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2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
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第2話 ミサキ・キリシマ②

「少し脱線しましたね」

 アルファは急速に外の世界への興味が失せたようだ。

「それでは最初の質問である、なぜあなたなのかを答えてください」

 この質問はちょっと変な気がする。

 けれど少し考えれば納得。

 旅行雑誌のライターと言うのはより広義には”記者”になる。

 そして”他国の記者”というのはスパイと同等の扱いだ。


 記者は他国の隅々まで調べまわって良い所と悪い所を見つけ出して記事にする。

 スパイは他国の隅々まで調べまわって強みと弱点を見つけ出してレポートにする。


 だからこの質問の意味は「あなたはスパイですか?」ということだ。

 ここは人畜無害だとアピールする絶好の機会だ。

「はい、えっとそれは出自が関係しています。わたしは日系アメリカ人でハワイに住んでいます。祖父母が混乱期に日本から出てハワイの日本人コミュニティに移りました。その頃は両親がまだ小さな子供で、日本で生まれてハワイで育ちました」

「なるほど、続けてください」

「はい、わたしの祖父は教育熱心だったのでよく日本語の本を読んでくれて、いろいろ学びました。ただアメリカではいま学校に通うことができても仕事がないんです」

「仕事が、ですか?」

「はい、AIの規制が進む中で人手不足に陥って、移民受け入れを解禁したんです。そしたら世界中から移民がきて。その、今度は人口過剰になって仕事不足になったんです」

「ああ、なるほど、たしかアメリカでは大統領と政党が代わるたびに政策が変わるんでしたね。続けてください」

 アメリカの政治は知っているのかと疑問に思ったが、いやいやアメリカの悪癖は100年どころか伝統に近いものだ。それなら鎖国する前の情報だけでも知ることができる。

「はい。それで学校を卒業してから仕事がなくて、他の移民グループたちと競うようにその日暮らしのバイトをしていました。そんなある日、旅行雑誌を発行している会社が日本人のライターを募集していたんです」

「かなりピンポイントな採用枠ですね」

「えっと世界中に散らばった日本人。いわゆる脱出組には結構裕福な人が多くて、日本語の旅行雑誌とか結構買ってくれるんです。わたしが子供のころは反AI主義の全盛期で紙媒体の雑誌とかが流行ってたんです。それからハワイの日本人コミュニティへの寄付とかも熱心なんですよ。その篤志家の一人に東京のリゾートホテルのCEOがいて、彼女の意向で日系人ライターにリゾートホテルの旅行記事を書いてもらうよう依頼があったんです。それで記者に応募したんですが、そもそも申し込んだのがわたし一人だけだったみたいで、すんなり採用されたんです」

「なるほど、それにしても仕事不足で倍率が高いんですよね?」

「その変な話なんですけど日本人って将来が不安になると子供を作らなくて、同世代がほとんどいなかったんです。それに文字を読み書きできる大抵の人はすでに仕事があって、その仕事を捨ててまで別の仕事。旅行ライターとかリスクの高いことを極端に回避するんです」

「ああ、旧世代はたしかに子供を作るかつくらないかを世の中の空気、言ってしまうと雰囲気で決めて、環境が変わることに異常なぐらいストレスを感じる人たちでしたね」

「旧世代……?」

「あら、すみません。鎖国前の日本人をわたしたちは旧世代と言ってるんです」


 鎖国してすでに40年ほど、目の前の女性は若く見て30代前半。たぶん30代後半。

 鎖国後世代と言うことになる。

 その言い方や認識に何とも言えない価値観の違いを感じた。


「今は違うんですか?」

「そうですね。だいぶ変わりましたよ――あら、いつの間にか私がインタビューに答える側になってますね。記者さん」

「え、あ、いえ、そういうつもりじゃなくてっ」

 しまった。わたしがスパイとかじゃないとアピールするはずが、つい質問してしまった。

「ふむ。このままでは聴取が終わりそうにないので、そろそろ空港に着いてから何があったのか話してください」

「あ、はい。わかりました。空港に着いてからですね。えーっとたしか東京リゾート線に乗ってカジノ街を過ぎて――――」




 大井ふ頭東南駅。

 ギラギラと輝くカジノ街の最寄り駅。

 もともとは物流倉庫などが密集した場所だったという。

 それが震災後に大規模な埋立工事の影響で物流拠点から更地になった。

 今では欲望の拠点になっている。

 観光客の多くはそこで降りていった。ここにホテルもある。

 彼らはその眩しい電灯に吸い寄せられる蛾のようにカジノ街へと消えていった。

 電車はさらに先へ、次の島へと進んだ。

 パンフレットにりんかい線という100年前に存在した線路の記述がある。

 羽田リゾート線はりんかい線の回送線を利用してこのまま地下へ入る。

 大きく揺れて曲がるのを感じる。

 地下の壁の雰囲気が変わったので、ここから旧りんかい線なのだろう。

 車内に設置してある液晶ディスプレイに映像が映し出された。

 ディスプレイはお台場の魅力や行き方をわかりやすく映していた。

 次の駅は東京テレポート駅だという。

 そこがお台場のすぐ近くだと教えてくれた。



 お台場。

 梅田区お台場。

 梅田区、埋立地、うめたてち、うめた地、梅田とは「うめた」の当て字だ。

 かつては東京23区の別の区だったが羽田から新木場までの埋立地全域が梅田区として統合された。

 だから今は東京24区という。

 お台場は歴史が古く270年以上前に作られた台場砲台がその語源になる。

 100年以上前の高度経済成長期に埋立工事が進み、今のお台場となっている。

 そのときに作られた建造物が、あるいは人型のモニュメントが色褪せつつも当時の姿のまま残っている。

 だからお台場は歴史保存エリアと呼ばれている。

 梅田区よりも長い長い歴史のある、梅田にとって特別なエリアだ。

 ここは観光客に人気のスポットなのだけど取材候補地ではない。もうすでに取材済みだからだ。


 電車は乗客を降ろし、そして別の乗客を乗せる。



『次は有明中央前。お降りのお客様は――』


 有明中央前。

 むかしは国際展示場駅と呼ばれていたらしい。

 国際展示場の取り壊しが決まった時に駅名を変えたという。

 わたしは電車を降りて地上に出た。

 少し歩いた先に「有明中央ステーション」がある。

 ここは貨物ターミナルとして再整備されたところだ。

 海側の埋め立てがどんどん進んでいるため、ちょうど真ん中の有明あたりが貨物の集積所として都合がよかった。とパンフレットに書かれている。

 ただ思っていたよりもこの駅は大きく、入り組んでいた。


「あれ、同じところ……?」


 ちなみにパンフレットには有明周辺は迷子になりやすいと書かれていた。

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