心身ともに疲れました。
「バタン!」とドアが閉まるとともに先生は私に「お疲れでしょう。」と第一声を掛けられた。
先生はさりげなく、私に労いの言葉をかけてくれているけど本当は陛下との会話の内容を聞きたくて仕方がないように感じる。おまけにアンも目がキラキラしてるように見える。
まだ、陛下との会話の内容を考えてないのよね。偽陛下であるドミトルさんと話した事と言えば、あの時のお茶とお菓子のこと。それに、ビックリするぐらい大きな声で笑われて恥をかいたのよね。
「お茶とお菓子が美味しかったことを話した。」なんて先生に言えば、きっと呆れてしまう。
だけど、お茶とお菓子の話しの事しか思いつかなかったんだもの。
「フローレンス様。どうされたのですか?随分、お疲れのご様子ですね。それに、立っていないでお座りになられたら。」
「... ...ええ。疲れました。」と言いながら、ドサッとソファーにすわる私。
「セスチャ様。お嬢様は国王様のお会いになられた時間が長かったからですわ!ねえ、お嬢様!それに、わたくしまでも初めて国王様にお会い致しましたのよ。わたくし如きが国王様のお顔を近くではで御座いませんが拝見させて頂きました。それでも、凄く緊張致しましたの。本当に、素敵な国王様で御座いましたわ。ねえ、お嬢様!そして...」
「アン。少し黙りなさい。フローレンス様が疲れていらっしゃいます。フローレンス様。あちらで少しお休みになられたら如何ですか?」
「...そうさせて頂きます。」
先生!嬉しいです。私も早く、このドレスを脱いで寝転びたかったの。
それに、今日の会話の内容についても考えたかったし。
私は直ぐに自分の部屋ののドアを開けて、ベッドになだれ込んだ。
「ドレスにシワがいく!早くドレスを脱がなくっちゃ!」と思いながらも、でも体を動かすのはめんどくさい。それに、今日の2人の陛下さんから聞かされた内容にも驚いたけど私はこれからどうすればいいのだろう。そっちのほうが問題よね。
私はこれからの自分自身の生活を考えるだけで頭が痛い。それに、まず先に今日の会話の内容を整理しなくてはならない。
今日のドミトルさんの話しでは、ラグ陛下が私と出会って良かったって言っていた。そして、ラグ陛下は私の事をよく知っていたような口振りだったのよね。ドミトルさんはラグ陛下の重臣。彼らには内緒事はないと思う。という事は、ドミトルさんも私の事を知っている。もし、私が彼を知っていたら「私はドミトルと申します。」って自己紹介はしないだろう。
エッ!...まさかと思うけど、あの時の私の挙動不審な姿を察して私が偽者って勘づいたの?
自己紹介をしたってことはドミトルさんは、私が偽者だと疑っている?半信半疑のままではドミトルさんは私の事は信用できない。ってことになる。
だから、私が本物かどうかを確かめるために別れ際に「フローレンス姫。また会おう」と言ったのではないのか。私の妄想だから分からないけど、このまま上手く騙せる自信はない。
バレないうちに早くこの国から出て行かなくてはいけない!どんな方法を使ってでも出て行きたい!
本当に、今直ぐにでも彼女に会って真相を聞きたいわ。でも、彼女はいない。
それに、私と代わった後に本物の彼女は何所に消えたのよ?
今まで、ずっと気になっていた疑問。それに「後はよろしく。」って言っていたけど、私にどうしろと言うの?
考えれば考えるほど私の頭はパンクしそう。
私って、こっちの世界に来てから自分の身を守ることばかり考えているから凄い妄想癖がついてしまったわ。向こうではこんなんじゃなかったのに。
私は、あれこれと考えすぎて心身ともに疲れていたこともあって寝てしまった。
不覚にもぐっすり寝込んでしまった。そして、不思議な夢を見た。
「・・・フロス。・・・くな!僕だって・・・」
「だって・・・わた・・・」
「だから・・・泣く・・・泣くな・・・・フロス。泣くな!・・・」
「だって、わたくち・・・会えなく・・・・ウワァ~~ン・・ラ・・~」
ラって何?
