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2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
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第3話 東京③

 皇居。

 明治以降の呼び名。

 それ以前は江戸城と呼ばれていた。

 政治の中心と言うより戦のための城だったため周囲は堀で囲まれていた。

 その堀の水は完全に抜けている。


「50年前はあの跡のついているところまで水が張ってあったんだけどね。震災で地下に水が流れてしまったんだよ。ほら、改修してコンクリートになってるところがあるだろ」

「あ、ほんとだ」

「かつての日本は高速道路が川の上通っていたんだよ。それを何十年もかけて地下化する工事をしていたんだ」

「その地下に水が流れたんですね」

「そうなんだ。震災の日に地下の高速道路まで亀裂が入って堀の水が全部流れてしまったんだよ」

「なんでも地下にしたせいよね。あの頃旅行した時はこうなるなんて思ってもみなかった」

「そうだね。そもそも首都高速の地下化なんて無理な話だったんだ。だけど高層ペンシルタワーが増えて、物流が増えて、渋滞解消するために道路も鉄道もどんどん作らないといけなかった。そういう時代だったんだ。ほらここに来るときに乗った京明鉄道、その前身である旧京明地下鉄も浸水して廃線になってしまったんだよ。ああ、なんてもったいないんだ。あれは2060年にやっと開業したのに。その時には日本人労働者はほとんどいなくてね。仕事が雑だったんだよ。僕はそう思うよ」

 マイクが地下鉄事業についてあれこれ文句を言っている。

「もうあなたったら、ごめんなさいね。この人は鉄道になるとすぐこうなるのよ」

「いえ、とても面白いです旅行ライターとしてもそういう視点って大切ですから」

「そういってもらえると嬉しいわ」


 震災の影響はお堀の水が抜けるだけではなかった。

 100年前、異変は目に見える形で表れていた。

 最初は都市郊外の道路の陥没事故だった。

 主要な道路でもなければ経済的に重要な都市でもなかったため大事には至らなかったが、それでも当時の人々と政府に衝撃を与えた。

 すぐさま老朽化したインフラ設備の更新がおこなわれた。

 そのとき致命的な問題が起きた。

 当時は第一次世界紛争(World Conflict Ⅰ:WC1)と呼ばれる戦いの真っただ中だった。

 この名称は第二次世界紛争(World Conflict Ⅱ:WC2)終結後に後付けで名付けられた。

 ネットではWC(トイレの意)にかけてクソ国家洗浄戦争と言われている。

 そんな戦いの合間にインフラ更新を無理やりするものだから粗悪資材の流用、意思疎通のできない外国人労働者と現場の混乱、談合、汚職が重なり非常に質の低い仕上がりだったという。


 50年後――それは大震災によって崩壊した。


 陥没した穴は広がり、耐震構造の高層ビルはあっけなく倒壊した。

 地下物流網は浸水して都市の全機能がマヒした。

 パニックが暴動となり、暴徒が略奪を始めた。

 彼らは略奪の証拠を消すように放火していった。

 暴動と炎に包まれる東京。

 その映像はいまでもネットで見ることができる。


「半世紀も前の震災なのにまだ復興できてないんですね」

「それがね。復興が遅れたのは政府が逃げたからなんだ」

「政府が!?」

「そうなんだ。当時の旧日本政府の中枢はあの辺に、つまり皇居のすぐ近くにあったんだ」

 マイクが西の方を指さす。

 そこは貨物線の物資を補完する倉庫街だ。

「当時の国会議事堂の下にね。変な話なんだけど東京メトロという地下鉄が走っていたんだ。ちょうど老朽化からの修繕工事の真っ最中だったんだけど、知っての通り日本連邦が主導権を握って30年ぐらい経つからね。50年前には労働者どころか経営陣やゼネコン大手まで海外傘下になっていたんだ。国際都市東京っていうけど、外国企業誘致のために日本企業に課してた厳しい品質管理やルールを撤廃したり緩和したりしたんだ。日本の企業が厳しすぎると言ったときは頑なに変更しなかったのにね」

「つまり政府の足元で欠陥工事をはじめちゃったと?」

「そうなんだよ。それで東京メトロは崩落して議事堂は陥没穴に沈んで、政府の関連省庁のビルも立ち入り禁止になっちゃったんだ。ほんと最後に乗りたかったな。東京メトロ……」

 マイクが一目ぼれした女性に二度と会えないと知って落胆したような、そんな悲しげな表情になる。


 日本政府は西東京の立川に遷都した。

 国会議員たちは我先にと逃げ出して、立川広域防災基地へと避難したという。 

 そのわが身可愛さと政府機能の一時停止が、復興計画を大幅に遅らせた。

 皇居。

 その地下の工事を日本連邦政府が拒否した。

 入り口には『国有地』という看板と、たぶん連邦側の警備兵が警護している。

 かつての政治の中心地は残り、新しい政府が足元から崩れる。

 そんなことがあるのだろうか。

 わたしは橋の上で旧日本がどうしてここまで劣化し、落ちぶれたのか思いにふける。



『それではカウントダウン10秒前、9,8,7,6,5,4,3,2,1――放水!』



 合図と同時に、堀へと水が流れだした。

「今日って堀の修復が終わって水を放水する日なんですね」

「そうみたいね。――このお堀ってね。むかし運河を埋め立てちゃって、それから雨水だけで水を一杯にしてたのよ」

「え、そうなんですか!?」

「バスガイドさんが教えてくれたの。しかもね。その時は昔の大震災とか世界大戦のガレキを使って埋め立てたの。ね、なんだかいまと同じ気がしない」

「そうそう。確かあっちの日比谷という地名は日比谷入り江と言われてて、江戸城のすぐ近くは海だったらしいんだ。しかも江戸城もその前身となる土地開発があって、ずっとずっと500年前から埋立工事をしてたらしい」

 500年前、西暦1600年ごろ。

 徳川による日比谷入江埋立からすべてがはじまった。

 アメリカより長い歴史がある。

 その埋立工事はまだ終わっていない。

 500年後には皇居はあるだろうか。

 さらに埋立は進んで政治の中心は埋立地の向こうに移っているのだろうか。

 未来について思いを馳せながら、わたしは放水でできた水たまりを、時折デジカメで撮ったりした。



「ミサちゃんミサちゃん」

「はいミサキです」

「もしよかったらもうちょっと私たちに付き合ってくれない?」

「ええ、いいですよ。どこに行くんですか?」

「それはね。ここより北にある。南千住駅だ」

 北なのに南とな。

「千住と言うところがね。貨物線ターミナルになっているんだ。そこをぜひ見てみたいんだよ。それに北千住まで行けばそのすぐ先は日本連邦だ。見て損はないはずだよ」

 マイクの目がそれはもう少年のようにキラキラと輝いている。

 わたしは旅行ライター。

 国境線なんて観光名所として一定の需要がある。

「喜んでお供しますよ」




 ミサキ・キリシマの手記


 ある人は東京は死んだという。

 けれどわたしには生まれ変わる途中に見えた。

 何度も壊滅した東京は、その後何度も復活している。

 いまは深手を負った傷を治している途中ということだ。


 西の立川政府も気になるが、まずは北。

 北千住まで行くつもり。


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