2人の刺客
路地裏の入り口に、二人の男が立っていた。
一人は、整った顔立ちに薄青い長髪。もう一人は、黒い短髪にサングラスをかけた、ガタイのいい男だ。
二人とも、この薄汚れた場所には似つかわしくない、高級そうなスーツを隙なく着こなしている。
青髪の男が、冷ややかに口を開いた。
「あの女はうまく仕事をしたようだな」
「あの女……!」
悠真の背筋に、冷たいものが走った。
反射的に構えをとる。
(間違いない、さっき師匠を連れてった殺し屋の仲間。それに相手は二人、どうする……?)
黒髪の男が、慌てて両手を上げた。
「あ、ちょっと、俺らはそういうつもりで来たんじゃないんだ。待ってくれ、君のお師匠さんに用事があって話がしたいだけなんだ!」
「話がしたいってだけでわざわざ殺し屋を雇って師匠と僕を分断したとでもいうんですか!」
「いや、そう思うのもそりゃそうなんだけど、1回話を聞いてほしい!」
悠真は、二人の顔をじっと見た。
見覚えがあった。
「あ! この前団子屋にいた人たちだ!」
「なんだ、覚えられていたのか。テンパ、お前のでかい図体が仇となったようだな」
「え、俺? それならヒューリ、お前の髪のほうがよっぽど目立つくない?」
「この数週間ずっと付け回しておいて、ただ話がしたいは無理があると思います!」
(ありがたいことに会話ができる相手だ。会話を引き延ばせるなら限界まで引き延ばして、今のうちにどうするか考えなくちゃ)
悠真は構えを解かず、二人の立ち方へ目を向けた。
(師匠が帰ってくるのを待つ? あの人のことだ、いつ帰ってくるかわかるわけない。二人まとめて相手を? 立ち方だけでわかる、この二人すごく強い。師匠も言ってたけど、二対一は絶対ダメだ)
「いや、それについては謝らせてほしい! ほんまごめん! いつ接触できるか様子見してただけなんだよ。何度も接触を試してみたんだけど、君のお師匠さん目の前にいても気づけば消えていなくなってるからどうしようもなくってさ」
「で、僕が一人きりになったから人質として捕まえに来たんですね。そして師匠を殺してまた謝るつもりですか?」
「だからそうじゃなくて、殺す気も戦う気もないんだってば」
ヒューリが、横から呟いた。
「いや、殺せるなら殺す」
「話こじれるから黙っててくんない?!」
テンパが振り向く。そのやり取りを、悠真は冷めた目で見ていた。
「やっぱり殺す気じゃないですか」
「違うんだって! 俺らのボスが君のお師匠さんに会いたがってて、こいつはボスの冗談を真に受けてるだけなんだよ」
(すごい、青髪の人はともかく、サングラスの人は殺気がまるで感じられない。この前のナッツなんとかって殺し屋もそうだったけど、この人はそれ以上だ。敵意すら微塵も感じない)
あの殺し屋も、殺気を感じさせないまま攻撃してきた。
悠真はテンパの上げた両手から、目を離さなかった。
「なんですか、その人が今回の500億の賞金を師匠の首にかけたっていうんですか」
「貴様、ウーリ様をその人呼ばわりするとはなんだ。殺されたいのか?」
「お前ほんま黙っててくんない? ってそうそう! 俺らのボスが君のお師匠さんに賞金かけたわけ! やっとわかってくれた!」
悠真は呆れて、テンパを見つめた。
「じゃあめちゃくちゃ殺すつもりじゃないですか」
テンパは頭をガシガシとかきむしった。
「……ああ、そうなんだけどそうじゃなくて! 賞金はかけたけどあくまで手段であってそういうつもりはなくて」
額に汗が浮かぶ。それでも、言葉を続けた。
「わかるよ、君も殺し屋の襲撃を受けただろうし、申し訳ない気持ちもあるし同情してるんだよ。俺もウーリ様のやり方はどうかと思ってたんだ、もっと他にいい方法あったんじゃないかなって」
「貴様ウーリ様を侮辱するか!」
「めんどくさいから黙って、お願い!」
(サングラスの人の方はまだ付け入る隙がある、と思う。どっちかを突破しなきゃいけないなら、この人の方だ)
「だから、悪いようには絶対しないし、おとなしく付いてきてくれるなら怪我もさせないからさ」
「もういいテンパ、続けるだけ無駄だ。こいつはずっと疑ってかかって、まるで話を聞くつもりがない。おおかた逃げる算段でもしてるんだろう」
(バレてます……よね、そりゃあ)
「聞くつもりのない相手に心理的駆け引きは必要ない。ここは実力行使で無理やりついてきてもらう」
「ちょっと、まだ話し合いの余地が……」
「無いな。こいつを捕らえてあの男と交渉の材料にする」
テンパはヒューリを見たあと、観念したように息を吐いた。
悠真へ向き直り、構えをとる。
「ごめんね、そういうことだから」
悠真は、相手が動くより先に地面を蹴った。
路地の壁を蹴り、さらに高く跳ぶ。
上方には、壁の間を渡る配管がいくつも張り巡らされていた。
(この二人と戦っても絶対勝てない。だったら距離がある今のうちに逃げる。配管の多いここなら身体が小さい僕のほうが有利だ。距離を詰められる前に……!)
