第6話 立川②
立川。
立つ川。
この近くから多摩川は水流が激しく、つまり立つようになり、そのため立つ川と呼ばれるようになったという。
だから立川のすぐ近くを多摩川が流れている。
かつて国営鉄道がJRと呼ばれていたころ、中央線は立川から南に多摩川を越えて八王子まで続いていた。
今は多摩川から先は通行止めになっている。
鉄道橋は中央から破壊されていて、大量の爆薬で内側から破壊させたのか鉄鋼や鉄道のレールがぐにゃりと曲がっている。
その奥、川の向こうに北千住でも見えたコンクリートの壁がどこまでも続いている。
立川駅のホームにはその痛ましい光景の写真が壁に掛かっていた。
なんで駅のホームなのだろうと思ったが、後で知ったのだけれど駅構内はそのほとんどがプロパガンダポスターや警句で埋め尽くされていた。
たんに写真を飾れるところがなかったのだ。
立川駅のホームを移動して青梅線に乗り換えた。
「ごめんねミサキちゃん。おじいさんのわがままに付き合わせちゃって、疲れたら言ってね」
「あ、大丈夫ですよこのぐらい」
マイクの趣味のカメラ機材が入ったキャリーバッグをわたしが持っている。
「さあ、もう少しだ」
「もう、何年たっても子供なんだから」
「あははははは」
国営中央線から国営青梅線に乗り換えて終点の小作駅で降りた。
この駅のすぐ西に日本連邦との軍事境界線。
東経139度線がある。
東京は南を多摩川、北を荒川で区切られているが荒川は途中から支流の入間川になり川越を迂回するように南に流れるが、二大河川が交わることはない。
日本連邦は東経139度線を境に南北にまっすぐとコンクリートの壁を建設した。
当時そこにあった家々はすべて破壊され、除草剤を大量に散布したのか荒れ地が100メートルほど続いている。
そこは立ち入り禁止エリアだ。
そんな境界線と立ち入り禁止エリアに平行に東京側の金網のフェンスが設置されている。
フェンス側は白い布が結んであるが、それは何年か前にヒットした139度線を題材にした映画のワンシーンが元ネタだ。
ここを訪れた観光客が白い布が結んでいくのだ。
マイケル夫妻はこの軍事境界線に来たわけではない。
わたし達はその近くに建てられた観光客向けの展望タワーに用があった。
高さ100メートル。
最上階の展望デッキはよくあるガラス張りの円盤形で360度パノラマ風景を楽しむことができた。
いや、より正確には多摩川の方角は日本連邦侵攻と軍事境界線形成についての歴史パネルが展示してあった。
それはまるで日本連邦側の都市がそこにないかのように、わざとらしく見えないようにしていた。
「見てくれ。国境の向こうに廃墟がある」
「ほんとだ。あれが、あの打ち捨てられた都市が――」
「そう青梅市だ」
青梅線の名前の由来、青梅市。
そこは緑に覆われ、かろうじて都市の面影が残っているぐらいだった。
わずか40年の間に自然に飲みこまれたのだ。
パネル展示の一つに日本連邦の航空宇宙写真がある。
夜間に撮影したその画像によると都市光の数がとてつもなく少なく小さくなっているという。
それは全盛期の頃と比べると半分どころか10分の1程度だという。
「思うに、日本連邦は宇宙戦記ガンフレームだと思うんだ」
「ガン……アニメですね」
「キミはあの名作を知っているんだね」
「まあ、近所にコアなアニメファンの人がいて。子供の頃、子守代わりに見せてくれました」
「それはとてもいい環境で育ったね」
そうかな?
あれは託児所がなくてとりあえずアニメでも流しておけという感じだった。
「あの世界では宇宙のコロニー経済圏が荒廃した地球経済圏を凌駕していて、政治・経済・軍事も宇宙が中心となっているんだ。僕はね、若いころ見たときは荒唐無稽に見えたんだがコロニーを地方都市、地球を国家の首都と見ると、恐ろしいぐらいにここ日本のことのように思えるんだ」
「はあ……?」
「いいかい。日本連邦は鎖国前のときから都市の選択と集中を進めていたんだ。たしかに人口は減っていたがそれよりも都市の厳選と集中開発はすさまじくまるで宇宙コロニーを作っているかのようだったんだよ」
「なる、ほど?」
「ボクはね。そんな未来都市を走る鉄道を撮りたかったんだ。この展望タワーからなら向こう側の都市を撮れると思ったのに、このパネルは邪魔だな」
「たしかに邪魔ですね」
マイクが熱くアニメの設定について語っていたとき、後ろからジェシーが「きゃっ!?」と驚いた声がした。
急いで展望デッキの東側に行くと目をしばしばさせている彼女がいた。
「どうしたんですか?」
「あのね。あっちのキラキラしてる方を見ていたら眩しくて目がチカチカしちゃったの。もう驚いてつい声がでちゃったのよ」
ジェシーが指さす方角、東の方を見ると山に大量に設置してあるメガソーラーのパネルが輝いていた。
太陽光が反射して強い光を発していたのだ。
「あっちはあまり見ない方がいいですね」
「ふむ、あれは第二次宇宙開発競争時代のプロブスカイト太陽電池かな。それにしてもあの山は狭山……そうなると多摩湖があのあたりのはず」
マイクが一人ぶつぶつと考え事をしていた。
立ち直ったジェシーがそんなマイクに文句を言う。
「おじいさん。早く用意しないといつまでたっても帰れませんよ」
「おおそうだった。ミサキさん。そのキャリーバッグを持ってきてくれるかい」
「はい、ここでいいですか」
マイクはキャリーバッグの中から望遠レンズや脚立を取り出して展望デッキのギリギリのところに設置する。
そのカメラが見据える先には青梅線の電車があった。
「今日はこの高度からの青梅鉄道を撮るために来たんだ。ただ時刻表通りに走らないからここで構えながらの長期戦になるだろうね」
「ミサキちゃん。お仕事もあるでしょうしこの人に付き合う必要はないわ。もうほんとうに趣味になるとこうなんだから、困っちゃうのよね」
「それじゃあ。わたしは下に降りて139度線を見てきますね」
「ええ、帰りにまた合流しましょう」
わたしは2人と別れ展望タワーの外に出た。
そしてスーツを着た男たちに囲まれて、「ご同行お願いします」と言われて半ば強制的に連行された。




