アンとセスチャ先生の思い。
<アンの悩みと回想と侍女たる仕事>
わたくしは、恐怖のあまり思わず庭園から走って東棟に戻って参りましたの。
「バタン!!」
「アン?...そのように慌てて、どうしたのですか?」
「セ、セスチャ様...お、お嬢、お嬢様が... ...」
「フローレンス様がどうかなされたのですか?...あなたは、フローレンス様と一緒じゃなかったのですか?」
「セスチャ様!セスチャ様!...」
「アン。落ち着きなさい。...フローレンス様がどうしたのです。」
「セスチャ様。わたくしとお嬢様は東庭園に散策に行ったのです。その庭園の中にベンチが御座いました。お嬢様...お嬢様はそのベンチをご覧に...ご覧になられて『巻き髪の方が座っておられます。』って仰られましたの。でも、わたくしには何も見えないので御座います。もしかしたら、前后様の亡霊ではないでしょうか?セスチャ様~!如何しましょう~!」
「...アン。それで、フローレンス様をそのベンチに置いてアンは1人で戻ってきたのですか。アン、あなたはフローレンス様の侍女ですよ!そしてアン!何度も言いますが、亡霊などいるわけありません!早く、フローレンス様を探してきなさい!いいですか!」
「...でも...」
「いいから、早くフローレンス様をお迎えに行きなさい!」
「... ...かしこまりました。申し訳御座いません。」
わたくしは、急いで部屋を出ました。
それに、セスチャ様にお怒りを買ってしまいました。当然のことです。わたくしは侍女失格。
そして、私はお嬢様をあのベンチに置いて私1人が逃げてしまった事は全前代未聞だと思います。本当に申し訳ないことをしてしまいました。
だけど、あの庭園に行かなければならないのは分かっておりますが怖い。
やはり、あの巻き髪の方はお后様の亡霊だと思うのです。
お嬢様は今頃、どうなさっておられるのでしょうか?
早く、お迎えに行きたいのですが庭園に行けば、わたくしは体が動かないかもしれませんわ。
わたくしはどうして良いのか分からない。
そして、東庭園の入り口に入るための扉の前で佇んでおります。
わたくしは佇みながら、お嬢様という方を思い出していたのです。
侍女であるわたくしが決して考えてはいけない事だと思いますが、お嬢様という方が時々ですが分からなくなるのです。
以前のお嬢様でしたら、地味なドレスなどと口にされる事もなかったのに。それに、行動力も目を見張るものがありますの。それに、目覚められてからのお嬢様は人が変わったような気が致しました。
記憶を失くされておられる事もあると思うのですが、以前と違うお嬢様に仕えているような気が致します。
だけど今、こうして恐ろしい目に遭われておられるかもしれないお嬢様の事を考えると居ても立ってもおられませんが...
わたくしは思うので御座います。
お嬢様は「神の御加護」を受けていらっしゃいますから以前と違うお嬢様なのだと。
わたくしは「神の御加護」がどのようなものか知りませんが、きっとお嬢様は神様に見守られておられると信じております。
そのお嬢様に、わたくし如きが仕えさせて頂いていることが果たして良いのだろうかとも思います。
もっと、他の優秀な侍女がいいのではないかと。お嬢様には優秀な侍女が仕えたほうが良いのでは?と思ったこと数回。だけど、お嬢様は何時でも「アン。アン。」とわたくしの名前を呼んで頂いておりますから、わたくしでも役にたっているのだと自分自身で言い聞かせております。
... ...お嬢様!今日の無礼をお許し下さいませ。
わたくしは、こんなところで立ち止ってはならないのです。
一刻も早く、お嬢様をお助けしなければ!
今、アンが参ります!!
<セスチャの悩みと回想>
アンが出て行ったあとを見て私はフローレンス様の事を思い出していた。
私の家系は代々、フィールド家の家庭教師をさせて頂いている。
私がフローレンス様の家庭教師になって、どのくらいの年月が経ったのかと考えた。
初めてフローレンス様に出会ったのは、あの方が7歳の時。
フローレンス様は大貴族のお嬢様なのに私に「セスチャ先生。初めてお目にかかります。フローレンスですわ。(ニッコリ)」としっかりした口調で、おまけに満面の笑みで私に挨拶された。
その時、私は「なんと可憐で、しっかりされた方なのだ!」と思ったと同時に嬉しくもあった。
私はフローレンス様に貴族のお嬢様らしく高度の教養を付けて頂きたくて厳しくもした。
フローレンス様は何事も一生懸命に勉強されておられた。しかし時折、物思いなお顔もされておられたが私は何も気づかなかった。あれが病の前兆だったのだろうか。
それから暫らくして、アルド様から「フローレンスは病になった。」と告げられて私は驚いた。フローレンス様の病名は誰に聞いても分からず。
そして、何年か経ってフローレンス様の病が治ったという嬉しい知らせを聞いた。
その吉報を聞いた時は本当に嬉しく思ったのだ。
だけど、病が治ったと思いきや今までの記憶を失くされたと教えられ愕然とした。
だが、フローレンス様は以前にまして勉強をなさっておられる。
そのような体でも勉強をされている姿に、独り、涙を流した事もあった。
私はフローレンス様のお体の事も配慮して1日に1時間ほどの授業をして、あとは世間話し。
でも、記憶を失くされたフローレンス様が以前のフローレンス様と違うように思えたのは私だけだろうか。何故なのか分からないが、そのように思った。
我が国の国王が命令されたらしいと私の主であるアルド様から聞いた「サンダーラ国の后候補」の話し。
そのために何もお分かりになられないフローレンス様に私は付いてきた。
これはフローレンス様の至っての願い。
私はこの時ばかりは、独身であることに感謝をしたものだ。
やはり、フローレンス様の教育、主に勉学は私でなければならない。
それから、この国に来たのだがフローレンス様のご様子は、やはり違う。
記憶を失くされたとはいえ、以前のフローレンス様とこうも違うのかと思った。
以前と話された時の声は同じなのだが、何かが違う。
目覚められたときに「神の御加護」を受けられた方だけに変わられたかも知れない。
まぁ、私は「神の御加護」なるものはどのようなものかは分からないのだが。
だけど、今回の事は何ともおかしな話しだ。
あの、フローレンス様に亡霊なるものが見えるなどとは到底、考えられるものではない!
なぜなら、この世に亡霊などいないからだ。
本当に、何所からそのような噂が出たのか解せないが、誰かが面白半分で怖がらせるための作り話しだろう。
それよりも、フローレンス様の記憶が一日でも速く戻ることのほうが私としては有り難いのだが。
兎に角、フローレンス様が戻って来られてから詳しく話しを聞けばいい。
それにしても!アン...なんたる事だ!フローレンス様という主に仕えている侍女なのに、その主を1人にさせておくなんて信じられない振る舞いだ!
アンにもっと侍女らしく教育しなければならない。