ヒューリも壁を蹴った。
まだ離れていると思った男が、一跳びで目の前へ迫る。
背後からは、反対側の壁を蹴ったテンパが追いついてきた。
配管へ抜ける前に、悠真は空中で挟まれた。
「逃げ方が単純だな。考える時間はあったんだ、もっと策を練るべきだ」
ヒューリが空中で身体をひねり、腹部へ蹴りを放った。
悠真のオーラが反射的に腹へ集まる。
オーラ越しの衝撃で、身体が吹き飛ばされた。
間合いを一瞬で詰められた焦りが抜けない。
飛ばされる身体を立て直そうともがき、次の衝突へ向けてオーラを移すこともできなかった。
悠真の身体が、路面に置かれたゴミ箱へ叩きつけられる。
箱が大きくひしゃげ、中身が辺りへぶちまけられた。
その変形が衝撃を和らげ、悠真は散らばったゴミの上へ転がり落ちる。
硬い地面へ直接叩きつけられることは、かろうじて免れた。
「おい、ヒューリ、蹴らなくても今捕まえられただろ」
「テンパ、それだからお前は甘い。捕まえたあとに暴れられても面倒なんだ。ここであがいても無駄だと、こいつに認識させる必要がある」
二人が地面へ着地した。
ヒューリが、悠真へ歩き出す。
「逃げる度に挫き、自ら私たちについてくることを選択させる」
「と、いうことらしい。悪いけどさ、俺もあんま見たくないから早くあきらめてくんないかな」
テンパは構えを解き、悠真の返事を待っていた。
その背後で、野良猫が別のゴミ箱を漁り、派手に倒した。
テンパが物音に振り返る。
その一瞬を、悠真は逃さなかった。
再び地面を蹴り、高く跳ぶ。
テンパが向き直ったときには、もう悠真の身体は浮いていた。
だが、ヒューリはすぐに追ってきた。
「理解するまで繰り返せばいい。何度やっても無駄だと」
ヒューリが空中で蹴りの姿勢をとる。
その瞬間、建物の縁から人影が飛び降りた。
頭上からの蹴りがヒューリを捉え、地面へ叩き落とす。
着地した人物の背中で、無地のマントが翻った。
見覚えのある金のツインテールが揺れる。
「お呼び! お呼ばれ! ミーシャちゃん!」
その姿を目で追ったまま、悠真も地面へ着地した。
「ミーシャさん! なんでここに?!」
ミーシャは悠真を振り返った。
「闘技場で見慣れないお客さんがいたからね。ミーシャのサービス無視するとか絶対ありえなくない? 僕くんたち狙ってるのかもって思ったわけ」
倒れたヒューリへ、ちらりと目を向ける。
「何かするなら闘技場を出てからでしょ? だから僕くんたちが無事に町を出られるか、後ろからついてきたんだ。てか僕くん、いま上から逃げれたんじゃない?」
「あ……、ごめんなさい。…………あの、かっこよかったから………………見惚れちゃって」
ヒューリは地面を転がったあと、すっくと立ち上がった。
顔についた血を拭い、ミーシャを見据える。
「まさか尾行だったとはな。近くにいたのは知っていたが、堂々としすぎだ。たまたま行き先が同じなのだと思っていた」
「いやぁ、だってファンに見つかっちってさぁ、サービスしなきゃじゃん? サインも書いてたら遅くなっちゃった」
ミーシャは余裕の笑みを浮かべ、腰を落とした。
二人の男へ、闘気まじりの構えを向ける。
「子供を二人がかりでいじめるなんて、あんたら倒せってミーシャのこの脚が轟き叫んじゃうよ!」