何、この夢は?前の夢の続き?...ではない。誰?この子達!「わたくち」って?
それにまた、フロスって言った。それに女の子が泣いているわよ。
会話が途切れ後切れで分からないじゃない!
「コンコン。コンコン。」
「お嬢様。...お嬢様。」
私は誰かに呼ばれて眼が覚めた。
「お嬢様。お目覚めになられておられますか?」
アンの声だ。
私はアンの声に起こされたみたい。ベッドから起き上がって窓の外を見ると真っ暗。
今、何時なの?... それに、訳の分からない夢。これで2度目なのよね。今度は男の子と女の子の会話。それも小さな子供達。何故、こんな夢を見るのかさっぱり分かりません。それに寝苦しいかったし。
寝苦しかったって?キャー!ドレスが!私... 私、ドレスを脱いでいなかった!やっぱりシワシワだよ。
高価なドレスが...それに、本物のお嬢様ってこんな寝相は悪くないわよね。
「アン。今、そちらに行きます。」
私はそう言って慌てて別の部屋着に着替え、さっきまで着ていたシワシワのドレスをクローゼットに仕舞い込んだ。「これで暫らくはバレないだろう」と思いつつ。
そして、何食わぬ顔で私はアンと先生が待つ部屋に行ったの。
こっちの部屋では先生とアンが心配そうに私を見ています。
先生は「フローレンス様。大丈夫で御座いますか?かなり、お疲れになられたのですね。私もあなた様に休ませて差し上げたいのですが、何か食べなければ体が持ちません。夕食はバクンが持って来てくれています。お召し上がり下さい。」
「ごめんなさい。...先生、今は何時ですか?」
「今ですか?今は20時です。それにしても、かなりの時間お休みなられておられました。どこか、お体でも支障があるのですか?」
「...いいえ。大丈夫です。きっと、緊張をして疲れていたのだと思います。そして、この部屋に帰って来た途端、眠くなって...」
「大変な緊張と疲れが一度に出たのでしょう。でも、食事は取らなければいけません。さあ、バクン。フローレンス様に準備して差し上げなさい。」
「はい。フローレンス様。今日はお疲れで御座いましょうから栄養のある食材でお作りしました。そして、フローレンス様のお好きな物ばかりをご準備させて頂きました。」
「ありがとう!バクン。そして、毎日、毎日、本当にすみません。いつも美味しい食事を有り難う!」
「フローレンス様!あなた様にそう言って頂けるなんて...このバクンは幸せ者で御座います!」
...バクン。大げさだわよ。何時だってバクンが作る食事は最高に美味しいもの。
私のほうこそ幸せよ。それに、向こうだったら私が作る食事ってこうはいかないもの。
本物のフローレンスの代わりはイヤだけど、この食事だけは偽フローレンスで良かった。
バクンもこの部屋にいるし、まるでウチの屋敷にいるみたい!
