を確かめた。


(やっぱり自発的に発動したらしっかり火力でるよね。ゴミ箱が壊れて使えなくなるまで待ちに徹する感じかな。ゴミ箱のストックはまだまだあるけどそれもいつまでもつか……。それまでにあの水の攻略方法を見つけなきゃね)


 ミーシャは別のゴミ箱をロープで打ち上げ、続けて蹴り飛ばした。


(同じことの繰り返しか。能がないな)


 ヒューリの注意は、飛んでくる箱に向いていた。

 水を上からぶつけて爆発させ、2つ目の箱も路面へ叩きつける。


 潰れる金属音の直後、額に衝撃が走った。

 酒瓶《さかびん》が命中し、ヒューリの顔がのけぞる。

 ミーシャはゴミ箱の陰に隠れるよう、瓶もロープで撃ち出していた。

 箱だけが叩き落とされ、その後ろを飛んでいた瓶がヒューリの額まで届いたのだ。


 血の流れる額を押さえもせず、ヒューリは顔を上げる。

 正面のミーシャが、小馬鹿にするように笑っていた。


「あれれ~、おっかしいぞー! 一度に1つしか飛ばさないなんて言ってないのに、警戒しないなんてどうしてなのかなぁ~?」


 ヒューリの眉間《みけん》に、深いしわが刻まれた。

 守りに回していた水まで、すべて右腕へ集める。


(盾ごと叩き潰せばいい。小細工をする暇も与えずに、押し切ってやる)


 ミーシャは、守りの水まで右腕へ集まっていくのを見ていた。


(ほんと煽《あお》り耐性《たいせい》なくて助かっちゃうよ、ありがとね。ただ……)


 右腕を囲む3つの水塊《すいかい》は、先ほどまでのものより2回りも大きかった。


(あれくらっちゃ一溜《ひとた》まりもないかな、さすがに)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。