ひょうたんから駒。
今、後宮で「前后の亡霊」話しが噂になっている。
東棟に住んでいる私達だけが、その噂を知らなかった。
それに、東棟以外は行ったことがない。やはり、出かけるべきだと思った。
今もそうなんだけど、東棟と東庭園には今までに誰も来た事がないのは事実。
この後宮の家来さん及び門番さんさえいない。
私はマリアさんやエルミナさんに、この噂を聞くまでは「東庭園」に誰も見かけない事は何もおかしい事とは思わなかった。
だって、東棟だけは他の棟より雰囲気が違っていたから。それに南からは少し遠い。
きっと、西棟や北棟からも離れているんだ。
私が初めて東庭園に行ったのは2人の陛下との面会の時だけ。
確かに東屋は分かり難い場所に建っていたし、その道順も迷路のようだったと今でも覚えている。
だけど、東庭園は緑が多くて良い場所だと思うんだけどな~。
それに、静かだし。緑の木々を東棟の窓から見ているだけでも私には癒し。
その癒しの東庭園に前后の亡霊が出るなんて信じられない。多分、噂だと思うけど「火の無い所に煙はたたない」
私の考えだけど、誰かが噂を流して東庭園に寄せ付けないようにしているのだろうか。
馬鹿な話しだと思いつつ、前后の亡霊が出るのかどうかを確かめたい気持ちはあるけど、今から東庭園を歩くっていうのも、いくら私と言えども勇気がいる。
決して怖いとかいうものじゃないんだけど。ただ、電灯もなくて真っ暗なんだもん。
何も今じゃなくても明日、東庭園に行けば良い。だけど、いくらなんでも日中は出ないでしょう。
そして、次の朝。
私は朝食後、アンに東庭園に散策に行かないか。と誘った。
勿論、アンは拒否をする。私1人、侍女も連れないで歩くっていうのはいけないことらしいから何としてでも連れて行きたい。
「アン。わたくし、東庭園に行きたいわ。アンも東屋を見たいでしょう!」
「... ...わたくしは、ちょっと...」
「そう言わないで。前お后様の亡霊は日中なんて出ないわ。」
「そうで御座いましょうか?でも、噂が...」
「大丈夫よ!もし、前后様の亡霊が出たらわたくしが守ってあげるわ。だから行きましょう!それに東屋にアンも行きたいって言っていたじゃないの。」
「東屋には行きたいので御座いますが...でも、噂が...」
「じゃあ、アンは東屋には行きたくないのね。わたくし1人で行きます!」
「お嬢様~!... ...わたくしもご一緒致します。」
半ば強引にアンを連れて東庭園に行く事になった。私の好奇心のために、アンには可哀想だと思うけど付き合ってもらうわ。ごめんね。アン。
東庭園の入り口まで歩いてきたけどアンは緊張している。
「さあ、アン。東屋に行きましょう!きっとあなたも気にいるわよ。」
「... ...」
私は東屋に行く道順を覚えているはずが...また、迷ってしまった。アンは「もう、お嬢様ったら!」と言いながら私と同じく迷い始めた。でも、迷ったとは言えども私達は一度は通った道。アンの記憶に頼るしかない。アンは「この道だったかしら?」とか「そうそう、この木の左を...」とか独り言を言いながら進んで行きます。しばらく歩いていると私達が国王と出会った所に出た。
そうそう、この道だった。流石、アンです。迷いながらでも覚えているのが凄い。
「お嬢様。わたくしは此処までの道しか知りません。後はお嬢様が連れて行って下さいませ。」
アンはそう言って、私が東屋を案内することになったの。ここからだと東屋は近い。
でも、私って方向音痴だからね。一度、通ったところには自分なりに目印をつけておいたはずなんだけど。
確か、その角を曲がると木のベンチがあるはず。そして、次は...そうそう、右に曲がったらまた木のベンチがきっとあるはず。
私とアンは右に曲がり木のベンチを目指して歩いた。
その間、アンは亡霊の事を忘れたの?と思うほどはしゃいでいる。
そりゃそうよ。さっきの所より、道の両サイドに植わっている大きな木。ケヤキ並木って言っても過言ではないほどの景色道。その両サイドの木が道を覆っているんだもの。この道は素晴らしい!
「お嬢様。ここは本当に緑の木々が素晴らしいですわ。」
「だから、言ったでしょう!本当に素敵な庭園でしょう。なのにアンったら。」
「申し訳御座いません。あれは、ただの噂だったのでしょうか?」
「そうよ。この綺麗な庭園に前后様の亡霊など出るはずがないでしょう。」
アンは綺麗とか素敵とか言いながら私達はベンチを見つけた。
そうそう、あのベンチの横を真っ直ぐ行った所が東屋。
ところが、そのベンチに... ...誰、あの子?ベンチに座ってる!