「さあ、フローレンス様。お召し上がり下さい。そして、残すことのないように。宜しいですね!」
先生。言われなくても分かっていますとも!私だってお腹は減っている。それもかなり。
...凄い!ご馳走です。毎回、毎回バクンの作ってくれた食事は美味しいから残さず食べさせて頂きます。それにしても今日の晩御飯は豪華!本当は誰もいなかったらガッツキたいわね。
昨日は、この私でも「国王に会う」と言うことで緊張して食べられなかったんだから。
そして、私はガツガツとはいかないけれど私なりに品良く食べています。
「美味しい!美味しいです!バクン!」
「それは良かったでございます。元気なフローレンス様を見て安心致しました。本当に良かったで御座います。では、セスチャ様。フローレンスお嬢様のお食事がお済になられましたら呼んで下さいませ。では、これで失礼致します。」
「バクン。これで心配は要りません。大丈夫です。」
私は何故、バクンがこの部屋まで食事を持って来たのかが分からないけど多分、私が寝過ぎたために皆さんは心配だったんだと思う。
この部屋に帰ってきた時はまだ、空に太陽があったんだもの。だから、2時か3時ごろよね。目が覚めた時は20時ってことは...5時間、6時間ほど眠っていたことになる。そりゃ皆さんは心配するはずよね。
私はそんな事を考えながら目の前の食事を食べ終わるという時に先生は仰いました。
「フローレンス様。その食事が終われば聞きたい事があります。(ニヤ!)」
「エッ!...(今日の陛下との会話のことだ!)」
「わたくしもお嬢様にお聞きしたいことが御座いますわ!」
そうだった!やっぱり、この人たちは気になっていたのね。
私は食事が終わってから話した。勿論、秘密は言わないけど。
皆さんは私の話しを今か今かと待っている。
そして、先頭をきって最初に仰ったのは先生。
「フローレンス様。今日は陛下と会われてどうでしたか?どのようなお話しをされたのでしょうか?」
「そうですわ!わたくしも聞きとう御座います!」
もう!2人して眼をキラキラさせちゃっているじゃないの。
私の計画では夕飯までに会話の内容を考えようと思っていたのに、寝過ぎたばっかりに...
それに、美味しい夕食に気を取られて思考能力が止まっていた。
仕方がないわよね。正直に話すしかない。
「陛下との会話は...お菓子とお茶...」
「エッ!何と仰いました?」
「だから、お菓子とお茶が美味しかったとお話しました。」
「... ...お菓子とお茶ですか。」
「お、お嬢様!...本当にお菓子とお茶のお話しをされたのですか。」
コクコクと私はうなずくしかなかった。
「でも、お嬢様。あんなに長く国王様とおられていましたのに、他に何かお話しをされたのでは御座いませんか?それに、国王様は『フローレンス姫。また会おうぞ。』と仰いましたわ。だから、わたくしは国王様との会話が弾んだものだとばかり思っておりましたのに...」
「フローレンス様。あのように長い時間、陛下と何を話されておられたのですか?アンの言うように他に何かお話しをされていたのではありませんか?」
「... 国王様は『この後宮はどうだ?』とお聞きになられて、私が思っていた事をお話ししただけです。
それに、他のことは聞いては下さらなかったし...」
「... だからと言って、そのような事しか話すことがなかったのですか!あなた様はまったく...」
「...お嬢様...」
そんな、2人してため息をつかないでよ!
だって、仕方がなかったんだもん。
それに、馬鹿な子っていう眼で私を見ないでほしいわよ!
私には私の理由があるんだから。
でも、言えない!言えないのよね。なんたって秘密なんだもん。
「フローレンス様。陛下が『また、会おう』と仰ったのですね。」
「セスチャ様。わたくしがこの耳でしっかり聞いておりましたわ。だから、お嬢様とはお会いされるつもりなのだと思います。」
「アンもそのように聞いていたなら間違いないでしょう。宜しいですか!フローレンス様。あなた様は我が国、コット・ランダー国の顔です。即ち、我が国が笑われることになるのです。分かっておいでですね。」
「...はい。」
「セスチャ様。でも、お嬢様は国王様にお会いする前から凄く緊張なされておられました。そこまで仰るのは...」
「まぁ、宜しいでしょう。フローレンス様。記憶がないとは言え、思い出して頂くためにもみっちり勉強しなくれはなりませんね。宜しいですか!」
「... ...」
「お嬢様。国王様のお眼に叶いますように、わたくしもお手伝いをさせて頂きます!」
先生。勉強すれば記憶が戻ってくるのか?そんなことはないだろう!
アン。あんたは私が国王と結婚するのが夢なのか?そんな事は断わる!って私はこの2人に言いたい!
そんなことより、私が見た夢のほうが気になっているのに。
陛下と、どうだこうだってのはどうでもいい!って言ってもいい訳ないけど、今は何も考えたくない!




