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2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
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第2話 ミサキ・キリシマ①


「こちらへどうぞ」


 わたしは促されるまま部屋へと入った。

 室内はどこまでも澄み切った青空と穏やかな水面に白い雲が映し出されている幻想的な光景が出迎えてくれた。

 一瞬驚いたがこれは映像だ。室内全体に映すプロジェクトマッピングだろう。

 本来は職員がリラックスするための部屋だと思われる。

 部屋の中央にはゆったりできるようにソファが置かれている。一見すると水盤テラスのように見えた。

 そんなテラスから入口まで大理石調の石橋の道が続いている。

 よくよく目を凝らすと判るがすべてプロジェクトマッピングによる映像だ。

 実際は部屋もそこまで広くないと思われる。

 目を凝らすとうっすらと見える壁の境目から、ちょっとした催しができる多目的ホールぐらいありそうだ。

 ふと振り返るとドアが場違いのようにぽつんと水上にある。

 ここまでついてきていた警備員風の職員はドアの外で待機するのか中に入ってこない。

 そしてドアが閉まった。

 開放感のある部屋にわたしたちは2人きりになった。


「ここは?」

「ここは職員用のリフレッシュルームです。ただ、もしお望みでしたら地下の狭く薄暗い取調室で徹底的に尋問してもいいですよ」

「いえいえいえ、ここでいいです。ここがいいです! とっても幻想的、わ~すてき~~!」

「ええ、そう言ってもらえて嬉しいです」


 女性職員は中央の丸いテーブルを囲うようにソファ、その一つに座るように促した。


「すこし待ってくださいね」


 女性職員はとても優しく声をかけ、そしてデバイス操作のような作業を始める。

 彼女はさらさらの長髪がとても印象的だ。

 ハワイの強烈な紫外線でぼさぼさなわたしの髪とは大違いだ。

 顔だちも整っていてとても美しい、と思われる。

 残念ながら不透明なバイザーグラス風のゴーグルで顔のほとんどが覆われていて素顔はわからない。

 目隠しした美女と言うだけでミステリアスな雰囲気が漂っている。

 たぶんバイザーはかつて流行ったAIゴーグルのようにバーチャル映像を映し出されているのだろう。

 空中で手を動かして何かの操作をしていた。

 設定か何かが終わったのか急に手の動きが止まり、こちらに向き直す。


「まずは自己紹介ですね。わたしはアルファ・ワンといいます」

「あるふぁ?」


 プロジェクトマッピングにアクセスしたのか青空に名前のプレートが大きく映し出された。



 ―――――――――――――――――――

 所属:日本連邦SEA職員

 役職:連邦執行官

 名前:α1

 ▣▣||▮|||||▮||▮||▮||▮||||||||▣

 ―――――――――――――――――――


 なるほどアルファワンだ。

 つまりコードネームということなのだろう。

 アルファワンはにやりと口元をゆがめて笑顔になった。

 なんかよくわからないQRコードもあるけど、たぶん社員番号とかそういうのだろう。


「どうぞアルファ、あるいはアルちゃんでも構いませんよ」

「アルちゃ……アルファさんでいいですか」

「ええ、それでお願いします。それではミサキ・キリシマさんはこちらで合っていますか?」



 ―――――――――――――――――――

 所属:旅行雑誌「ダイヤモンドヘッド社」

 役職:旅行ライター

 名前:ミサキ・キリシマ

 年齢:19歳

 性別:女性

 ―――――――――――――――――――



 今度はわたしのステータスが現れた。

 会社名が書かれていて、すでに私がどこの誰なのか把握できていることが伺える。


「はい、あってます」

 それから入国審査官との対話のような軽い事実確認の質問がいくつかあった。

 また印象深かったのは彼女ら連邦独特の質問もあった。


「それで記者ということですが、なぜあなたが選ばれて、しかも派遣されたのでしょうか?」

「ええっと……」

「大抵の記事はAIが生成するものでしょう。なぜまだ成人していない女性があんな危険なところにわざわざ足を運んだのでしょうか?」

 これは鎖国している影響だろう。

 だから一から説明することにした。

「えっと、まずAI記事は世界中で規制されていて――」

「そうなんですか?」


 驚いた。

 目の前の職員はそんなことも知らないなんて。

 ただ、それなら国際的な枠組みから話したほうがよさそうだと思った。


「はい、AIは過去のデータや記事を収集して新しい記事を書きます。ネットニュース、自治体の広報、個人のSNS、口コミ、雑誌の記事。ただそういった情報は必ずしも最新というわけじゃありません」

「つまりAI記事を信じて訪れたら100年前のことで今は全然違っていた。というフェイクニュースが蔓延したと?」

「そうですそうです。だから今では現地に記者を送ったというGPS証明、AIかNonAIかの出力情報証明、ほかにも編集監査証明なんかを取得して国際フェイク情報規制機関の――」

「ちょっと待ってください。外の世界はそんなややこしいことになっているのですか?」

「ほんとそうなんですよ。最後にはそういったデータが情報格付会社に送られて、長年の信頼性や記事の一貫性なんかを信用度格付けされるんです」

「格付けですか」

「そうです。最も信頼できるのがAAAとかA3判定とかになって、信用できないSNSやAIの文章はD判定とか、格付機関の精査を受けていないのはF判定みたいになるんです」

「まるで和牛のランク付けみたいですね」

 和牛のランク?

「えっと、それで質の高い情報は検索エンジンの上位にピックアップされて、低いのは初期設定では検索できないようになったりするんです」

「なるほど……分散した情報媒体の品質を保つために……いやでも……非効率でしかも情報の鮮度という観点で見ると悪手では?」

 そこは同意。

「と、とにかく今の世界は情報とかニュースの信頼性を上げるためにいろいろやってるんです!」

 説明していて自分でもなんだかバカらしく思えてきた。

「ちなみに日本連邦はそういうことをしていないんですか?」

「我が国にはそもそも個人所有のパソコンやスマホが存在しません」

「えっ!?」

「ですので誤情報やフェイクニュースの発信者はすぐに特定されます」


 ああ、そうだった。そういう国だった。

 わたしは一つ思い出したことがある。

 それは古い古い昔のジューク。

 それの日本連邦版だ。


 アメリカでは、あなたがスマホをウォッチする。

 日本連邦では、スマホがあなたをウォッチする。


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