↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
41/46

第9話 和光富士見バイパス~環状七号線 ③

 たぶん男と思われる死体は頭から上が丸焦げになっていた。

 首には熔けたタイヤが原形をとどめない形ではりついていた。

 体は椅子とダクトテープで固定されていて、どんなに抵抗しても外せなかったことを物語っていた。

 必死の抵抗の跡がそこら中にあり、それがとても痛ましかった。

 そしてもっとも目に付くものが腕に巻かれていた――


「さすがにヤバいね。いったん引き返して別の道を通ったほうがいい。ただ囲まれないように小道は避けて大きな道路だけを選んで――」

 レイラがいろいろ考えを言いながら次のルート予定を組み立てていく。

 ただ、わたしはそれを聞かずに車から出て死体へと駆ける。

「ちょっと!?」

「ごめん。すぐ出す準備をして!」

 急いで近づく。

 死体からは焦げた臭いがした。

 燃えてからそれほど日にちが経ってないのだろう。

 肉とゴムが焼けて混ざった不快な臭い。

 口元をハンカチで押さえて近づく。

 死体の腕に巻かれた報道腕章を見て確信する。

 さらに上着の胸ポケットを調べて身分証と思しきモノを抜きとる。


「ミサト! 早く!!」


 パンッ!


 レイラの声とほぼ同時に何かが弾ける音がした。

 音のした方を見ると道路脇から全身タトゥーを施した全裸スキンヘッド男がこちらを睨んでいた。

 男は手に持った拳銃をこちらに向けて撃ちながら走ってきた。

 わたしは走る。

 屈みながら走る。

 レイラも車を前に出してくれた。

「乗って!」

「出して!」

 何発か車のボディに当たり、火花が散る。

 レイラはバッグに入れて車が全力で後ろへと進む。


 だが急停止した。


「待って、何アレ!?」

 後ろを見ると両脇の小道から車が何台も出てきてバリケードのように環七の道路を塞いだ。

「ウソウソウソ。ヤバいヤバいヤバい!」

「オーマイゴッド!」


 パニック状態のところで今度は前の方も両脇から車が出てきて、道をふさぐ。

 だが整備不良なのか車が音を立てて止まる。

 完全にはふさがらなかった。

 車が一台。

 ギリギリ通れる幅。


 わたしとレイラが目を合わせる。

「覚悟を決めるしかない」

「死ぬよりつらい目に合うなら、行こう」

 わたしは急いでシートベルトを付ける。

 そして衝撃に備える。

 レイラがアクセルを目いっぱい押して急発進した。

 タトゥー男が僅かな隙間に立ちはだかる。

 そして拳銃を向けて撃ってきた。


 パンッ! パンパンッ!


 乾いた爆発音とボンネットの火花がほぼ同時に鳴る。

 わたし達は身をかがめた。

 ドン、という音の後、今度は側面を引きずる音がした。

 しかし景色は流れている。

 突破したんだ。


 二人して顔を上げる。

 タトゥー男がボンネットにしがみついていた。

「#%&!!”%$!?」

「きゃああああ!」

「ああああああ!」


 タトゥー男が何か叫んでいた。

 ボンネットからフロントガラスに張り付く。

 持っている銃をこちらに向けて。

 レイラはとっさにウォッシャーを噴射した。

 全裸男は叫びながら滑る。

 フロントガラスを引きはがされて後ろに転げ落ちていった。

 あとはワイパーがガラス拭きをはじめるだけだった。

「何をぶっかけたの?」

「実はよくわかんないの。既製品なんて手に入らないから。う~ん中国製の謎溶剤かな?」

「さすが中国。最高ね」

「ええ、世界最大の工業国だもの」


 ウィンウィンウィン。


 無言の車内にワイパーの規則正しい動きが響く。


「ぷっ」

「くくく」

「アッハッハッハ!」

「あはあはははは!」

 緊張の糸が切れて二人して笑い出した。

 大笑いしながら車は環七を走り続ける。

「はぁはぁ、見たあのスキンヘッドの絶叫した顔?」

「見た。あのポークナッツ野郎のアホ面」

 思い出してまた笑う。

 レイラが急に車を止めて外に出た。

「どうしたの!?」

 彼女はワイパーブレードの収まっている溝に挟まっていた銃を手に取る。

 あのタトゥー男が持っていた銃だ。

 鈍い銀色の銃を持って戻ってきて、それをグローブボックスに放り込んだ。

 中には請求書とかいろいろ入っているのが見えた。

「いい、これは後で当局に事情を説明してから渡すから」

「うん、オッケー」

「ええ、とりあえず安全な所に着くまで忘れよう」

「そうね。そうしよう」

 また車が走り出す。

「ところで安全装置はどうなってる?」

「安全、なに?」

「安全装置。銃の」

「わかんない」

「オッケーわたしは多少わかるから、見るね」

「ええ」

 恐る恐るグローブボックスを開いて、なかの銃を確認する。

 そしてゆっくり安全装置を入れる。

「この部分が外れてると撃てるから、気を付けて」

「ああ、よく映画にあるシーンね」

「そう。安全装置で撃てないとかパニックになるやつ」

「ええ、大丈夫。ちゃんと知り合いの警察に渡すから」

「うん。そうして」


 しばらくすると対向車線に車列が走っていった。


 装甲車のような車を中心に何十台もの車列だ。

 人員輸送車には兵士が険しい顔でこっちを見ている。

「いまのはアラブ企業の雇われ傭兵たちね」

「傭兵?」

「羽田空港のすぐ近くにカジノがあるでしょ。そこが高い金払って雇った連中よ」

「つまり金庫番ってこと?」

「そういうこと。たぶん戦闘じゃなくて防衛線を作るのよ」

「なるほど」

「それでさっきのタイヤネックレスから何を盗ったの?」

「盗ったんじゃない。確認したかったの」

 手に握りしめていた身分証を確認する。

 予想はできていた。

 世田谷に取材に行って音信不通になったフリーライター。


 あの晒された死体はわたしの前任者だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。