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2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
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第2話 ミサキ・キリシマ③

「ほんっとに、ありがとうございます」

「ははは、困っているときはお互い様、助け合うものです」

「ほんと、ここは結構迷いますからねぇ」


 ちょっと。

 本当にちょっとだけ、有明中央ステーションで迷ってしまった。

 そんなときに親切な老夫婦に道を教えてもらった。

 手を振って彼らと別れ、外に出る。

 東口だ。

 そこから徒歩5分のところに”ホテル有明”があった。

 後で知った話だが一つとなりの東雲駅のほうがアクセス性がよかったりする。


 ホテル有明。

 外見は古風で少しくたびれている築50年以上のホテル。

 それでも梅田区では最近まで一流のホテルと言われている。

 ロビーでチャックインして、カードキーを渡される。

 部屋に荷物を置いたら急にお腹がすいてきた。

 もう夕食の時間になる。

 説明によると夕食はドレスコードが指定されていた。

 だから休息する間もなく荷物をほどいて着替える。

 ちょっと格式のあるホテルだとこういうところが不自由で、だから休む場所なのに休む時間もない。

 キャリーバッグに入れていた家族の写真立てを取り出す。

 それをベッドの横の小机に置く。

 家族写真のママは若くきれいで、あの日から変わらない。

 旅行好きのママ、がんばって家族サービスをするパパ。

 旅行疲れしているわたし。

 女性は早め早めの行動をしないといけません。とママに口を酸っぱく言われた。

 はいはい、すぐ着替えますよ。


 ホテル内のレストラン&バー。

 入り口にはボーイが立っていて手元のタブレット端末から顧客リストを照合しながら席の案内をしていた。

 わたしは一人なので一人用の席に案内された。

 まずコース料理のメニューを渡される。

 最初に説明があったのは季節野菜のニース風サラダ。

 口に含むとアンチョビ風味のドレッシングの味わいが口の中で広がり、噛むと新鮮な野菜のシャキッとした歯ごたえがあった。

 量が少ないと感じたが次の料理への期待が膨らむ前菜だ。


 次のメニューはスープ。

 濃厚なキノコのポタージュだった。

 メニューにはカプチーノ仕立てと書かれていた。

 泡が環を描くように盛られていて、目で楽しめた。

 もちろんポタージュの濃い香りが鼻にくすぐり、スプーンですくい口に運ぶとその味の濃厚さに先ほどまでの空腹感が消えていった。


 メイン料理は輸入高級牛のフィレ肉を使ったステーキ。

 わたしはウェルダンをさらに表面が焦げるほどと注文したら本当に茶色く焦げたステーキがきた。

 それに濃いデミグラスソースと付け合わせのブロッコリーとポテトなどの野菜たちで彩られている。

 ナイフを入れると表面がカリカリしているのがわかり実にわたし好み。切り分けると中は芯まで火が通っていて口に運びそのあまりのおいしさに舌鼓を打つ。

 肉はやっぱりレアの生っぽいのよりカリカリまで焦がしたほうが好き。

 ステーキもBBQもピザも。

 パパが焦げてる方が好きだったから。そしてたまに失敗して炭にするのも、ママに怒られるのも、わたしはそんなパパが好きだった。



 そしてステーキに添えられたブロッコリー。

 これも……ん?


 ブロッコリー、ニンジン、それからポテト。

 一口だけ口に運び、あとは野菜たちを脇にどけた。

 火が通っているが、見るからに小ぶり、そして食感もそこまでよくない。

 食べる気がしなかった。

 産地は純国産。

 天然オーガニック農法による100%自然食と明記されていた。

 ほかの客も野菜がまずいことに文句を言っていた。

 なんかデジャブを感じた。

 脳裏に羽田空港の連れていかれた旅行客の顔がよぎった。


 最後のデザートに〝フルーツのコンポートとヨーグルトのソルベのグラス〟みたいな説明と共にスイーツが運ばれてきた。

 ざく切りのパイナップルに甘く白いヨーグルトが載っていて、さきほどまでの満腹感がウソのようにいくらでも食べられる。

 世の中には誘惑が多い、とくに甘い物は女の子の敵です。とママは言った。

 けど、けど、これも仕事だから。

 もしかしたらレストランの料理を記事にする日が来るかもしれないから。

 お金をもらっている以上は食べないといけない!


 ふぅ…………とても甘いスイーツでした。


 今回は現地特派員という体で情報を集めるが、いつAI記者が解禁されてクビになるかわからない。

 AIじゃどうにもならないのがグルメライターだと思う。

 こうやって毎日食べ歩けて金をもらえるなんてサイコーよね。

 グルメリポートとかできるようになりたいな。


 帰り道、お土産売コーナーでお菓子を買った。

 スマホが入りそうなぐらいの大きさで、ミルクバター風味のケーキがアルミ包装されていた。

 それを部屋に持ち帰った。

 アルミは電波を遮断してくれる。

 電波は英語だとRadio Waveといってラジオの語源になる。

 日本語だと電の字から電気の一種だと誤解されることもあるが電磁波は光の一種だ。

 光ということは鏡で反射することができて、同じノリでアルミも光を反射してくれる。

 何かの映画でスマホをアルミの袋に入れて、それを見てなんでってパパに聞いたのを覚えている。

 空港の女性スタッフの忠告が頭から離れない。

 だからわたしは使うとき以外、スマホをアルミで包んで持ち歩くことにした。




 ミサキ・キリシマの手記


 ただホテルまで移動しただけなのにとめどない疲労感が襲ってきた。

 統合リゾートエリアのオープンセレモニーまでまだ時間がある。

 だから明日からは東京各地をまわる予定だ。

 東京は梅田区以外は治安が悪いと言われている。

 けれどいかないといけない。それが仕事だから。

 クビになったら文無しだ。

 リスクを承知で行かないといけない。


 もう帰る家もないのだから。


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