第4話 千住②
千住。
北へ向かう日光街道の最初の宿場町になる。
葛飾北斎の富岳三十六景に描かれるぐらいには有名な宿場町になる。
千住宿の中央には隅田川が流れている。
この川のおかげで千住は物流の重要な拠点として発展することになる。
蒸気機関も内燃機関もない時代の話になる。
ガタンガタン。
ガタンガタン。
「すごい。まさに物流の最終地点と言っていい!」
「もう、おじいさんったら」
「いえ、ほんとにこれはすごいですよ」
パシャパシャ。っとマイクとわたしはデジカメで写真を撮っていく。
荒川区南千住の隅田川駅は人手ごった返していた。
復興支援名目の燃料や食料物資、その他必要生活品がここから東京中に運ばれる。
運送業者が荷車に載せるだけ載せて運ぶ姿は倒れないか心配になる。
隅田川の見える限りすべての岸に荷船があった。
生活必需品を少しでも早く受け取ろうと人が集まっている。
「ここは南千住なんだけど隅田川駅っていうんだ。もともとは北から運んできた石炭を東京に運ぶために明治に作られたんだ!」
「そんな昔から物流の拠点だったんですね!」
「イエス。ここから隅田川にアクセスして水運で東京中に石炭を運んだんだ。いまは災害支援物資や家庭用の固形燃料をここまで運んで隅田川経由で各地に運ぶんだ。自転車より多く運べるからね」
「もうここはうるさすぎて全然、聞こえないわ!」
ジェシーが文句を言うのもそのはず。
ここでは積荷を降ろす労働者と現場監督と物資を受け取る住民の罵倒にも近い喧騒があった。
全員が今の生活を守るために声を荒げている。
「それにしても車がほとんど走ってませんね。一応北部は復興してるんですよね?」
「う~んそうだね。一度経済破綻しているからね。それに石油は昔と違って高いからね。採算が合わないんだよ。それに運んでいるのは震災復興支援名目の生活必需品で、運賃を請求しちゃいけないことになっているんだ。そうしないと不公平だからね。良くも悪くも物流網が機能しているせいで健全な企業活動ができないんだ。皮肉な話だよね」
高校の授業を思い出した。
教材はガザ経済について。
紛争で荒廃したガザ地区復興プロジェクトは経済学的にも貴重なサンプルだったという。
ある経済学の一派が言うには人道支援そのものが経済成長の妨げだという。
高校の先生のすんごいかみ砕いた説明によると、「受け取る支援物資以上の給料がもらえないと誰も働かなくなるということだ。施しはキリスト教的には正しいが自由経済主義的には間違っているということだわかりますね。キリスト教的に正しくない相手を叩いて、自由経済主義的に正しくない人道支援の受給者を憎む。これこそがMAGA(Make America Great Again)が台頭する前のアメリカの二面性になります」、こんな感じのことを言っていた。はず。
状況を改善するには支援物資よりも付加価値のある生産をしないといけない。
これを「支援の罠」と言うらしい。
一度、世界経済から切り離されると自立するのが難しくなる。
ガザでは工場がないからどう頑張っても低賃金になる。
普通に考えて支援物資を運ぶ箱からプラスチックの容器、衣類に固形燃料に食糧。
どうすれば荒廃した土地にそれらを作れるだけの産業を作り出せるというのか。
さらにイスラエルの対テロ制裁から貿易もできない。
支援物資を受け取る以上の生産性なんて生まれるわけがなかった。
パシャ。
今の東京は不思議なところだ。
江戸や明治のような古い物流網が復活して、支援の罠によって経済が破綻している。
それでいて震災前からある旅行者を受け入れる下地があるため、わたしたちは安全に彼らの活動を写真に収めることができた。
隅田川駅には旅行者・見学者用の通路があって、その通路はフェンスで仕切られている。
何年か前にこの光景が話題になって旅行客がよく来るようになったのだという。
そこで駅側が少しでも観光名所にでもなればと整備し始めたたという話だ。
『本日、北千住で復興祈願コンサートがあります。あの震災から40年。復興を願う人々のチャリティーコンサートにどうぞご参加ください』
「北千住はすぐそこね」
「面白そうだから行ってみようじゃないか」
「そうですね。わたしも取材地が多ければそれだけ良いんで行きましょう!」
北千住に向かうために来た道を戻る。
その帰り道に南千住の生活を垣間見た。
駐車場にはキャンピングカーが並んでいて、受け取った燃料を燃やして炊事をしている。
燃料と一緒にゴミも燃やしているのか白い煙の筋がいくつもいくつも立ち昇っていた。
南千住駅。
山手線の上野あるいは日暮里駅から、常磐線に乗り換えると南千住に行ける。
一般人の常磐線の終点駅が北千住駅になる。
荒川から先は日本連邦だからだ。それでも一応線路はつながっている。
日本連邦側から定期的に支援物資を積んだ無人の列車が来るからだ。
ガコン。
列車が走り出した。
そしてアナウンスが響く。
『次は北千住~北千住~終点です』
つまり北千住とは日本連邦との緩衝地帯だ。




