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2126:日本連邦へようこそ!  作者: 日本連邦観光公司
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第5話 新宿①

「ふぁ……眠い」


 一昨日、夜遅くまで打ち合わせや資料作りなどをした。

 わたしが見聞きしたことを記載した記事、わたしがインタビューした音声データ、そしてデジカメのGPS情報付きの写真などなど。

 それらをすべて提出してあとは編集部のチームが記事を仕上げる。

 ある意味一息ついたと言える。

 昨日からは挨拶廻りに出ている。

 いろいろな所にある観光協会の案内所や商店街の相談役に菓子折りを持って会いに行く。

 旅行雑誌は地元がPRしたいところを記事にするのが基本だ。

 だからこういう外回りは重要だ。


『新宿~新宿~。中央線の乗換は――』


 今日は新宿から西側を回る予定だ。


 新宿。

 新しい宿(ヤド)内藤新宿(ないとうしんじゅく)

 むかし交通量の増大に合わせて藩主の屋敷跡に新しい宿を設けたのが語源だという。

 明治維新後は山手線の新宿駅が開業するとさらににぎわった。

 20世紀に入ってからは繁華街として繁栄していった。

 21世紀に入ると無計画な拡大による利便性の低下から再開発が何度もおこなわれた。

 その21世紀末に大震災によって壊滅的なダメージを負った。

 わたしはそんな新宿駅で下りた。


「わお! すごい!」


 新宿駅を出て最初に出迎えてくれたのが2つの龍柱になる。

 旅行客を出迎えてくれることから「迎龍柱」と呼ばれている。

 ただよくよく見ると10メートルほどの鳥居になっていて知っている人は「迎龍鳥居」と呼んでいる。

 そのため朱色の柱に東洋の龍が巻き付いたデザインになっている。

 そしてこれでもかという極彩色で龍が彩られている。

 さらにスポットライトで下から照らすことで龍の陰影を強調していた。

 ちょっと龍が目立ちすぎている。

 もちろんその龍が映えるように写真を撮る。


 龍柱を通り新宿に一歩足を踏み入れるとそこは真っ赤な繁華街になる。

 そこら中に赤い提灯で飾られている。

 提灯には「福」の字が逆さに描かれている。

 これは福が訪れたといって縁起を担いでいる。

 もちろん赤はとても縁起のいい色になる。

 それぞれの店の看板も赤字か赤の背景に黄色字などがほとんどになる。

 ここは東京で、そしてたぶん日本唯一にして最大のチャイナタウンになる。


「中華街の活気がすごいや」

 ハワイもそうだが中華街は妙に活気がある。

 人々の往来も多く、そして不思議な魅力に惹かれて旅行客もやってくる。

 わたしはそんな中華街に魅入って奥へと進んでいった。

 本来の目的を忘れて。

 ちょっと奥へ。

 もう少し先へ。

「お嬢ちゃん。ここは繫華街ちがうヨ」

 薄暗い通路の奥から男が声をかけてきた。

「あれ……迷った」


 迷った。


 朱色一色だった繁華街から一歩出ると裏道になる。

 灰色の壁には積層痕が目立つ。

 その痕から3Dプリンター建築だとわかる。

 小道は複雑に入り組んでいて、来た道がどこなのかわからなくなってしまった。

「よければ1000W(ダブリュー)で帰り道を教えるヨ。イヒヒヒヒ」

「いや~Wって知らないし、持ってないです」

「んん~、お金持ってないのか? こりゃイケナイネ。ここじゃ金か縁がないと生きていけないヨ。ちょうどよかった。いい仕事紹介するよ。楽に稼げる仕事だよ」

 40代ぐらいのアジア人の男がいやらしい目でわたしを見ながら言う。

「結構です」

 わたしはきっぱり断って回れ右する。

 だが来た道から別の男が現れた。


 警察官だ。それも2人。


「おいおい、おっさん。誰の許可でスカウトしてるんだ?」

 巨漢の警官が威圧的に路地裏の不審者に詰め寄る。

「ん~? 報道腕章付けたお客さんじゃないか。ダメだね~こういうのダメって知ってるでしょ」

 細身細目の警官が右手に持った警棒を軽く左手に叩いて威嚇する。

「イヤイヤ。誤解ですよ。わたしは道に迷ったお嬢さんを助けようと、しかもこの街でお金もないっていうんで助けようとしただけですヨ。人助けは罪じゃないでしょう?」

「おっさん。そういう言い訳はアホな日本人にしか通用しないんだよ。わかってるだろ? あ?」

 巨漢の警官が右手のひらを出して、くいくいっとジェスチャーする。

 たぶん金を出せ。

 強請(ゆすり)だ。

 警官による恐喝の現場に居合わせてしまった。

「勘弁ネ。勘弁ネ。もうしない。もうしないヨ」

「ボー。お客人の前だ。今日は見逃してやれ」

「あいよ。ジュン兄ぃ。よかったな。行っていいぞ」

「ひぃぃ……!」


 不審者は路地裏の闇の中へと消えていった。


「あの、ありがとうございます!」

「別にいいさ。金もないようだし、どこに行きたいか言ってくれ」

「えっと新宿の観光案内所です」

「はぁ、なんだイー爺さんの客か。ここからだと遠回りになるから階段を使って最短で送り届けてやる」

 細身のジュンが先導して後ろを巨漢のポーが護衛する。

 傍から見れば連行されているようだった。

 階段を上り、路地を右に左に、通路に唐突にあるドアを抜けると別の通路、もう道がわからない。

「すごい入り組んでるのに迷わないんですね」

「当たり前だ。ガキの頃から歩き回ってるからな」

 ポーが自慢げに言う。

「あんた記者ならこの新宿なんて呼ばれてるかも、なんでこうなったかも知ってるね?」

「一応、調べてから来てますので?」

「お、知ってるのか。オレは知らんぞ。なははは!」

「ボーはもう少し歴史の勉強しな。新宿も他と同じで地下の開発が進みすぎた都市。だから各地が陥没して新宿からも人が去った。よろし?」

「はい。それで復興のために地下のほとんどを埋めたんですよね」

「そう。連邦のアホ共が鎖国する時に域内のチャイナタウンとそこにいた華僑全員を東京に送りやがった。半分は本国に帰ったけど、残りの半分は新宿を中心に居ついて。まあ元々チャイナタウンがあったからね。それで穴埋め作業と高層ビルの撤去作業をした」

 それは震災後の治安維持を名目とした外国人一掃作戦だった。

 排除作戦の対象外だったのが当時、サンクチュアリ法によって移民難民の保護が正当化されている国際都市東京だった。

 聖域都市と世界中のリベラリストたちから賞賛された。

「外の連中は美談にしようとしても地下を埋めて地表を更地にして都市を再建できる金が政府になかったね。だから表の見栄えはすれど実態は3Dプリンターで建築と増築を繰り返したアホみたいな都市になってる。新宿の新しい呼び名知ってるか?」


 3Dプリンター建築の登場によって100年前より建築コストが大幅に下がった。

 当時流行らなかったのは法整備と安全性に問題が多かったからだ。

 連邦鎖国後に資金難に陥り財政破綻すると、東京は一瞬で無法地帯になる。

 法秩序が無くなると雨後の筍のようにチャイナタウンの建築ラッシュが始まった。

 建築と増築が誰にもわからないスピードで繰り返される新宿を見て、いつからか人々はこう呼ぶようになった。


「新宿九龍(クーロン)城」

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