それも、私ぐらいの年齢の女の子。巻き毛で色白でカワイイ子。
この後宮であんな子いたかな?
「アン。あのベンチに誰か座っていらっしゃるわ。誰かしら?」
「... ...お、お嬢様...」
「アン。ほら、あの方。巻き髪の女の方よ。」
「... ...」
「アン?」
私はアンが何も返事をしてくれないから不思議と思いアンを見たの。
アンはベンチを見るのではなく私をじっと見ている。
「お、お嬢様...何か見えるので御座いますか?」
「アン。あなたには見えないの?ほら、巻き髪の方で...今...私達を見たわ!アッ!今、笑った!」
「...お、お嬢様...」
「ほら、巻き髪の方がわたくし達をみて微笑みかけられたわ。...アン、見えないの?」
「...はい。...わたくし... ...わたくしには見えません。...お嬢様。もう、戻りましょう!」
「...あの方は誰かしら?前后様にしては若いような気もするんだけど。あの方、わたくし達を見てずっと微笑んでいらゃるわ。」
「...わ、わたくし...キャ~~!!」
「アン!... ...」
アンは叫んで庭園から走って行ってしまった。
それも、私をほっといて1人で走って逃げた。
後の残された私1人。逃げるよりも真実を掴みたい。
私だって亡霊っていうのは信じがたいけど、私に見えてアンには見えないものと言えば亡霊?
その巻き毛の女の子は私に微笑みながら「おいで。おいで」と手招きするの。
前后ではない!と心で思いながらも、これが前后だったらどうしようかと思う。
内心、ドキドキしながら彼女の横に座った。
すると、彼女からの第一声は
「琴子さん。お久しぶりですわ!」
「...あなたは?」
「まぁ~いやだわ。わたくしよ。フローレンスですわ!」
「エッ!... ...ウソ!!」
「お忘れですの。わたくしは、フローレンスですわ。琴子さん。今まで、わたくしの代わりをして頂いて有り難う御座います。フフフ・・・・」
「なんで?なんで今頃、あなたが現れるのよ!それに何故、他の人には見えなくて私には見えるの?」
「ホホホホ・・・わたくしには、ちょっと理由がありますの。だから今は琴子さんだけにしか見えてないのですわ!」
「... ...ちょっと!よくまぁ、そんなに暢気に言えるわね!あんたのお陰で私がどれだけ苦労しているか知っている?もう!大変だったんだから。それに、あんたは私と代わった後に何所かへ行ってしまうし。私は記憶喪失扱い!どう言う訳かサンダーラ国の后候補になっちゃうわで...おまけに、この国の国王...まぁ、色々な事があったわよ!どうしてくれるの!!」
「まぁまぁ、落ち着きあそばして。わたくしも心配でしたのよ。琴子さんが、わたくしの代わりを上手くできるか陰ながら琴子さんを拝見させて頂いておりましたの。」
「ハァ~!どう言う事なの?何故、あんたが今頃になって出てくるのよ。訳が分からん!きっちり説明してよね。初めから説明する事!いいわね!!」
「ええ。分かっておりますわよ。でも、わたくしは琴子さんの夢の中で一部だけですが、わたくしの記憶を見させて差し上げたのに何のお役にも立てられませんでしたわ。それに...いいえ。これからは、わたくしが琴子さんに代わってわたくし自身に戻ります。だからご安心を。」
「...夢。夢って途切れ途切れの内容で何を言っているかも分からなかったし。今頃になって私と交代だって~~!じゃあ、私はどうしてくれるのよ?元の世界に戻してくれる訳?」
「琴子さん。それは無理なの。...わたくしに良い考えがありますわ。(ニッコリ)」
本物のフローレンスは私の肩を掴んで「琴子さん。少し我慢をして下さいませ。何も痛くも怖くも御座いませんわ。ご安心を。(ニッコリ)」
何?いったい何をするのよ!やめて!やめてってば~~!... ...私はこのフローレンスの脅威に負けて「ギャア~~~!!」と叫んでしまった。
「もう、琴子さんったら何もそんな大きな声を出さなくても宜しいじゃございませんの。それに少し、窮屈ですわね。」
何なのよ!このフローレンスに私の体を乗っ取っられたじゃない!
乗っ取っられたというより憑依されたじゃないの!
元々は本人の体なんだけど。
「やっと、わたくしは自分の体に戻れましたわ」
やめて!今は私の体なのよ!




