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2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
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第3話 東京①

 有明中央ステーション。

 わたしはここにまた来ていた。

 今日は東京行きの路線を探している。

 迷子じゃない。と思う。

 看板とか地図とかそういうのが駅にないのがいけない。


「おや、昨日のお嬢さんじゃないか」

「あら、こんにちは」

 昨日迷ったときに道を教えてくれた老夫婦と再会した。

「あ、昨日はありがとうございます」

「今日はここの探検ですか?」

「実は東京に行こうと思ったら……まだ道がよくわからなくて……」

「ははは、なるほど。私たちもちょうど東京に行く予定なので、よければご一緒しませんか?」

「ほんとですか! よろしくお願いします!」

 道を知っている人と一緒に行けるのは心強かった。

「そうだ。まだ名前を教えてなかったね。僕はマイケル。マイクでいいよ」

 物腰の柔らかい、それでいてフレンドリーな老人が名乗った。

「次は私ね。私はジェニファー。ジェシーでいいわよ」

 おっとりした老夫人も続けて挨拶をした。

「わたしはミサキです。よくミサとかミッキーって言われます」

「あら、とってもキュート」


 この夫婦はニューヨーク在住のアメリカ人で、定年後の旅行先として日本に来たという。

 最近足腰が悪くなってきたので、この旅行が最後になるという。

 だから2人はお揃いの黒い杖をついて、ゆっくり歩いた。

 杖には鷲のデザインされたグリップに白い小さなスカーフが括り付けられている。

 話によると注目してほしい時に杖を振って「ヘルプミー」と言うそうだ。

 そんな2人に合わせてゆっくりと駅の構内を、デジカメで写真をとりながら移動する。


「こうしてみると結構入り組んでますね」

「そうなんだよ。そもそもここはシュトコーでね」

「シュトコー?」

「ハイウェイのことさ」

「シュ……首都高速道路!? もしかしてこの邪魔くさい壁って高速の一部ですか!」

「イエスイエス。その通り。この有明中央ステーションはかつてのハイウェイの真下に線路を作ったんだ」

「ハイウェイに……違法建築?」

「ははは、ここに関してはそうだね。有明駅は昔はもっと西にあって京明地下鉄が有名だったんだよ」

「京明線ですか?」

 最近の情報に乗ってない路線名がでてきた。

「東京と有明を結ぶ地下鉄のことさ。僕はそれに乗りたくて昔にも来たことがあったんだ」

「この人ったら昔から鉄道マニアで新婚旅行で日本に行こうと提案したのも本当は鉄道が目当てだったのよ。それで定年後の旅行先もやっぱり鉄道なのよ。ほんとまいっちゃうわ」

 ジェシーは微笑みながらも少しあきれた感じで言う。

「それじゃあ50年以上も前ってことですか?」

「イエス。廃線になる前に乗れてよかったよ。あそこは海の下に沈んでしまったからね。それで今日はこのシン京明線に乗って東京駅まで行くんだ」

「ふふ、本当は昨日乗るはずだったのに、この人ったら駅の探索に時間をかけすぎて疲れちゃったのよ。もう歳なのにぜんぜんそういうのを考えないんだから」


 そんな2人とエレベーターやエスカレーターを乗り継いで京明線のホームに着いた。

 よく見ると首都高の名残のようなものが見ることができる。

 街灯のようなライトや分岐路のガードレールがそのままだった。

 電車が来て、席に座り一息つく。

 出発時刻までしばしの休憩。


「ニューヨークには来たことあるの?」

「はい、かなり昔に旅行で、まあ地下鉄が臭かったこととビルがすごい高いことぐらいしか覚えてないけど」

「ああそうだ。ちょうどデジカメに写真データがあるよ持って来たんだ――ほらあった」


 少し年季の入ったデジカメ。

 わたしは2人の思い出の写真をいくつも見せてもらった。

 ニューヨークの地下鉄。

 高架線を走る電車。

 背景の高層ペンシルタワー。


「すごいペンシルタワーがたくさん建ってる。むかしより増えてません?」

「僕には見慣れた風景なんだけどね。だけどこれとか電車と一緒に映る高層ビルのスカイラインがとても印象深いんだ」


 ニューヨークのまるで鉛筆のような細く鋭い高層ビルが何十も空を刺している。

 そんなビル群のガラスとコンクリートの景色と青空をきれいに分けるギザギザの空の境界線スカイラインがくっきりとしていて、そんな背景の下を自動車や電車が走っていた。


「そのデジカメに東京の写真もあるはずよ」

「ああそうだね。ちょっと待ってくれ」


 思い出したかのようにマイクが古い日付の写真フォルダを開く。

 若いころの2人。

 20代に見える。

 新婚旅行だという。

 幸せの絶頂期の2人は東京の高層ペンシルタワーや東京タワーを背にいくつもの写真を撮っていた。

 スライドしていく。

 汐留の高層ビルや展望台からの夜景なんかもあった。

 見ているこっちも恥ずかしくなるイチャイチャぶりだ。

 目の前の2人も負けず劣らず「あのころと変わらずきれいだね」「もういきなり何よ」っとイチャってる。


 80代のイチャイチャだ。


 電車が動き出した。

 終点の東京へと向かう。

 車窓には今も続く埋立作業がよく見えた。

 首都高なので少しづつ下り坂になり、ついに首都高の下を走る貨物線と合流する。

 そして勝鬨橋を通る。

 マイクが勝鬨橋は200年前の日露戦争の戦勝記念に建設されたと教えてくれた。

 しかし150年目に崩落して鉄道橋として再建されたという。

 だから勝鬨橋は跳ね橋としての機能は完全に失われている。


 隅田川を渡るとすぐそこは東京駅。


『次は東京、東京。終点となります——』


 東京に着いたアナウンスを聞いて、車窓から外を眺める。

 デジカメに映る摩天楼とは似ても似つかない光景。

 スカイラインは消え去り、ただ青空がどこまでも広がっていた。



 東京の高層ビルはすべて失われていた。


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